中国経済の現状と展望 その一

【大紀元日本12月19日】程暁農:1985年、中国人民大学大学院修士課程経済学研究科修了後、全国人民代表大会常務委員会研究室を経て、経済体制改革研究所に勤務、経済体制改革研究所主任、副研究員を歴任、前趙紫陽首相が主導した改革における中枢の一人として活躍。1989年の天安門事件後、ドイツ経済研究所、プリンストン大学客員研究員を経て、同大学において社会学博士を取得。《当代中国研究》の編集責任者。

11月上旬、程暁農氏は一週間の日程で台湾を訪問、中国経済についてのシンポジウムに出席、台湾経済界と中国経済について議論した。以下程暁農氏の中国経済に関する見解である。

私は先にお話しておきたいことがあります。私の中国経済についての見方は、十数年前とあまり変わりはありません。しかし、現時点においては、恐らく世界の中でも少数派であり、マスコミの一般的な見方、西ヨーロッパ諸国の中国経済の専門家の見方とは、大きく異なると思います。なぜ、それほど大きく異なっているのかと申しますと、統計データに対する見方あるいは、見る角度が違うことにあります。率直に申しますと、海外の一部の中国問題の専門家は、中国大陸の事情に関して、それほど詳しいと言う訳ではありません。主に中共政府が公表した統計データを頼りに、中国経済を分析しているという状況にあり、それは霧の中で花を見ている様なことではないかと思います。

統計データは政治的宣伝に必要

先ほど、「中国経済の成長率8%という数字は、とても良いのではありませんか?何か問題があるのでしょうか?」という質問を受けましたが、実は何度もマスコミからこの質問を受けました。私の結論を申し上げますと、この8%の成長率は、決して信頼できるものではありません。それでは、この問題について分析していきたいと思います。

市場経済の国々における経済成長率は、互いに比較することができますが、中国の成長率は単純にそれらの国々と比べることはできません。簡単に申しますと、体制が異なっているからです。中国は既に市場経済へと転換されたと思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、私の見方はそうではありません。中共の集権統制下において、市場経済へと転換する可能性はほぼあり得ません。現在の中国の経済体制は、官僚支配の経済と市場経済によって混乱している状態と言えます。経済学では、市場は常に「見えない手」によって調整されているとも言われています。現在の中国経済はその「見えない手」が、「無数の官僚の手」によって束縛されているのです。しかも、こうした「無数の官僚の手」は、決して国家の利益や政策目標のために、経済をコントロールしているのではなく、個人の利益、汚職賄賂のためと言っても過言ではありません。こうした状況下での経済活動は、無数の官僚の個人的意識の現れ、というものになってしまいました。

そのために、中共政府が公表した資料、特に成長率のようなデータに対しては、慎重に分析する必要があります。これら資料やデータの信憑性という問題は、中国の政治体制に関わっています。中国の情報を集める際、皆さんに意識して頂きたいことがあります。それは、未だに中国は独裁体制であり、少しも変わってはいないと言うことです。世界中のほとんどの国に存在しない宣伝部という組織が、中共の下において、中国のすべてのマスコミを支配しています。その宣伝部の役割は、中国の国民や国際世論に対して、中共が良い政権であるということを、信じさせるためのイメージや環境を作り出すことなのです。

中共宣伝部の運営方針には、良好な国際イメージを作り出すということが明記されています。作り出すイメージには、経済に関する統計データや社会環境など様々なことが含まれています。世の人々に知ってもらおうとすることは、すべて中共が許可したものだけなのです。ここで、強調しておきたいことは、そのすべてが中共の独裁政権のためであるということです。従って、中共政府が公表したものは、すべて選別されたものであり、中国の新聞を見たならば、すぐ分かることではないかと思います。つまり、良いニュースであれば、大々的に取り上げ、悪いニュースであれば、できるだけ報道しないようにしているのです。SARSの被害が拡大した際にも、半年もの間、真相を隠し続けていました。昨今の鳥インフルエンザに関しても、中共が提出した数字をそのまま信じてしまったならば、大変なことになるかも知れません。中国の国民には分かっていても、どうにもならないことなのです。中国人は「人民日報で本当のことと言えば日付だけだ」と言った冗談を交わすことがありますが、このような中国事情に詳しい方は、国外にどの程度いらっしゃることでしょうか。

情報が閉鎖された社会

1986年、全人代の常務委員会に帰属する政府機関に勤務しましたが、使用した部屋は前副委員長の事務室でした。前任の副委員長が移動したにも関わらず、政治局委員に配布されるすべての資料が相変わらず配られてきました。お陰で、中共政治局委員しか見ることのできない資料を見ることができました。政治局委員が一日に見る資料は、膨大な量があります。当時、私は修士を修めておりましたが、それでも8時間ほど掛かりました。分かるか否かは別として、彼らのような高齢者にはすべてを読み切ることは、ほとんど不可能なことだと思いました。

様々な資料の中で、国家統計局による極秘という「統計報告」がしばしば見られました。これは国家統計局がトップクラスの官僚に送付したものであり、一般の政府部門やマスコミに提出した「統計資料」と比べ、内容的に大きく異なっています。具体的に申しますと、「統計報告」はより真実に近いものです。あくまでもトップクラスの官僚を対象とする資料であるため、様々な問題点について詳細に記載されています。中国大陸のマスコミを研究されている方は良くご存知だと思いますが、経済などのニュースについての報道の前半は、ほとんどが政治的な宣伝になっています。ニュースとして価値のあるものは、ほとんどが後半にあり、特に「しかし…」という書き出し部分の一言、二言が要注意のポイントとなっています。

中共の政治局委員に送付された「統計報告」における「しかし」の続きは、詳細なものであり、この問題は深刻なものである云々、どのような問題に繋がる云々と言ったように、詳しく記載されています。この「統計報告」の送付対象は、30人に限られています。政治局の候補委員さえ見ることが出来ません。中央テレビや人民日報をはじめとする各マスコミの報道はどこまでが本当なのでしょうか?どの程度本当のことであるかということを、皆さん考えてみてください。こうした体制の下、マスコミは粉飾された宣伝を大きく取り上げ、問題点を一言でごまかすといった報道を行っています。外部の人々は宣伝による経済状況を知らされているのです。(続く)

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