ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(10-4)
【大紀元日本10月19日】神亀に導かれて歩いているうち、海岸端の竹芝ふ頭までやって来た。照明の少ない、薄暗い中で、中秋の月光に照らされて、何やら人影が見える。遠目でも、白い三角巾が目立つ輩だ。「・・・おい!夜遊びは止めたんじゃなかったのか!」と声を掛けると、相手はギクッとして、「・・・張の兄貴・・人が悪いなぁ・・もうすぐ取引なんですよ・・やっぱり来てくれましたか・・」などと順逆のないことを言っている。
見ると片手にジュラルミンのケースを提げているので、「地上げの集金か?」と水を向けると、「・・・二億用意しました・・騙し取られないように現物の確認だけはしないと・・」などとやりとりをしている内に、どこからともなく大型トラックがやってきて面前で止まった。暗闇の中でも、トラックの横腹には「中国上海食品公司」と読める。
果たしてさっそうと降りて来たのは、十字架を月光に光らせたジェームズ劉その人であった。「・・・待たせましたね・・では、さっそくに現物の確認をしてもらいましょうか・・」と言うなり、分厚い後部ドアを重々しく開けた。中からは、冷凍車らしく白い冷気が漂って来る。
劉は、堆く積まれた木箱を一個取り出すと、中を開陳した。上部には「美味栄養・・上海蟹」などと書かれている。劉は、それらを取り上げると「・・この蟹だけでも、ちゃんとした取引になるんですが・・・」と前置きした上で、下部にある「中国北方工業公司」なる木箱を開けた。それは、果たして冷凍された六輪であった。
くだんの青山の舎弟は、「・・ちと拝見・・」と言うなり手にとった。「・・人民解放軍の54式だな・・悪くない品だ・・そっちの中国製ウナギの下には、何が入っている?」と聞くと、「・・・北の68式だ・・中国製と北朝鮮製を合わせて1000丁を調達した・・弾丸は一万発ある・・その冷凍中華饅頭の下だ・・」と悪びれずに言う。
「・・おまえが、日本の暴力団に六輪を卸していた胴元の違法業者だったとは・・ジェームズ劉!おまえが、なぜ大陸のアングラ宗教をやっているか、これでやっと分かったよ!」と言っても、頓狂な目をしているので、「・・この前、おまえの所の欠食児童を面倒見た、帰国者の張だよ!」と言うと、何か得心したのか、「ふぅ」と得体の知れない微笑を浮かべ、54式を一丁とると、冷凍饅頭の下から弾倉を取り出し、ゆっくりと装填した。
「・・張 帰山・・いい名だ・・できれば私も、帰る所があれば帰りたい・・私の祖父とその仲間は・・高砂義勇軍として餓島や墓島に斥候部隊として日本軍に従軍した。先祖伝来の蛮刀一つで、ジャングルを切り開き・・米軍の機銃掃射に悩まされながら・・それでも生き残って帰ってきた・・」、「・・そんな祖父たちが、命懸けで台湾に復員したときに待っていたのは・・国民党の日語狩りと・・日本政府の軍人恩給凍結という冷たい仕打ちだった・・。」月光の下で吼える劉の相貌から流れる涙が、胸の十字架と相俟って、時折キラキラと光る。
「・・それでも祖父たちは、最後まで笑って死んでいったよ・・靖国の英霊たちに参拝し・・日本が自分の祖国だと言い続けてね・・」、「・・それで、日本との混血児を・・日比混血児を面倒見ているのか・・しかし、それは正しい方法なのか?おまえは、義賊なのか?・・うん!?」私は何か、中国大陸の妖気のようなものを感じ取った。
「邪魔をするな・・張 帰山!・・できることなら、お前をやりたくはない!」気が付くと、劉は54式の銃口をこちらに向けている。銃口に気が見事に通っている。これは、劉の射撃の腕前が、かなりの程度であることを意味している。劉は、青山の舎弟からジュラルミンケースを受け取ると、「・・中身は確認しないぞ・・誤魔化せば、お互い命はないからな!」と吐き捨て、どこからともなく岸壁に接岸した白いクルーザ-に飛び乗ると、「張先生!再見!」と言い残し、漆黒の東京湾の闇の中に消えていった。
「おい!何丁あるか念のために数えてみろ!劉の奴は誤魔化しているかもしれんぞ!」と青山の舎弟分を促すと、「それはそう・・」と後部扉から中に飛び乗った。私は、これ幸いと後部扉を厳重に閉めると、妖怪携帯で警察に連絡した。「・・もし、もし・・竹芝ふ頭からなんですが・・所轄の美美理署でしょうか・・・54式と68式の拳銃合わせて千丁を押収しました・・はい、実弾とやくざものも一人冷凍になっております・・最近、日本の公安は腰が引けてるようですが・・安全な捕り物ですのでよろしく・・・」。
(続く)