近年、「ケトジェニックダイエット」(通称「ケトダイエット」)が、糖尿病の人やダイエットをしたい人たちの間で人気を集めています。
この食事法は、血糖値を下げる効果や体重を減らす働きが期待できるため、多くの人が注目しています。しかし、一方で賛否両論あり、長期間続けると低血糖(血糖値が下がりすぎる状態)や骨粗しょう症などの健康リスクが高まる可能性が指摘されています。
これに対し、お米のような炭水化物を適度に含むバランスの良い食事は、血糖値の管理に効果的で、場合によっては糖尿病の改善や回復につながります。この方法は、ケトダイエットと同じくらいの効果を期待できる一方で、より安全で無理なく続けられるというメリットがあります。
台湾の健康番組「Health 1+1」では、台湾の「17ビューティークリニック」で診療を行う新陳代謝の専門医、洪建徳医師が、この「お米を中心とした食事法」について紹介しました。
ケトダイエットは、脂質を多く摂り、1日あたりの炭水化物を50グラム以下に抑える食事法です。この食事を続けると、体はエネルギー源として脂肪を分解するようになります。
ケトダイエットの潜在的なリスク
近年、多くの研究で ケトダイエットを長期間続けることを懸念しています。
2021年にアメリカの専門家が発表したレビューによると、ケトダイエットによる健康改善は一時的なものであることが多い という結果を示しました。さらに、この食事法には 健康への悪影響がある可能性があり、長期的な安全性を証明するデータも不足している ため、多くの人にとっては メリットよりもリスクの方が大きいかもしれません。具体的なリスクには以下のようなものがあります。
臓器の老化が早まる 科学誌 Science Advances に掲載された動物実験では、ケトダイエットによって、心臓や腎臓などの臓器の細胞が老化しやすくなることを確認しました。
低血糖のリスク ケトダイエットを長期間続けると 体が糖をうまく利用できなくなり、低血糖(血糖値が危険なほど下がる状態)を引き起こしやすくなります。
骨がもろくなる(骨粗しょう症のリスク) 医学誌 New England Journal of Medicine に掲載された報告によると、高脂肪・低炭水化物の食事は「ケトアシドーシス」(血液が酸性に傾く危険な状態)を引き起こすことがあります。この状態が続くと 骨からカルシウムが失われ、骨がもろくなる(骨粗しょう症のリスクが高まる)と指摘しています。
脂肪肝のリスク 2023年のマウス実験では、ケトダイエットによって「糖の代謝が悪化」し、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)や肝硬変につながることを確認しました。肝硬変とは、肝臓に傷跡のような組織(線維化した組織)が増え、正常に働かなくなる病気です。
血管へのダメージ 2020年に発表された研究では、ケトダイエットによって生成される「ケトン体」がタンパク質と結びつき、血管を傷つける可能性を示しました。これは、糖分の過剰摂取による「糖化」と似たメカニズムですが、より強いダメージを与えると考えられています。
お米を取り入れた食事で血糖値を管理する方法
血糖値の問題を抱えている人の中には、「お米を食べると血糖値が上がるのでは」と心配する人も少なくありません。しかし、洪医師によると、適切な方法を守れば、炭水化物・タンパク質・脂質をバランスよく含む食事は血糖値の管理に十分役立つといいます。
洪医師自身も糖尿病の家系に生まれましたが、毎食お米を取り入れながら、その他の自然食品と組み合わせることで、健康な血糖値を維持できているそうです。
このようなバランスの取れた食事法は、血糖値を安定させるだけでなく、ケトダイエットに伴うリスクを軽減し、インスリン抵抗性を改善することで、薬の必要性を減らします。
「お米を中心とした食事法」の4つのポイント
精製されていない自然な食品を選ぶ 白米ではなく玄米などの未精製の米を選ぶことで、でんぷんの構造が保持され、栄養バランスが良くなります。また、消化吸収が緩やかになるため、血糖値の急上昇を防ぐ効果があります。
炊いたご飯は冷ましてから食べる 炊きたてのご飯をすぐに食べるのではなく、最低15分は冷ますのがポイントです。冷ますことで「レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)」の量が増え、小腸での吸収が抑えられます。さらに、大腸では腸内の善玉菌のエサとなり、腸内環境の改善にも役立ちます。
食べる順番を工夫する 「肉 → 野菜 → きのこ → ご飯 → 果物」の順番で食べるのが理想的です。ベジタリアンの人は、肉の代わりに豆類を取り入れるとよいでしょう。
洪医師によれば、最初にタンパク質(肉や豆類)を食べると、消化・吸収がスムーズになり、冷めたご飯も体に負担をかけずに処理できるといいます。
毎食、一定量のお米を摂る 毎食安定した量のお米を取り入れることが大切です。洪医師は、アメリカ食品栄養委員会(U.S. Food and Nutrition Board)の推奨を参考に、1日約450グラム(お茶碗約2.5杯)のご飯を食べることを勧めています。これは、成人が1日に摂取すべき炭水化物(130グラム)の目安に基づいています。
ある研究によると、ケトダイエットの長期的な効果や安全性には、まだ十分な科学的根拠はありません。一方で、洪医師は、1日100〜150グラムの炭水化物を適切に管理しながら摂る「非ケト食」の方が、実際の生活に取り入れやすく、健康的な選択肢になり得ると指摘しています。
驚くべき成功事例
洪医師は、糖尿病を改善した数百件もの臨床事例を自身のFacebookで紹介しています。その中でも特に印象的なのが、台湾在住のアメリカ人外科医のケースです。
この外科医は、10時間以上に及ぶ手術を行った後に大量の食事をとる習慣がありました。その結果、血糖値の指標であるHbA1c(ヘモグロビンA1c)が危険なレベルの18%に達し、仕事を続けることができなくなりました。参考までに、HbA1cが6.5%を超えると糖尿病と診断します。
しかし、この外科医は薬を使わずに、洪医師が提唱する「お米を取り入れたバランスの良い食事法」に切り替えました。その結果、わずか1週間でHbA1cが5.8%まで低下し、血糖値も160 mg/dL以下に安定しました。そして、1年半が経った現在も、1日3回の普通の食事をとるだけで血糖値をコントロールできています。
洪医師によると、この外科医が血糖値を正常に戻せたのは、医師の指導を信頼し、徹底した食事管理が大きな要因でした。また、血糖値が高い状態が続いた期間が短かったため、将来的に糖尿病の合併症を発症するリスクは大幅に低減していたからです。
(翻訳編集 華山律)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。