大病患う中国医療保険制度

中国改革の進展に伴い、中国の医療保険制度の状況は、ますます民衆にとって不利なものとなっている。何千、何万人もの中国民衆は、今の病院、医者は病気を治療して人を救うのではなく、人を殺していると不満を抱いている。中国政府の研究者は、婉曲的に「我が国の医療改革は基本的に成功していない」と述べている。政府は現在、11の部・委員会から成る医療体制改革の合同チームを設け、各方面の利益を総合調整しようとしている。これと同時に、あるウォッチャーの見解によると、中国の医療改革の方向性は、依然として不明であるか、あるいは引き続き誤った道を進んでいるという。

中国の医療制度は、もともと先進的ではなかった。しかし、人民の利益を図るためであると当局が言うところの20年余りの改革の後に、中国民衆は明らかに、中国の医療保険制度は進歩しないどころか、むしろ後退、ひいては大幅に後退したと考えるようになった。

*民謡が訴える民憤*

「医療改革とは、事前に死を見取ることである」「今日も明日も金を貯め、大きな雨傘を買っても、病が一陣の大風のようにやってくると、全て吹き飛ばされてしまう」。中国の民衆の中で流行しているこうした風刺は、彼らの医療改革に対する基本的な評価を反映している。

中国政府国務院発展研究センター等の研究機関が昨年発表した報告は、「我が国医療改革が基本的に成功していない」と認めている。いわゆる改革は、医療の分野においては中国の前進を牽引しないばかりか、むしろ後退させており、これは、既に中国政府と民衆の共通認識となっているといってよい。

*茅於軾:自由化でもなく、公共サービス化でもない*

北京にある民間の天則経済研究所のエコノミストである茅於軾によると、医療は、完全な自由市場化、すなわち自由競争によって全てを決定するか、完全な公共サービス化、すなわち病気を看るのにお金はいらないとするかのどちらかである。しかし、中国は、一方で国家が病院を作り、一方で病院を作った後に、病院自身にお金を稼ぎ、自給自足をさせようとしている。こうした非自由化、非公共サービス化の結果、中国の民衆は、天文学的な医療費を支払っても時宜に適わない医療サービスしか受けられない。

*情報の非対称性 悪事をはたらく医者*

経済学者・茅於軾によると、医療産業はもう一つの特殊な問題を抱えているという。それは、病人にとって不利な情報の非対称性の問題の深刻さが特に顕著になっているということである。中国における、こうした不完全な市場化、不完全な公共サービス化がなされた医療制度は、この問題を顕著に激化させている。

“病人は、自分の病気にどう対処してよいかわからず、医者の言うことを鵜呑みにしてしまう。仮に、医者がお金儲けをしたければ、彼は多くの不必要な検査を行い、高い薬を出し、この中からお金儲けをするであろう。”

医療産業におけるいわゆる情報の非対称性により、医者や病院は、病人に対して不必要な検査を行い、不必要な手術を行い、不必要な薬を出すが、こうした問題は、先進国において遍く存在する。しかし、中国において、この問題は特に深刻であり、近年来悪化が加速している。中国の医療制度の未発展ぶりが著しいことから、自己の手持ち資金で病気を看なければならない。この点についての中国民衆の認識は強烈であり、「中国の医者は人を食べる白い狼」と人々の多くは考えている。

*高級官僚はタダで、貧乏人は費用を負担*

しかし経済学者茅於軾によると、中国の医療改革には、深刻な問題がもう一つ存在しており、それは、改革の基本的方向性の問題であるという。

「現在、中国がどこに向かっているかということについては、なおも不明確である。現在の中国の状況として、高級幹部は100%が無料で医療を受けることができ、医療が無料であるほか、最高品質のサービスを享受することができる。こうした医療サービスは、その趣旨とは正反対である。無料の医療は、もともと貧困者に対するものである。現在、我々の医療は、高級幹部、あるいは中高級幹部を対象としている」。

いわゆる民主国家においては、低収入の社会の下層者は、政府が提供する無料の医療サービスを享受してしかるべきである。しかし、中国においては、医療改革の実施後、低収入の社会下層者は、無料の医療サービスを受けることができなくなった。病気になって医者にかかろうとすると、収入が中レベルの家庭は破産する。また、無料の医療サービスは、収入の高い高級幹部の専権となっている。

*厳元章:権益資本主義政策*

北京の社会評論家である厳元章の見解によると、こうした、社会の大衆に損害を与える状況が中国に出現したのは決して偶然ではなく、執権者による既定の国策によるものである。なぜなら、中国の執権者が現在実施しているのは権益資本主義であり、その目的は、権益階層が中国の民衆から強奪を行って自分が金儲けをすることであり、民衆の死活問題には構わないのである。

「これは、基本的な公民道徳、基本的な公平感を喪失した、強盗タイプのグループが必然的に行うことであり、必然的に進む道である。彼らは、世界資本主義と競争しようとし、医療保険という社会公共支出を抑えようとするのである」。

厳元章によると、中国の医療制度は、現在、貧困者、社会における広大な下層人民に害を及ぼすものであるが、中国の執権者は改革の方向性に対する認識が不明確というわけではない。彼らの目的は明らかで、それは、すべてを省みずに中国の民衆から略奪を行うことである。現在、中国に求められるのは、魯迅のような、民衆に中国社会の病状に対する認識を喚起する人である。それによってはじめて、医療制度及び制度の病状を根本的に変えることができるのである。

また、中国政府系の新華社の報道によると、中国国家発展改革委員会の官員・王東生が述べたこととして、中国の医療改革は今に到っても全く改善されていないが、それは「主として、現在に到っても、改革の方向性が明らかでないことによる」という。

[VOA18日=ワシントン記者・斉之豊]
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