「汗をかいているのに冷える」「あっさりしたものを食べているのにむくむ」――寒湿体質に要注意!
日本の梅雨や蒸し暑い夏の日、たくさん汗をかいているのに手足が冷たかったり、食後すぐにお腹が張ったり下痢をしたりする方が少なくありません。朝起きたときに口の中が粘つき、舌苔が厚く白く、全身がだるくてやる気が出ない──それはまさに「寒湿体質」の典型的なサインです。
中医学では、「寒」は陽気の閉塞を、「湿」は気血の流れを遅くする原因と考えられています。ちょうど雨の日に洗濯物が乾かず、床が滑りやすくなるように、体の中も巡りが悪くなってしまうのです。とくに脾の陽気が寒湿に邪魔されると、体内の「工場」が電源オフのようになり、食べたものをうまく気血や栄養に変えられず、水分や毒素の排出も滞ってしまいます。
夏は人体の陽気が体表に集まりやすく、脾胃(お腹の部分)は比較的陽気が弱くなります。そこで冷たい飲食物を摂ると、脾胃にさらに負担がかかり、より虚弱になり、体温調整がうまくできなくなって、暑さが余計にこたえるようになります。
しかし、この「寒湿体質」も体内に陽気が巡ることで解消できます。大切なのは、正しい方法で経絡の流れに沿って、体を温めるような食事や生活を取り入れることです。それによって体のエネルギーが再び活性化し、湿気が自然に排出されていきます。
脾胃の経絡に沿ってこそ、陽気はめぐる
中医学では「脾は運化をつかさどる」とされており、脾はまるで体内の「加工工場」や「宅配センター」のような役割を担っています。食べた栄養や水分は、脾のはたらきによって気血に変えられ、余分な湿気や老廃物が体外へ排出されるのです。
そして脾の陽気(体を温めるエネルギー)は、脚にある「足太陰脾経(そくたいいんひけい)」と「足陽明胃経(そくようめいいけい)」という経絡に宿っています。これらの経絡の気血が滞ると、脾の陽気はまるで火が消えたようになり、全身が湿って冷え、疲れやすく、食欲も落ちるという悪循環に陥ります。
体質を本当に改善したいのであれば、一番基本で確実な方法は、食事や生活リズムといった自然な手段を活用して、体の経絡の流れに沿って少しずつ陽気を養い、活力ある状態を取り戻すことです。
「ツボ押し」や「艾灸(もぐさで温める療法)」、「温湿布」などの調整法を聞いたことがある方もいるかもしれません。これらは、専門家の指導のもとで行えば、陽気を高め、湿気を取り除き、気の巡りを良くする効果が非常に高い方法です。ただし、体質や体調は人それぞれ異なるため、使う技法や温度などにも注意が必要です。自己流で無理に行うのではなく、中医学の専門家や施術師に相談することをおすすめします。
とはいえ、多くの人にとってもっとも安全で効果的なのは、やはり日々の食事から整えることです。食材を「経絡を通じて陽気を温める薬」に変えていくことで、体の内側から本来のエネルギー循環を呼び起こすことができるのです。
食養生:食べ物で「経絡を通す」内側からの調整
体質改善のために「とにかくあっさり食べればいい」と思っている人も多いですが、寒湿体質の方にとっては、実は「あっさりしすぎ」が逆効果になることもあります。冷たいサラダやスイカ、アイスドリンク、アイスコーヒー……夏の暑さに負けないように思えるこれらの食べ物は、実は体内の陽気をどんどん抑え込んでしまい、寒湿がのさばる原因になります。
中医学では「薬食同源(食べ物も薬と同じ源から)」という考えがあり、陽気を補い脾を元気にする食材は、単に熱量を供給するだけでなく、脾胃経・小腸経などの経絡に働きかけ、体内の「物流システム」のように、陽気を行き届かせ、湿気を適切に排出させる働きがあります。
温陽・除湿に役立つ食材とその作用
生姜、紫蘇、黒胡椒、フェンネル
性質:温性で体表を温める。
働き:寒さを先に追い払い、気の流れを動かす「開路役」。特に脾胃経・肺経に作用し、体内の陰寒を散らします。
山芋、黄耆(おうぎ)、ナツメ、小米
性質:やや温性で平和的。
働き:建材のように気血の基礎を補い、脾の働きを強化。体の「工場」の運転能力をアップさせます。
小豆、はと麦、茯苓、冬瓜
性質:淡泊で利水作用があり、湿を除く。
働き:体内に溜まった余分な水分を排出し、むくみを軽減。小腸経や脾経にたまった湿気を流すのに役立ちます。
これらの食材を中医学の「入経」理論に基づいて組み合わせると、陽気を補いながら湿気を排出する「体内ルート」がスムーズに開かれることになります。単に「栄養があるものを食べる」だけでなく、「体を流れるように食べる」ことが真の養生なのです。
1日の養生メニュー例(寒湿体質向け・1人分)
朝食:山芋とキビのおろし生姜粥

材料:キビ(小米)30g、山芋50g、生姜スライス2枚、ナツメ(紅棗)2個
作り方:キビを洗って水から煮立たせ、角切りにした山芋・生姜・ナツメを加えて弱火で20分煮る
効果:脾胃を温めて補い、陽気を高め、朝の口の粘つきや舌苔の厚さを軽減
理由:粥は消化がよく、キビは脾を助け、生姜は温めて巡りを促し、ナツメは気血を補います。朝に一杯飲めば、脾経を通じて陽気が立ち上がります。
昼食:紫蘇と生姜の鯛めし

材料:白米80g、鯛の切り身80g、生姜千切り、紫蘇の葉2枚
作り方:生姜を香りが立つまで炒め、鯛と白米を加えて10分蒸し煮
効果:気の巡りを整え、胃の働きを高め、湿を取り除いて脾を元気にする
理由:紫蘇は寒湿を追い出し、生姜は食欲を促進。米と魚で「正気」を補い、胃を養いながら冷えも退けます。
夕食:小豆とハトムギのスペアリブスープ

材料:小豆20g、ハトムギ20g、豚スペアリブ80g、生姜スライス3枚
作り方:材料を1時間ほど水に浸した後、水を加えて約40分煮込む
効果:余分な水分を排出し、むくみをとり、脾を元気にして体の中心を補う
理由:小豆は水の通りを良くし、ハトムギは湿を取り除き、生姜はお腹を温めます。骨付きスープと組み合わせることで陰を養い、陽を補います。夜の回復に最適です。
食養生茶:やさしく脾陽を通す「お茶の手当て」
三食のほかに、茶飲みも寒湿体質のやさしい味方です。漢方薬のように苦くもなく、時間や分量に縛られることもありません。食材を正しく選んでバランスよく組み合わせれば、毎日そっと「湿を流す、脾を養う」手助けとなります。
以下の3種類の寒湿を取り除く体質改善茶は、それぞれ風味が異なり、家庭でも揃えやすい食材を使った、寒湿体質向けの調整茶です。体質や好みに合わせて自由に選んでください。
1. 茯苓・陳皮・生姜茶(脾を元気にし湿を取るタイプ)
― 舌苔が厚く、腹が張って疲れやすい人におすすめ
材料:茯苓 5g、陳皮(みかんの皮を干したもの)3g、生姜スライス3枚
作り方:500mlのお湯で10分煮出し、お湯をつぎ足すと1〜2回程度再利用が可能。
効果:脾を助けて湿気を取り、胃を整え痰を解消。体内の水分代謝が悪く、食後に胃もたれしやすい人に適しています。
2. 紫蘇・ミント・ナツメ茶(寒さを散らし気を巡らすタイプ)
― 胸が重くお腹が張り、冷えやすく汗をかきやすい人に
材料:紫蘇の葉 2g、ミント 少量(約1g)、種を取ったナツメ 2個
作り方:熱湯でそのまま抽出するか、軽く5分煮出す。ミントは香りを残すため最後に加えると効果的。
効果:風邪の初期にも使われるほど外邪を追い出し、お腹を温めて気を巡らせる。エアコンで体が冷えた「外は暑く中は冷える」状態に最適。
味わい:さっぱりとしてほんのり甘く、夏にぴったりの一杯。
3. 生姜と玄米の炒り茶(お腹を温めて下痢を止めるタイプ)
― 下痢しやすく冷えに弱い方、「漢方っぽい味」が苦手な方に
材料:日本産玄米 大さじ1、生姜スライス2枚
作り方:玄米を炒って香りを出し、そこに水を加えて5分煮出し、生姜を加えてさらに2分煮る
効果:お腹を温め、下痢を予防し、胃腸の働きを助けて元気を補う。
特徴:香ばしい風味で飲みやすく、薬っぽさがないので子どもからお年寄りまで安心して飲めます。日本の食生活にもよくなじみます。
飲用のポイント:
朝または午後に1日1〜2杯がおすすめです。生姜を使ったお茶は夜間の飲用を避けましょう(睡眠に影響する場合があります)。また、慢性疾患のある方や薬を服用中の方は、事前に専門医へ相談してください。
まとめ:寒湿体質は「寒い時期だけ」のものではない
日本の夏は気温が高い一方で、湿度の高さや冷房、冷たい食べ物の影響で、「外は暑く中は冷える」状態に陥りやすく、寒湿体質がむしろ悪化しやすい季節です。こうしたときにただ「涼しさ」や「熱を冷ます」ことを求めるだけでは、かえって寒湿を深く根付かせてしまいます。
本当に体質を改善するには、経絡の流れに沿って気血を巡らせ、陽気を温める発想と、それに合った食事と生活習慣を取り入れることが重要です。自分の体が自然にエネルギーを循環させられるようになることこそ、最も持続可能な健康法なのです。
(翻訳編集 華山律)
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