モーリス・センダックさく「まよなかの だいどころ」

【大紀元日本5月26日】ホッチキスがワニの怪獣の顔になり、縄跳びのヒモが魔法の梯子となって、スルスルとお空から降りてきます。子どものゴッコ遊びの世界は、ファンタジーが溢れるばかりの豊かさでキラキラ輝いています。そこには子どもの良心や恐怖や不安を操る怪獣も棲んでいます。子ども心のうっそうとした原生林を育てる舞台が、絵本の中にはぎっしりと詰まっているのです。

特にモーリス・センダックの絵本には子ども心の50%のワクワクと、50%のドキドキが絶妙にミックスされていて、お母さんも夜になると繰り返し枕元で声を出して可愛い子どもに、一所懸命読んでみてあげたくなるのです。そんなときは揺り篭のリズムを大切にゆっくりと、子どもの胸のトキメキの鼓動を感じ取ってあげてください。

大人は子どもの世界からたった一歩を踏み出しただけなのに、リアリズムが支配する窮屈な『理靴』を履いてつくられた幸せを膨らまし、影の国をせわしく歩き回っている住人のようです。それは子どもたちにとってはまとわりつく傍にいて、とても退屈な世界にきっと見えることでしょう。ファンタジーがないお話はいつだってつまらないし、真実のチカラのドアを解き放つものから、ほど遠いものだということを子どもたちは直感的に知っているからです。

モーリス・センダックは1928年6月10日に、ニューヨークに生まれました。家では台所が遊び場だったようです。センダックは台所を仕事場にして、誰にも書けない詩を創作する詩人のようです。「まよなかの だいどころ」の主人公は、ミッキーという男の子です。ミッキーがおやすみの電灯を消して寝ていると、隣からさわがしい音が聞こえてきます。「うるさいぞ しずかにしろ!」とどなったら、くらやみにおっこちて、はだかになって家の壁を通り抜けて、あら不思議・・・「まよなかの だいどころ」に着地しました。

「まよなかの だいどころ」では三つ子のように瓜三っつな3人のパン屋さんが、良い子のみんなが食べる「あさのケーキ」を夜通しつくっていました。そこへミッキーが紛れ込んで、パン粉のように一緒にこねられてしまいます。ぷんぷん怒ったミッキーは「ぼくとミルクをまちがえるなよ。ミルクはミルク ぼくはミッキー!」と勇ましく抗議します。

どうした訳か? 今夜の「まよなかの だいどころ」には、ケーキを仕上げるミルクがありません。それで3人のパン屋さんは、ミッキーに「ミルクがないと、あさのケーキがつくれない!」とミルクを手に入れてくれるよう懇願します。

ぼくの名前はミッキーだ、お安い御用とばかり真夜中の台所のミルキーウエイ(あまのがわ)まで、小麦粉をこねてつくったお手製のヘリコプターに乗り込んで、颯爽とお出かけします。この時とばかりミッキーの顔は、それはそれは得意満面の喜びに満ちています。「ぼくがミルクのなかにいて、ミルクはぼくのなかにある」「ミルク、ばんざい! ぼく、ばんざい!」。小躍りしてミッキーは、天の川の牛乳瓶からパン屋さんのボールへと、ミルクを流し込んで無事大任を果たしました。

調理道具のロートはラッパになり、小麦粉をかき混ぜる大きなスプーンはたちまちウクレレのような楽器に早や変わり・・・何やら最高に楽しい演奏会の始まりのようです。いよいよケーキづくりも大詰めの段階となって、3人トリオの同じ顔のパン屋さんが声高らかに歌います。「しあげは ミルク! しあげは ミルク! さあ、できました!」「これでいうこと ありません!」

夜通しケーキづくりのお手伝いをしたミッキーは、天の川の牛乳瓶の上で一声「コケコッコー!」と叫ぶと、元来た道を逆戻り。「すべっておりると」「まっすぐベッドにもどって」幸せを噛みしめるようにすやすやと、けれども何事もなかったかのように今は眠っています。一緒に天の川まで冒険したヘリコプターのおもちゃは、ミッキーの寝室の天井の電灯の笠に吊るされて、子どものファンタジーの出番をいつでも待っています。こんなおもちゃの一つや二つをおまじないのように、枕元に忍ばせて眠ったことはありませんか?

ミッキーは真夜中の台所の大冒険を通じて、「ぼくらが まいあさ かかさずに ケーキを たべられるわけ」をすっかり知る事が出来ました。これこそファンタジーがもたらす真のちからなのです。ミッキー! どうも有り難うございました。

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