冷やすだけでは足りない 大暑に大切な体の熱を逃がす力
7月23日から、二十四節気の「大暑」を迎えます。
その名の通り、一年でもっとも暑さが厳しい時期です。
強い日差しの下では、少し体を動かすだけで汗が噴き出します。そのため、多くの人は冷房の効いた部屋に入り、冷たい飲み物を口にして、暑さをしのごうとします。「熱中症にならないように」と、暑さそのものを避けることに意識が向きがちです。
しかし、中医学では、人体を「小宇宙」と捉えます。
大暑に本当に気をつけるべきなのは、暑さそのものではありません。外気がますます暑くなる中で、自分の体がきちんと体温を調節し、熱を逃がす力を保てているかどうか、それこそが大切だと考えます。
大暑は「夏の土用」 湿気が胃腸を弱らせやすい季節
大暑の頃は、日本でも「夏の土用」の時期にあたります。
中医学の五行では、この時期は「土」の気が盛んになる一方で、湿気も非常に強くなります。五行では「土」は中央に位置し、脾胃(胃腸)も土に属します。
暑さと湿気が重なるこの季節は、「暑湿(しょしつ)」が体にたまりやすく、とくに胃腸が湿気の影響を受けやすい時期です。
脾胃(胃腸)が湿気に弱ると、体の中心で気の巡りを調整する働きが鈍くなります。その結果、陰陽のバランスを整えたり、体のうるおい(津液)を巡らせたり、暑さに対応したりする力も低下しやすくなります。
だからこそ、大暑の養生では、「暑いから熱を冷ませばよい」と考えるだけでは十分ではありません。五行の考え方から見ると、この時季に本当に守りたいのは、体の中心である脾胃なのです。
人の体に備わる「自分で体温を調節する」仕組み
中医学では、人の体は陰陽二つの働きによって動く「小宇宙」と考えます。
陰陽は五行へと分かれ、五臓六腑はそれぞれ五行に対応し、互いに支え合い、抑え合いながら働いています。そのおかげで気の巡りは上下・内外へと絶えず循環し、生命活動が保たれています。
これは一日の太陽の動きにもよく似ています。朝、太陽が東から昇るように陽気は肝から立ち上がり、昼には心の働きがもっとも盛んになります。午後になると陽気は次第に落ち着き、肺がその働きを収め、夜には陽気が腎へと納まり、人も自然に眠りへ入ります。
こうした一日の巡りを支えている中心が、脾胃です。
五行では土は中央に位置し、四方を支える存在とされます。脾胃は車輪の「軸」のような役割を果たし、気の巡りが上下左右へ円滑に動くよう支えています。そのため中医学では、脾胃を「後天の本」と呼びます。
軸がうまく回らなければ、車輪全体が動かなくなるように、体全体の働きにも影響が及びます。そして、この脾胃がもっとも苦手とするのが「湿」です。
放熱できない体は、故障したエアコンと同じ
大暑は暑さと湿気が重なる季節です。
もともと胃腸が弱い人が、冷たい飲み物や冷房の影響を受けすぎると、湿気が脾胃にたまりやすくなります。すると消化吸収(運化)が乱れ、気の巡りも滞り、体が暑さに対応する力も低下してしまいます。
これをエアコンにたとえるなら、脾胃はエアコン全体を動かすモーターや回転軸のようなものです。どれほど性能のよいエアコンでも、モーターが動かなければ冷房は働きません。室内は次第に暑くなってしまいます。
人の体も同じです。
大暑には、体は陰陽のバランスを調整し、気を巡らせ、津液を運びながら熱を外へ逃がしています。脾胃が元気で、気の巡りがスムーズなら、体は暑さにも柔軟に対応できます。
しかし湿気で脾胃の働きが鈍ると、まるで泥で回転軸が詰まったように、体全体の巡りも悪くなります。外から熱は入ってくるのに、うまく放熱できなくなってしまうのです。すると、イライラしたり、体が重だるく感じたり、疲れやすくなったりします。
夜になっても、昼間あれほど疲れているのに気持ちが落ち着かず、陽気が外から内へとうまく収まらないため、眠りが浅くなることも少なくありません。
大暑の養生では、一度こんな問いを自分に投げかけてみるとよいでしょう。
「私の胃腸という”中枢”は、きちんと働いているだろうか」
大暑にハトムギが勧められる理由
ここで役立つのがハトムギです。
ハトムギは古くから食材としても生薬としても利用され、中医学では脾胃を助け、湿を取り除き、水分代謝を整える食材として知られています。その特徴は、単に湿気を体の外へ追い出すことではありません。まず胃腸という体の中心を整えることで、本来の働きを取り戻すことにあります。
胃腸がしっかり働けば湿にも出口ができ、気の巡りも自然に整っていきます。つまり、大暑の養生で大切なのは、冷たいものばかりで体を冷やし、「熱」を無理に抑え込むことではありません。陰陽のバランスを保ち、自分自身が暑さを調節できる力を維持することです。
外が暑いほど、体の「中心」を大切にする。胃腸という中枢がしっかり働き、気の巡りが整っていれば、体は暑さにも無理なく対応できるようになります。
だからこそ、「健脾祛湿(胃腸を整えて湿を取り除く)」というハトムギの働きは、大暑の時季に改めて見直したい食養生なのです。
本当の意味での暑さ対策とは、体温を下げることだけではありません。体自身が暑さを調節できる力を保つことが、何より大切なのです。
一年でもっとも暑いこの時季だからこそ、外の暑さばかりを恐れるのではなく、まずは体の中で働く「中枢」に目を向けてみましょう。脾胃が湿気に負けず、気の巡りが再び整えば、人体という小宇宙は、厳しい暑さにも穏やかに対応できるようになります。
そのためにも、大暑の時季には、ハトムギご飯やハトムギ入りのスープなどを日々の食事に取り入れるのがおすすめです。また、より穏やかな性質の発酵ハトムギを食養生として取り入れるのも一つの方法でしょう。
胃腸という中枢がしっかり働いてこそ、体はこの夏を元気に乗り切る力を発揮できるのです。