【大紀元日本8月9日】東京の新橋は、所謂日本の中堅サラリーマンが集まっている「お父さん」たちの街だ。JR新橋駅前のSL広場を中心に、大小さまざまなオフィス・ビルが立ち並び、またこれらサラリーマンを顧客として、「和・洋・中」の飲食店が立ち並ぶ。夕刻ともなると、サラリーマンが顔を酒気で赤くしながら、「サービス残業」の疲れを癒すところでもある。
私はその日、元国士の小森君に勧められて、新橋に出向いてみることにした。「あそこのSL広場で演説されている日本国士連盟の盟主さまの話は誠に心洗われます。是非、張先生も・・」という強い進言もあったからだ。「ニャントモ馬鹿な人たち・・」と猫の目女に痛く馬鹿にされたものの、日本の国士がどのような話をするのか興味もあったので、小森君を助手席に乗せ、SL広場なる地点を目指した。
新橋のSL広場に到着したのは、既に夕刻の六時頃を回り、陽はすでに大きく傾いていた。広場では、既に日本国士連盟の盟主と思しき人物が、マイクを片手にボルテージの高い演説をしている。「こんばんは!盟主の鈴木倫です・・・ですので、日本の皆さん!・・日本には既に、中国共産党の洗脳の魔の手が迫っているのです!・・・全国に蔓延る日本媚中派文化協会の中文教室、太極拳教室、果ては中華料理教室など諸々の文化教室は、果たして何なのでしょうか?何を教えているのでしょうか?・・・人民日報を文化教材にして、そのプロパガンダを日本人に教えているのではないでしょうか?・・」。なかなか熱の入った演説に、酔っ払った帰宅途中のサラリーマンが、顔を真っ赤に上気させながら、野次を飛ばしている。「いいぞー!その通りだっ、もっとやれー!」。
往来の雑踏の中のサラリーマン諸氏は、日常の見慣れた風景なのか、大方はやり過ごして飲食店の中に消えている。私は、いたく興味を引かれたので、もう少し聞いてみることにした。「・・・ですので、日本の皆さん!中共は、既に文革で人民を8000万人も殺しているのです。その中共がです!自らの党の国内犯罪を棚に上げて、日本の戦争犯罪を60年以上経ってからでも、告発し続けている!さらには、小学校の教科書にまで『日本鬼子』という言葉を入れて、若い中国人児童に反日教育を施している・・これでいいのでしょうか?!」なかなかの弁舌に、私は段々と居ても立ってもいられなくなった。
私は、やおら真っ黒な街頭宣伝車に近付くと、「すみせん、ちょっと失礼!」と鈴木盟主からハンドマイクを引ったくり、やおらアジ演説を試みた。「日本の皆さ~ん!これまで、あるところにお隠れになっていた日本のクニ魂が、既にお出ましになって、日本のいわば正当な民族精神といいましょうか・・精神的な価値が復興されようとしています・・全くおめでたい!」とぶち上げた。すると、往来のサラリーマン諸氏は、真っ赤な顔で「はっ」と振り返り、「・・うぃーひっく、クニタマだってぇー、カキタマの間違いじゃないのか?・・・帰りにテンシンドンでも食べて帰ろう・・」などとやっている。
往生なサラリーマン諸氏の一人が、「・・・じゃ何か!?そのクニ魂様とかがお出ましになると、何かいいことでもあるのか?所得税減税でもやってくれるのか?それともキタが拉致被害者を帰してくれるとか?それに・・・どうして、出てきたって分かるんだ!?」と野次るので、「・・・そうですね、具体的に、こうとは言えませんが・・・これまでは芸術が人生と分離していましたが、これからは、人生の価値と芸術の価値が一体化していきます・・それも民族的な精神の上に美しく・・」と言うと、「・・だから、その何とかクニ魂様が、どうして出てきたって分かるんだ!!」と広場の熱気が上がってきた。
「そうですね、価値観が転倒し始めるので・・その前にクニの劫が清算されますので、やはり台風などの天変地異の他、政権の交代などもあるやもしれません。地民党が転覆して、民洲党が政権を執るとか・・・民族的な英雄も人物として出てくるやもしれません・・いずれにせよ、日本のクニ魂は長いこと眠っていました・・・」とここまで解説したところで、「あ~馬鹿馬鹿しい!日本経済と景気には何の関係もないや~」と聴衆は雲散霧消してしまった。
すると、隣の鈴木盟主が静かに手を差し出すので、何やら落胆の気持ちでハンドマイクを返した。すると、制服を着た若い国士が一冊の本を手渡してくれた。「日本の国魂『桜の精神』-咲くのも一緒、散るのも一緒-鈴木倫著」と読める。本を手に街頭宣伝車を降りた私に、小森君が声を掛ける。「・・いやー張先生、誠に凄い演説でした。それに、あっ!鈴木盟主の本まで貰って!」「欲しいなら、あげるよ・・」と手渡すと、「あっ、これは国士の中では、名著ですよ・・やっぱり張先生は違うんだなぁ、こんな本まで貰うなんて・・」などと脳天気に感心している。
私は帰りすがら、腹が減ったので、日本の庶民食である「日本そば」を小森君と立ち食いした。日本のサラリーマン諸氏に混じって食べる日本そばの味、スープの鰹だしの香りが、いやに「・・にゃんとも、馬鹿な人たち・・」という猫の目女の一言を脳裏に蘇らせたのだった・・・隣の小森君は、くだんの一書に釘付けになって、そばを啜りながら、目を皿のようにして読み耽っている。
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