外来で、ある乳がん患者を診ました。彼女は一度再発し、2回目の治療も受けました。幸いなことに、現在はがんが良好にコントロールされており、定期検査の結果も安定しています。
しかし、彼女が私の前に座ったとき、私は実のところ少し心が痛みました。かなり痩せていたからです。
彼女は私にこう言いました。「先生、今はたくさんのものを食べるのが怖いんです」。肉を食べるのは怖い、がん細胞が大きくなるのが心配だから。でんぷん質の食品を食べるのも怖い、血糖値が上がるのが心配だから。果物も食べるのが怖い、糖分ががんを養うのではないかと心配だからです。家族と外食することさえ、緊張や不安を感じるようになっていました。
私は彼女にInBody検査(体組成計を使った、筋肉量や体脂肪量などを詳しく調べる検査)を受けてもらいました。データを見たとき、実はさらに心配になりました。
現在の体重はわずか 34.6kg で、BMIは14.4しかありません。さらに悪いことに、昨年と比べて体重が 2.5kg 減少し、骨格筋量はなんと2.8キログラムも失われていました。つまり、減ったもののほとんどが筋肉だったのです。
多くの人は、体重が減っても問題はなく、がんさえコントロールできていればよいと考えます。しかし、私が本当に心配しているのは脂肪ではなく、筋肉が急速に失われていることです。
がん患者は筋肉の減少を避ける必要があります
なぜなら、筋肉は単に力を発揮するだけのものではなく、人体にとって非常に重要な免疫器官であり、代謝器官でもあるからです。筋肉が不足すると、体の修復能力、免疫力、体力、回復力がいずれも低下してしまいます。
このような状況は、がん患者では決して珍しくありません。外来では、がんを経験した多くの患者さんが治療後、再発を恐れるあまり、非常に警戒した状態になるのをよく目にします。
毎日のようにインターネットで、何を食べてはいけないのか、何が発がんにつながるのか、何ががん細胞を再発させる可能性があるのかを検索します。それが長く続くと、食べ物はもはや栄養ではなく、ストレスの原因になってしまいます。そして最後には、これも食べられない、あれも怖いとなり、正常なカロリーさえ十分に摂取できなくなります。
食事制限だけでなく、感情も実は非常に重要です。長期間にわたって不安や不眠に悩まされ、検査結果を心配し続けることで、徐々に抑うつ状態になる患者さんもいます。
人が長期間ストレス状態に置かれると、ストレスホルモンが変化し、食欲も低下します。さらに、がん治療後の疲労感や活動量の減少が重なることで、筋肉はより速く失われてしまいます。
多くの人は、少し痩せているほうが健康的だと考えます。しかし、がん患者にとって、過度に痩せることはかえって危険です。
特に注意すべきなのは、脂肪の減少よりも筋肉の減少です。近年のがん栄養医学でも、この問題がますます重視されています。
2025~2026年のがん栄養研究では、がん患者にサルコペニア(筋肉減少症)や栄養不良が生じると、生活の質が低下するだけでなく、治療への耐容性や生存率にも影響する可能性があるとされています。研究では、単に体重が減少しているかどうかではなく、筋肉量が失われていることに注意する必要があると特に強調されています。
がん患者はどうすればよいか
私は患者さんによく、まず第一に、極端な食事制限に陥らないことだと伝えています。
がんと闘うための食事とは、自分を飢えさせて痩せることではなく、体に十分な修復能力を持たせることです。たんぱく質は必ず十分に摂取する必要があります。魚、卵、豆腐、大豆、鶏肉、ヨーグルト、さらには適切なプロテイン栄養補助食品なども重要です。
良質な油脂も欠かせません。例えば、オメガ3、オリーブオイル、アボカド、ナッツ類などは、炎症を抑えたり、体の修復を助けたりするのに役立ちます。
また、でんぷん質の食品を過度に恐れる人も多いですが、適量のでんぷん質の食品は敵ではありません。長期間でんぷん質の食品を摂らないと、ストレスホルモンが上昇し、体がさらに弱ってしまう可能性があります。
そして、必ず体を動かすことも大切です。特にレジスタンス運動、筋力トレーニング、ウォーキングなどが重要です。筋肉は少しずつ取り戻すことができます。
私から皆さんにもう一つお伝えしたいのは、時として本当に人を苦しめているのは、がんそのものではなく、がんに対する恐怖心である場合もあるということです。毎日、不安や恐怖を抱えて過ごしていると、体も徐々に消耗してしまいます。
私は患者さんによく、栄養のあるものを食べることは、がん細胞を養うことではなく、正常な細胞をいたわることだと伝えています。自分自身を過度に制限するのではなく、安定した、長く続けられる健康的な生活習慣を築くべきです。
がんを経験した後の人生では、単に「再発しないこと」だけを追い求めるのではなく、自分の体力、感情、栄養状態、生活の質を少しずつ取り戻していくことが、より重要です。
また、体重が減り続ける、食欲が低下する、疲れやすい、筋肉が減少する、気分が落ち込むといった症状がある場合は、決して単に食べる量が少ないだけだと思わないでください。多くの場合、すでに栄養バランスの乱れやサルコペニア(筋肉減少症)の兆候が現れている可能性があります。早めに調整することが非常に重要です。
参考文献:Martinelli C, et al. Cachexia, sarcopenia, malnutrition and their impact on survival, treatment toxicities, and quality of life in cancer patients undergoing chemoradiotherapy: A scoping review. Clinical Nutrition Open Science. 2026;65:100620.
本稿は許可を得て「劉博仁 栄養・機能医学専門家」フェイスブックより抜粋・編集したものです。
(翻訳編集 解問)
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