ハーバード大学の研究によると、感謝の気持ちを持つ高齢女性はより健康で長生きし、特に心血管疾患による死亡リスクが低いことが分かりました。この発見は中医学の伝統的な知恵とも一致しており、感謝の心は体のあらゆる器官を健やかに保ち、生命エネルギーの流れを良くし、自己治癒力を高めるとされています。
この研究は2024年7月に『米国医師会雑誌・精神医学』(JAMA Psychiatry)に発表されました。対象者はアメリカの高齢女性約5万人で、平均年齢は79歳。アンケート調査で感謝の度合いを評価したところ、感謝の気持ちが強い人は死亡リスクが9%低く、特に心血管疾患による死亡リスクは15%低いことが判明しました。研究は、社会的交流、宗教活動、認知機能、身体的・精神的健康状態など、他の既知の影響要因を調整した上で分析が行われました。
感謝が五臓を養う
イギリスの中医師であり、「栄大夫診所」の所長を務める舒栄氏は、『健康1+1』の番組で、中医学では人体の五つの重要な臓器――五臓(心・肝・脾・肺・腎)が、それぞれ異なる感情と結びついていると考えられていると述べました。感謝は前向きな感情のひとつであり、五臓の働きを調和させる力があるとされています。
● 心を守り、精神を安定させる
中医学では、「心は精神を司る」とされており、感謝の気持ちは心を安定させ、心臓を健やかに保つと考えられています。
先述の研究が、感謝が心血管疾患のリスクを低下させることを示しているほか、過去の研究でも、感謝の気持ちを持つ人は血中脂質が低く、健康的な食生活で、BMI(体格指数)が低いことが分かっています。これらはすべて心血管の健康に良い影響を与える要因です。
● 肝を守り、ストレスに強くなる
中医学では、「肝は疏泄(そせつ)を主る」とされ、体内のエネルギーをスムーズに巡らせる働きを担っています。肝は感情と密接に関係し、特に怒りや恨みといった負の感情の影響を受けやすいとされています。研究によると、精神的ストレスは肝疾患による死亡リスクを高めることが分かっています。一方、感謝の気持ちは気持ちを落ち着かせ、ストレス耐性を向上させる効果があります。
● 消化と吸収を助ける
中医学では、脾臓は消化器系を代表する臓器であり、膵臓や胃腸と同じエネルギー系統に属すると考えられています。過度な思い悩みは脾を傷つけるとされますが、感謝の気持ちを持つことで心が軽くなり、悩みにとらわれにくくなります。その結果、消化吸収がスムーズになり、体の各器官に十分な栄養を届けることができます。
● 肺を守り、免疫力を高める
感謝の気持ちは「正気」(体の防御エネルギー)を高め、肺の抵抗力を強化し、風邪やインフルエンザ、感染症の予防に役立つとされています。中医学では、肺は「衛気」(免疫力)と密接に関係すると考えられています。また、研究によると、感謝の日記をつけることが喘息のコントロールに役立つことも明らかになっています。
● 腎を守り、老化を防ぐ
中医学では、腎は「精気」(生命エネルギー)を蓄える臓器であり、これは親から受け継いだ遺伝的な生命力と、日々の栄養から得たエネルギーの両方を含みます。腎の精気は成長、発育、生殖、老化に深く関わり、腎が衰えると老化が加速するとされています。中医学には「恐は腎を傷つける」という考え方があり、不安や恐怖は腎のエネルギーを消耗させると考えられています。しかし、感謝の気持ちは恐怖やストレスを和らげ、腎気(腎のエネルギー)の消耗を防ぐ助けになります。
舒榮氏は、感謝の気持ちは五臓六腑のバランスを調整し、特に心(火)と腎(水)のエネルギーバランスを整えると強調しています。中医学では、心は火、腎は水を象徴し、両者のエネルギーが調和することで、体のエネルギー循環が円滑になります。この状態が整うと、体の修復能力が最大限に高まり、健康で長寿を保つことができると考えられています。
中医学は「エネルギー医学」とも言われ、体内のエネルギー(気)が経絡をスムーズに流れていれば病気にならず、詰まりが生じると痛みや腫瘍、さらにはがんを引き起こすとされています。
「感謝は前向きなエネルギーであり、経絡の流れを促進します。このポジティブなエネルギーは、自然界のエネルギーと共鳴し、私たちを天地と調和した健康な状態へ導くのです」と舒榮氏は述べています。
感謝すべき人や物ごと
感謝の気持ちは、シンプルながら深い意味を持つ日常の実践です。その対象は、身近な人から生活環境、自然、さらには宇宙の法則にまで広がり、内面と外の世界の調和をもたらします。
感謝すべき対象について、舒栄氏は、まずは身近な家族や日々の出来事から始めるとよいと語ります。「美しい瞬間やおいしい食事も、感謝すべきことです」。また、困難や試練がもたらす成長の機会にも感謝し、太陽の光や雨、水といった自然にも敬意を払うことが大切だと述べています。さらに、神や宇宙への感謝もあります。「信仰を持つ人は、自分の創造主に感謝するとよいでしょう。この感謝の力は計り知れず、私たちの健康や心の浄化に大きく役立ちます」
逆境に向き合う――感謝を学び、自ら癒やす
人生には、美しい瞬間だけでなく、苦しみや思い通りにいかない出来事、さらには天災や人災も避けられません。そんな状況でも感謝するべきなのでしょうか?
「これは本当に難しい問いですね!」と舒栄氏は語ります。しかし、苦しみに直面したときでも、逆境の中には感謝できることが多くあるといいます。
● 苦しみが教えてくれることに感謝する:苦しみは人生の試練です。その中で私たちは成長し、経験を積み、知恵を得ることができます。これこそが感謝すべきことです。
● 逆境の中での成長に感謝する:困難に立ち向かうことで、私たちの意志は鍛えられます。自分がより強くなったことに感謝しましょう。
● 自然と生命に感謝する:天災が起こると、生命のはかなさを実感します。そのことで、今ある命や自然の恵みをより大切に思い、自然と調和して生きることを学びます。
● 人の優しさに感謝する:災害の中では、人々が助け合う姿や、人間の善意に触れることがあります。「そうした小さな優しさや支え合いを心に刻むことで、大きな力と癒やしを得ることができます」
舒栄氏はこう語ります。「苦しみや逆境の中でも、感謝できることを見つけられれば、それが癒やしへの道となります。それは心と体にとって、大きな助けとなるのです」
感謝を実践する4つの方法
「習慣は第二の天性」と言われるように、感謝の心も練習によって育むことができます。舒栄(シューロン)氏は、感謝を習慣にすることで、心と体、精神の健康が向上すると指摘します。研究によると、次の4つの方法が特に効果的とされています。
(1) 日記を書く:毎日、感謝できることを1つ記録しましょう。例えば、楽しい会話、美味しい食事、人の親切や心遣いなどです。
あるランダム化対照試験では、感謝日記をつけることで炎症が減少し、心不全の患者の健康にも良い影響を与えることが確認されました。また、感謝日記は手軽に続けやすい方法であり、別の研究では、他の心理学的アプローチと比べても、習慣化しやすいことが分かっています。
(2) 口頭や手紙で感謝を伝える:感謝の気持ちを言葉や手紙で伝えることで、人間関係が円滑になり、感謝のエネルギーが周囲に広がっていきます。
心理学者マーティン・セリグマン(Martin E.P. Seligman)博士らの研究では、さまざまなポジティブ心理学の介入法を比較した結果、「まだきちんと感謝を伝えられていない人に手紙を書く」ことが、幸福感を大幅に高め、うつ症状を軽減するのに最も効果的であると分かりました。その効果は1か月間持続したと報告されています。(関連記事:『感謝の心』 怒りや憂鬱に効く代替療法)
(3) 瞑想をする:毎日静かに座り、感謝したい人や出来事を思い浮かべることで、その気持ちを体の隅々にまで浸透させましょう。
ある研究では、32人の参加者が5分間静かに座り、母親への感謝を心の中で感じるという実験を行いました。その結果、心拍数が低下し、心が穏やかになることが確認されました。また、感謝の瞑想は、感情をコントロールし、モチベーションが上がるなど脳の機能にも良い影響を与えることが分かっています。
(4) 善行を行う:感謝の気持ちを行動に移し、人を助けることは、健康にも良い影響をもたらします。例えば、慢性炎症を防ぐ効果が期待されます。
研究によると、感謝を習慣にすることで、人を助けたいという気持ちが強まり、結果的に炎症を引き起こす因子が減少することが分かりました。実験では、単に感謝を感じるだけでは炎症に直接の影響は見られませんでしたが、感謝を実践するグループと対照グループの両方で、「助け合いの行動」が増えた場合、炎症の値が低くなることが確認されました。
(翻訳編集 華山律)
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