膝の状態から考える全身の健康 中医学が考える体のつながり

中医学の観点では、筋骨格系と脳は完全に切り離されているわけではなく、根底にあるエネルギーの系統でつながっています。そのため、両方を同時にケアできます。

以前、膝の痛みで歩くのが難しくなり、認知機能も少しずつ衰えていた95歳の女性を治療したことがあります。彼女は、家族の顔が分からなくなり、うつろな表情で、ほとんど話さなくなる状態にまで進んでいました。

中医学は、それぞれ別の臓器に関連する5つの異なるエネルギー系統を認めています。腎のエネルギーの一種である「腎精」は、骨や腱、脳髄を養います。

この観点では、脚や腰の弱りと脳機能の低下は、腎精を補い、「腎陽」と呼ばれる腎の温めるエネルギーを強めることで対処できます。

私は彼女に、腎精を補い腎陽を温める、よく知られた強力な漢方薬の右帰丸(うきがん)を処方しました。

治療後、彼女の膝と脚はしっかりしてきました。人の顔も再び分かるようになり、直前にあったことを覚えていられるようになりました。意識もはっきりして、お気に入りだったベタな冗談まで、また言うようになりました。

この処方が認知症を元に戻せると言いたいわけではありません。彼女は以前の機能レベルまで完全に戻ったわけではないからです。ただ、彼女に見られた改善は、家族にとって大きな慰めになりました。

中医学は体を、互いにつながり合う系統として捉えるため、根本にある弱りを支える治療ができます。また、中医学は常に患者一人ひとりに合わせて行われます。
 

膝のための自宅ケア

膝の痛みは、軟骨のすり減りだけが原因とは限りません。膝に痛みがある場合は、次のうち、症状全体に最も当てはまるものはどれかを考えてみてください。

骨盤から脚にかけての負荷が偏り、膝の痛みやふらつく歩き方の一因になっている。

頭や首の慢性的なこわばりがあり、頭がぼんやりする、集中しにくいといった症状を伴うことがある。

疲れやすさ、食欲不振、腰や膝の弱りがある。

1. 下半身の負荷バランスを整える

膝の痛みは、骨盤や股関節のずれや、体の左右で筋肉や軟部組織の張り、長さ、強さが異なること(アンバランス)に関係していることがあります。

こうした問題があると、脚の長さが違って見えたり、歩くときに体重が片側に寄ったりします。

中医学では、骨が正しく並び、腱がしなやかであれば、気(生命エネルギー)と血がよりスムーズに流れると考えます。気や血が滞ると、痛みや病気が生じます。

脚の長さに差(脚長差)があるかどうかを調べるには、仰向けに寝て内くるぶしの位置を比べ、うつ伏せに寝てかかとの位置を比べ、さらに靴底のすり減り方が左右で似ているかを確認します。

ただし、こうした観察だけでは、骨そのものの長さの違いによる「構造的な脚長差」と、骨盤、股関節、筋肉、その他の軟部組織のアンバランスによる「機能的な脚長差」を見分けることはできません。

差が大きい場合や、膝の痛み、腰痛、ふらつく歩き方を伴う場合は、靴の中敷きなどで自分で補正しようとせず、資格のある専門家にさらに詳しく診てもらってください。

2. 頭と首のこわばりをほぐす

頭や首の慢性的なこわばりが、膝の痛みの一因になることがあります。頭と首のこわばりをやわらげるのに役立つセルフマッサージが2つあります。

  • 頭皮を指でとかす:10本の指を自然に広げ、指の腹を使って、前の生え際から後ろに向かってとかします。頭頂部を越えて後頭部まで進み、そのまま首の後ろを下に向かってとかします。これを36回繰り返します。

中医学では、頭皮を指でとかすと、頭の主要な経絡である督脈、膀胱経、胆経が刺激され、血と気が頭や顔に巡るとされています。また、頭や首のこわばりをほぐし、頭の冴えを高めるのにも役立ちます。
 

  • 頭頂と頭蓋底をマッサージする:頭皮をとかしたあと、頭頂のツボと、頭蓋底にある2つのツボを、それぞれ36回マッサージします。頭頂のツボは「百会(ひゃくえ)」といい、頭のてっぺんの中心で、両耳の上端を結んだ線上にあります。
百会のツボ(大紀元)

頭蓋底の2つのツボは「風池(ふうち)」で、生え際の近くにある、頭蓋底のくぼみにあります。軽く鈍い痛みを感じる程度の強さで押し、鋭い痛みになるほど強くは押さないでください。

風池のツボ(大紀元)

「百会」のツボは、頭の冴えを促し、頭部の気と血を整えるのに役立ちます。

「風池」のツボは、頭と首の気の流れを促します。

この2つのツボを合わせてマッサージすると、頻繁に起こる頭のぼんやり感や、集中しにくさ、頭と首のこわばりの緩和に役立ちます。
 

3. 脾と腎の働きを支える

中医学では、脾の系統は認知機能に関係するとされています。そのため、脾と腎を強めることが重要です。

脾と胃がよく働いていれば、食べ物が気と血に変わり、体を養います。

中医学によると、「足三里(あしさんり)」を刺激することは、脾を強めるための手軽な方法です。

脚を軽くたたく:「足三里」は、すねの上のほうにあります。見つけるには、膝の外側にある、膝のお皿(膝蓋骨)の下のくぼみを探します。そのくぼみから指4本分ほど下に進み、さらにすねの骨(脛骨)から指1本分ほど外側に寄ったところです。

軽く丸めた手のひらでその部分を軽くたたくか、指先でマッサージして、少し温かくなるまで続けます。

足三里のツボ(大紀元)

足の裏を刺激する:寝る前に、手が温かくなるまで両手をこすり合わせ、手のひらで左右の足の裏にある「湧泉(ゆうせん)」を繰り返しマッサージします。

「湧泉」のツボは、足の裏の、つま先側から約3分の1のところにあります。腎のエネルギーを刺激するのに役立ちます。

この部分を直接こするほか、かかとの上げ下げでも足の裏が使われ、このツボを刺激できます。

湧泉のツボ(大紀元)

かかとの上げ下げ:しっかりした椅子の背もたれを両手でつかみ、かかとをゆっくり上げて、最長2秒間キープし、ゆっくり下ろします。これを8~10回繰り返します。

この運動はふくらはぎを鍛え、足首の可動域を広げるため、立っているときや歩くときの安定を保つのに役立ちます。

運動中に膝や足首に痛みを感じたり、ふらついたりしたら、すぐにやめてください。

寝る前に「湧泉」のツボをマッサージし、日中にかかとの上げ下げを行えば、足首とふくらはぎをよく動かしながら、腎を支えることができます。
 

グルコサミンをめぐる懸念

膝の健康を支えるために、グルコサミンを飲んでいる中高年は多くいます。しかし、新たな研究により、脳に悪影響を及ぼしている可能性があるのではないかという懸念が出てきました。

動物実験とヒトの健康記録を調べたある研究で、軽度認知障害やアルツハイマー病のある人では、グルコサミンの摂取が、病気の進行が速いことと関連している可能性があることが分かりました。

この結果は、とくに認知障害と診断された後は、サプリメントを使い続けてよいか医師に相談する理由になります。ただし、誰もがやめるべきだという意味ではありません。

全体像を見失わないようにしましょう。歩き方、体の安定感や心地よさ、そして記憶に変化があったかどうかは、いずれも膝のケアを選ぶうえで大切な手がかりになります。
 

(翻訳編集 日比野真吾)

伝統中国医学の医師であり、台湾の「心醫堂中醫診所(しんいどうちゅういしんじょ)」の院長である。2008年に中医学を学び始め、台湾の中国医科大学で学士号を取得。