尖閣諸島問題に強気の中国、海洋戦略に際立った変化
【大紀元日本9月15日】東シナ海の尖閣諸島(中国名・釣魚島)付近で起きた海上保安庁巡視船と中国漁船との衝突事件は、逮捕された船長を除く14人の船員全員が13日、事情聴取を終え、中国政府のチャーター機で帰国し、漁船も近く帰還する見通しだ。
逮捕された船長について、日本政府は主権問題ではないとした上で「国内法に従って刑事事件として手続きを進める」との見解を発表。中国外交部の姜瑜副報道局長は、14日の記者会見で、逮捕された船長の即時解放を求め、衝突事件以来見せてきた強硬な態度をあらためて強調した。「日本側の挑発により引き起こされた深刻な事態であり、日本側はすべての責任を負うべきである」と陳述した。
また、15日に予定していた全国人民代表大会(全人代)の李建国副委員長が、訪日を急きょ延期した理由について、「各方面の要素を総合的に考慮した」と、姜氏は説明しているが、尖閣諸島問題に対する反発が背後にあることは否定しなかった。
中共の海洋政策に重大な変化か
領土問題において、中国側は日本に対して、今まで以上に強硬な態度を取っているとロイター通信とAP通信は指摘する。
12日の時点で、中国外交部は日本政府の事件調査について、「強固に反対する」と声明を出し、「このような行動は、いかなるものでも違法であり無用で無駄である」という見解を示した。さらに当日、戴秉国国務委員(外交担当)は、中国に駐在する丹羽宇一郎日本大使を呼び出し、船員らの無条件帰国を求め、日本政府に「賢明な政治決断を下すよう」警告した。
外務大臣よりも格が上の副首相級の戴国務委員まで、事件の解決に乗り出したことについて、ロイター通信は両国の領土紛争がヒートアップしたと分析し、AP通信も「極めて異例なこと」としている。
中国の強気の対日外交に、米VOA中国語サイトは12日、「尖閣問題における中国の圧力は、最近の南海での一連の動きを含めて、中国の海洋政策に重大な変化が現れたことを意味する」と指摘。
日本在住の中国問題専門家であり、当代中国研究センター代表を務める楊中美博士は、米VOAの取材に応じて、これまでの尖閣諸島で起きた摩擦に対して中国政府は問題が大きくならないように対応してきたが、今回の中国の対応は今までの「日中友好優先」のスタンスと明らかな違いが見られていると指摘した。
楊博士によると、尖閣諸島周辺で台湾の漁船と日本の漁船が衝突する事件はしばしば見られるが、中国の漁船がこの地域で日本と衝突するのは極めて稀である。この海域は中国漁民の活動範囲ではなく、主に台湾と日本の漁民が作業する地区であるという。
「最近中国の大量の漁船が、中国の海監船の保護下で、南海で漁業活動を行っている。南海諸国は直接中国の漁民を追い出すことができないため、事実上、中国政府南海での主権を訴える活動になっている」と楊博士は、最近の中国の南海での動きについで言及し、今回の尖閣諸島の問題における中国政府の強硬な態度も考え合わせ、中国の海洋政策に重大な変化が生じたのではないかと分析している。
米国の客員研究員で、中国問題を専門とする首都師範大学元教授孫延軍は、本紙の取材に応じて、尖閣諸島の東海海域より、北京当局の注意力は南海にあると分析している。
「南海は東北アジアと東南アジアの経済動脈であり、南海を牛耳れば、東海の争議と台湾問題とも戦わずに勝つことになる」「東南アジア諸国の実力は弱く、ほかの国際社会の政治勢力が南海問題に深く介入する理由はない」という。
尖閣衝突事件で国内の危機を減圧
さらに、孫教授は、尖閣諸島問題における今回の中国の狙いは、抗日戦争勝利記念日のタイミングを利用して領土の争議問題を挑発し、現在中国国内の危機を減圧することにあると指摘する。同時に、尖閣諸島問題で、ある程度の政治的な緊張を保ち、今後の国際問題における切り札として利用するだろうと事態を読み取る。
「現在中共は内外とも大きな危機を直面しており、尖閣諸島問題を解決力もないし、日本との外交関係を破壊するところまではやらないだろう。このようなパフォーマンスは今後も演じるだろうが、戦略として尖閣問題を第一にすることはない」と語り、中共の海洋政策の最優先は南海にあるという見解を示している。
「南海領土問題では、他国との衝突を通して領土を徐々に回収し、中国国民に求心力をアピールし、生き延びる時間を生み出して、現在の政治危機を乗り越える狙いだ」という。
中国国内メディアや運動家らは当局に、領土問題に対してもっと強硬な態度をみせるよう求めている。中国政府が国家主権を守れなければ、国民の前で面子を丸つぶしにされ、高まる民族主義の感情はいつか反政府運動へと発展しかねないことを危惧しているとAP通信は分析している。
また、米シンクタンクのジェームズタウン基金会の研究員が10日に発表した「琉球列島における中国の策略」では、北京当局は争議のある尖閣諸島問題を利用して政治的、心理的に日本を操る策略であると指摘している。2005年の尖閣諸島の摩擦では、中国国内で反日運動が盛んに行われている。尖閣諸島問題において、中国は日本の過去の戦争の問題を掌握することで、中国民衆の愛国感情を利用してうまく日本に圧力を掛けるねらいだという。
尖閣諸島問題は近くに鎮まるか
シンガポール国立大学東アジア研究所の林志佳助理研究員は、「BBC中国語ネット」の取材に応じ、日本の民主党は現在、総裁選挙を控えているため、船長を引き続き拘留し、国内法で処罰する意向を示したのは、中国に対して弱腰だという印象を日本国民に与えたくないからだとしている。特に日本のマスコミは一様に中国側を非難しているため、何もせず船長を含む全員を帰国させたなら、現在の総裁選に影響しかねないと見ている。
さらに、日本政府にとって、今回の漁船接触事故で米軍の日本駐留に反対する国民を説得するための良い理由を見つけたとも分析した。
近年日本との衝突に強硬な態度を見せてきた中国だが、今回の事件が両国の関係に影響を及ぼす可能性は低い、と同研究員は指摘している。
その理由として、自民党より民主党が中国寄りの姿勢をとっていること、そして両国の間に領土問題、歴史問題はあるが、経済協力こそ両国にとって最重要だと双方も認識していると同研究員は上げた。
シンガポールの中国語紙「聯合早報」は13日付けの記事で、尖閣諸島問題は繰り返されて発生するが、中国、日本、米国の三カ国の利益に関わるため、さらに、中共の「戦うが破らない」との方針もあり、毎回、短期的な現象で終わっていると分析する。
台湾淡江大学の国際事務・戦略研究所の林中斌教授は、「聯合早報」の取材に対して、今回の尖閣諸島の発生は、日中両国とも必要であると指摘。日本側は民主党党首の選挙が起きる時期に、尖閣諸島問題で投票を獲得する機会になると状況を読む。
一方、中国側は、胡温政権の改革を推進させたい意図で、外交問題が内部の改革まで影響することは望ましくないため、表面上は強い姿勢を出しているが、経済上の考えから、また、毛沢東時代からの日本との外交関係において、「戦うが破らない」との方針を取ってきたため、尖閣問題を大きく発展させることはないとしている。
同じく台湾淡江大学の国際事務・戦略研究所に務める翁明賢教授は、尖閣諸島問題の主役は実は米国であると指摘し、台湾にも関わっているため、日本も問題の拡大化を望んではいないため、近いうちに鎮まるだろうとしている。