憩室炎(けいしつえん)は複雑な痛みを伴う消化器の病気です。西洋医学では、憩室炎の治療に抗生物質が用いられるほか、特に食物繊維の摂取量を増やすなど、食生活の調整が推奨されています。
しかし、5年以内の再発率は約20%に達するとされており、そのため、他の治療法を試す患者が増えています。例えば、東洋医学の一つである伝統的な中国医学(TCM)や、近年注目されている低FODMAP(フォドマップ)食などの食事療法です。これらのアプローチを組み合わせることで、患者は憩室炎を管理し、再発を防ぐためのより包括的な方法を見つけることができるかもしれません。
憩室炎とは?
憩室炎は、結腸の壁にできた小さな袋(憩室)が炎症を起こす病気です。憩室は、結腸の弱い部分が外側に膨らむことで形成され、最も一般的には結腸の下部に影響を及ぼします。これらの憩室が感染すると、腹痛、膨満感(お腹の張り)、吐き気、便秘や下痢、発熱、さらには血便などの症状が現れることがあります。
憩室炎は医療介入を必要とすることが多い深刻な症状ですが、食事は回復と予防に重要な役割を果たします。憩室炎に最適な食事については議論があり、食物繊維、プロバイオティクス、赤身の肉の適切な摂取量については意見が対立しています。
食物繊維と低FODMAP(フォドマップ)食の役割
従来、腸の通いを促進し、便秘を防ぐことで憩室炎を予防するために、高繊維食が推奨されてきました。研究によると、1日25グラム以上の繊維を摂取している人は、摂取量が少ない人に比べて憩室炎のリスクが大幅に低いことが示されています。しかし、一部の患者は、高繊維食が炎症時に症状を悪化させ、不快感や膨満感を引き起こすと感じています。
そこで注目されているのが「低FODMAP(フォドマップ)食」です。
FODMAPとは、「発酵性オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール」の頭文字を取ったもので、消化しにくい短鎖炭水化物の総称です。本来は過敏性腸症候群(IBS)の管理のために開発された食事療法ですが、これらの炭水化物を減らすことに重点を置いています。そのため、憩室炎の患者の一部にも有効と考えられています。特に、小麦、玉ねぎ、ニンニク、一部の果物などの高繊維食品にはFODMAPが多く含まれており、憩室炎の症状を悪化させる可能性があります。
近年の研究では、低FODMAP食が消化器官への負担や膨満感、けいれん、ガスなどの症状を軽減することで、炎症を抑え、憩室炎の再発予防に役立つ可能性があると示唆されています。例えば、タマネギ、ニンニク、リンゴ、カリフラワー、乳製品などは通常避けるべき食品とされる一方、オート麦、ニンジン、ブルーベリーなどは安全と考えられています。
漢方医学における憩室炎の捉え方
漢方医学(伝統中国医学・TCM)では、憩室炎は、特に脾臓や胃などの消化器官における「気(き)」(生命エネルギー)の不均衡が原因で発生すると考えられています。この不均衡は、気と血の巡りを停滞させ、炎症や不快感を引き起こすとされています。
漢方医学の治療における主な目的は、「気と血の流れを促進すること」「余分な熱や湿気を取り除くこと」「消化器の機能を強化すること」です。憩室炎の治療においても、これらの概念が中心となります。
- 気滞・血瘀(きたい・けつお):
中医学では、気や血の巡りが滞ることが炎症や痛みの原因になると考えられています。鍼治療や漢方薬を用いて、停滞した気血の流れを促し、症状を和らげます。
- 熱と湿気(湿熱):
炎症は「体内にこもった過剰な熱」として捉えられ、膨満感や消化不良は「湿気(湿邪)」による影響とされています。こうした症状には、「黄芩(おうごん)」や「蒼朮(そうじゅつ)」などの生薬が、熱を冷まし湿気を取り除くために処方されます。
- 脾胃(ひい)の不調和:
脾と胃のバランスが崩れると、消化機能が低下し、炎症の原因になるとされています。「白芍(びゃくしゃく)」や「三七(さんしち)」などの生薬を用いることで、これらの臓器の機能を強化し、消化を改善し炎症を抑える効果が期待されます。
漢方薬と鍼灸による治療
漢方医学では、腸を浄化するための漢方薬を用いた後、炎症や傷を治し、脾や腸の機能を強化する処方を使用することができます。TCM(伝統中国医学)の漢方薬療法は高度に個別化されており、医師は漢方薬を処方する前に患者の病歴と症状を慎重に考慮する必要があります。
憩室炎の治療によく使われる生薬には、以下のようなものがあります。
- 黄耆(おうぎ)(Huang Qi/キバナオウギ):抗炎症作用があり、免疫機能を強化する。
- 三七(さんしち)(San Qi/田七人参):血液循環を促進し、痛みを軽減する。
- 蒼朮(そうじゅつ)(Cang Zhu/ホソバオケラ):体内の余分な湿気(湿邪)を取り除き、消化機能を強化する。
また、鍼治療は漢方医学におけるもう一つの柱です。足三里(ST36)、三陰交(SP6)、内関(PC6)などの特定のツボが選択され、消化機能を高め、痛みを軽減し、炎症を抑える効果が期待されます。



ビタミンDとプロバイオティクスの重要性
近年の研究によると、ビタミンDの欠乏は憩室炎の再発リスクを高める可能性があることが示されています。適度な日光浴やサプリメントの摂取により、十分なビタミンDレベルを維持することが、この病気の管理において重要とされています。
また、腸内環境を整える働きがあるプロバイオティクス(善玉菌)にも注目が集まっています。特に、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)やラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)といった菌株は、憩室炎の症状を緩和し、回復をサポートすることが示されています。さらに、メサラミン(Mesalamine)などの抗炎症薬と併用することで、より高い効果が期待される可能性があるとされています。
ヨーグルト、ザワークラウト(発酵キャベツ)、キムチ、ケフィアなどの発酵食品にはプロバイオティクスが豊富に含まれており、健康に有益です。ただし、これらの食品は有益な細菌の濃度が高いため、より安定した摂取を目的として、サプリメントの使用が推奨されることが多いです。
低FODMAP食と漢方医学の融合
低FODMAP(フォドマップ)食と漢方医学(伝統中国医学・TCM)の全体論的原理を組み合わせることで、憩室炎の管理に総合的なアプローチを提供できます。
例えば、炎症を引き起こしやすい赤身肉を減らし、プロバイオティクス(善玉菌)を積極的に摂取することが役立つと考えられています。また、漢方医学では、消化の調和を保つために脂っこい食べ物や辛い食べ物を避けることが推奨されています。こうした食事の工夫により、消化器系の調和を保ち、炎症の再発を防ぐのに役立ちます。
さらに、太極拳などの軽い運動や、瞑想といったストレス管理の方法を取り入れることで、体内の「気」の流れを改善し、緊張を和らげることができます。これにより、消化機能の健康をさらにサポートすることが期待されます。
総合的な健康への道
憩室炎を効果的に管理するには、多角的なアプローチが必要です。生命を脅かす場合には、抗生物質や手術などの西洋医学的な治療が必要になることがあります。しかし、鍼治療や漢方薬、低FODMAP(フォドマップ)食、プロバイオティクス、ビタミンDのサプリメントを併用することで、長期的な緩和が得られ、再発を防ぐことができる可能性があります。
大切なのは、症状を和らげるだけでなく、炎症の根本的な原因にアプローチすることです。これにより、患者はバランスを保ち、消化器系全体の健康を改善することができます。
憩室炎の管理には、一人ひとりに合った治療計画を立てることが重要です。かかりつけの医師や、漢方医学の専門医と相談しながら、自分に合った治療法を見つけていきましょう。適切な治療を組み合わせることで、憩室炎をうまくコントロールし、生活の質を向上させ、将来の再発リスクを減らすことが可能になります。
この記事で述べられている意見は著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの意見を反映するものではありません。エポックヘルスは、専門的な議論や友好的な討論を歓迎します。
(翻訳編集 華山律)
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