年齢を重ねるにつれて、多くの人は少なからず白髪が生えてきます。これは避けられない老化現象の一部のように思われます。多くの人にとって白髪はあまり歓迎されないものですが、健康の観点から見ると、実は悪いことではありません。研究によると、白髪は人間の体ががんに対して持つ天然の防御機能を反映している可能性があるのです。
この研究は日本の東京大学で行われたもので、研究者たちは毛包幹細胞がDNA損傷にどのように対応するかを調べ、白髪とメラノーマ(皮膚がんの一種)との驚くべき関連性を明らかにしました。
同大学が10月20日に発表したニュースリリースによると、髪が白くなることとメラノーマは一見まったく関係がないように思われますが、実際にはどちらも色素を作り出す毛包幹細胞がDNA損傷にどのように反応するかに起因している可能性があるといいます。
毛包内に存在するこれらの細胞は、遺伝子毒性によるストレスにさらされると、次のような重要な選択を迫られます。すなわち、「分化してシステムから離脱する(白髪になる)」か、「分裂を続ける(最終的に腫瘍を形成する可能性がある)」かという選択です。
私たちの細胞は一生を通じて、DNAを損傷させる可能性のある環境的・内的要因に常にさらされています。科学者たちは、こうしたDNA損傷が老化やがんの原因になることをすでに知っていますが、その正確な関係、特に損傷を受けた幹細胞が長期的に組織の健康へどのような影響を与えるのかについては、いまだに解明が難しいとされています。
色素幹細胞は、成熟した黒色素細胞の源であり、この黒色素細胞が髪や皮膚に色をつける役割を担っています。哺乳類では、これらの幹細胞は未成熟な黒色素母細胞の形で毛包内に存在し、周期的に再生を繰り返すことで色素沈着を維持しています。
この研究では、研究者たちはマウスのモデルを用いて、色素幹細胞がさまざまなタイプのDNA損傷にどのように対応するかを調べました。その結果、DNAの二重鎖が切断されるような損傷を受けると、色素幹細胞は不可逆的に分化して毛包から離脱し、その結果、髪が白くなることがわかりました。この過程は「老化性分化」と呼ばれています。
一方、色素幹細胞が特定の発がん物質にさらされた場合、DNAが損傷していてもこの分化経路を回避し、自らを再生・分裂し続ける能力を保持することがあります。しかしその結果、腫瘍が形成されるリスクが高まります。
この研究を主導した東京大学の西村栄美教授は次のように述べています。「今回の発見は、同じ幹細胞集団であっても、ストレスの種類や微小環境からのシグナルによって、『枯渇』と『増殖』という全く逆の運命をたどる可能性があることを示しています」
さらに彼女は、「髪が白くなることと黒色腫の発生は、無関係な現象ではなく、幹細胞がストレスにどのように応答するかによって生じる異なる結果であることが明らかになりました」とも述べています。
注目すべき点は、この研究が「白髪ががんを予防する」と直接的に示しているわけではないということです。むしろ、老化性分化はストレスによって誘発される保護的な反応であり、潜在的に有害な細胞を除去する仕組みであるといえます。逆に、この防御メカニズムが回避されてしまうと、色素幹細胞が残り続け、メラノーマの発生を引き起こす可能性があります。
もちろん、この研究はマウスを対象に行われたものであるため、現時点で人間にそのまま当てはめることはできません。しかし、この研究成果は、髪が白くなる仕組みや、それががんの発生とどのように関連しているのかを理解するうえで、大きな手がかりとなることは間違いありません。
この研究結果は、10月6日付の『ネイチャー・セル・バイオロジー』誌に発表されました。
(翻訳編集 解問)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。