慢性的な痛みは「心のわだかまり」の表れかもしれない

慢性的な痛みは、ただの筋肉痛や治りにくい怪我だけが原因ではなく、心に抱えた「処理されていない感情」が表に出ている可能性があります。

実際、こうした痛みの原因は子供の頃の経験にさかのぼることが多く、つらい幼少期の体験(ACEs)が慢性的な痛みと深く関係していることがわかっています。研究では、これらの体験が、痛みに対して必要以上に不安を感じる「痛みの不安増幅」や、慢性的な痛みに伴うさらなる体調不良、さらにはうつ病のリスクを高める原因になることが示されています。

閉じ込められた感情

「感情とは、動いているエネルギーそのものです」と教育心理学者のリダライズ・グロブラー氏はエポックタイムズに語りました。私たちは、ポジティブな感情を抱いたときは自然とそれを受け入れ、その心地よさを楽しむことができます。しかし、社会的にはネガティブな感情を抑え込む必要があると感じる場面が多いのも事実です。

この「動いているエネルギー」が体内に閉じ込められてしまうと、発散される機会を失い、蓄積されていきます。この蓄積が慢性的な痛みとして現れることがあり、体が「未解決の問題がある」と信号を送っているのです。

時間が経つにつれ、この閉じ込められたエネルギーは体内に深く根付いてしまい、体がそれを抱えきれなくなることもあります。これは、不利な幼少期体験(ACEs)で特に顕著です。

研究によれば、慢性的な痛みを抱える成人の84%が、少なくとも1つのACEsを経験していると報告しています。一方で、一般の人々ではその割合が約62%です。また、ACEsを持つ人では慢性的な痛みが発生する可能性が2倍になり、その痛みの強さも増す傾向があります。

「線維筋痛症の痛みで紹介された患者の93%が、深刻な未解決のACEsを抱えていました」と、慢性疲労症候群や線維筋痛症の回復を支援するオンラインプログラム「クリサリス・エフェクト」の創設者であり、ナショナル・ヘルス・サービス(NHS)のトレーナーでもあるエレイン・ウィルキンス氏はエポックタイムズに語っています。線維筋痛症は、全身に筋肉痛を引き起こす一般的な慢性疾患です。

特に、幼少期のネグレクトや虐待(身体的虐待や性的虐待を含む)は、成人後の線維筋痛症などの疾患と関連しています。その中でも、身体的虐待が特に強い関連性を持っています。また、幼少期の身体的虐待の経験は、成人後の首や背中の痛みのリスクを高めるとも言われています。

これは、幼少期の逆境がストレスに対する反応を大きく変化させ、免疫系の調整不全を引き起こすことに関係しているようです。この免疫系の問題は炎症の増加を伴い、全身に広がる痛みを引き起こす可能性があります。研究では、複数のACEsを経験した人々では、重度の炎症が30年以上続くことがあると示されています。

これらの幼少期の経験は、言葉を覚える前の時期であっても、脳に「感情記憶」として蓄積され、身体に閉じ込められた感情を引き起こすとウィルキンス氏は述べています。

特に6歳までの時期は神経内分泌系の発達にとって極めて重要であり、この期間は感情的・身体的な成長において敏感な時期です。この発達の窓口において長期間ストレスにさらされると、特に深刻な影響を受ける可能性があります。

『The Lancet Regional Health Americas』の研究によれば、ACEsは成人の健康や寿命にも影響を及ぼします。特に、2つ以上のACEsを経験した子供は、若くして命を落とすリスクが高くなるとされています。

 

感情が原因でも「痛みは本物」

慢性的な痛みが生まれたり続いたりする背景には、社会的、心理的、生物学的な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。2020年の研究では、痛みは「感情」と「感覚」の両方が関わる主観的な体験だと説明されています。
米国痛み財団は、たとえ怪我や病気そのものが治っても、未解決のストレスや感情が残っていると、痛みが完全に消えないことがあると指摘しています。無力感、悲しみ、怒り、罪悪感、不安、恐怖などの感情が痛みを引き起こす要因になることがあります。

とはいえ、「感情が原因だから痛みは気のせい」と考えるのは誤りです。ウィルキンス氏はこう語ります。
「私たちは今、脳が身体の痛みも心の痛みも同じ仕組みで処理していることを理解しています。ですから、あなたが感じている痛みは確実に本物なのです」。

しかし、私たちの社会では、感情が体に及ぼす影響を軽視しがちです。グロブラー氏はこう指摘します。
「例えば、股関節の怪我が原因で膝が痛くなった場合、その痛みを『ただの気のせい』とは思わないですよね。でも、感情が関係している痛みに対しては、そうした軽視がよく起こるのです」。

 

「警報」のような痛み

「痛みは体が『何かがおかしい』と注意を促すサインです。それはちょうど煙探知機のようなものだ」とウィルキンス氏は語ります。このサインは、私たちに行動を変えるきっかけを与えています。

しかし、多くの人はこのメッセージに耳を傾ける代わりに、痛みを悪化させるような行動を続けてしまいます。例えば、薬やアルコールに頼ったり、仕事をしすぎたり、浪費や過剰な人付き合いをして他人からの承認を求めたりすることがあります。特に、解決されていないトラウマがあると、私たちは「自分らしさを育むこと(オーセンティシティ)」よりも、「人とのつながり(アタッチメント)」を優先しがちになります。

痛みは体からのメッセージなので、それをすぐに取り除こうとすると、根本的な原因を理解するチャンスを逃し、さらに自分を傷つけることになりかねないと、グロブラー氏は指摘します。たとえば、痛み止めを飲んで怪我を無理に乗り越えようとすると、逆に悪化させることがあるように。

「もしかすると、痛みと向き合い、自分自身に問いかける必要があるのかもしれません。『私は何を聞き逃しているのだろう?』と」と彼女は続けます。
「それは、言葉を話せない赤ちゃんが泣いているようなものです。お腹が空いているのか、寒いのか、それともお腹が痛いのか?  時には試行錯誤が必要です。痛みには言葉がないのですから」。

 

痛みに向き合うために

慢性的な痛みが感情や幼少期の辛い経験から来ているかもしれないと感じたら、グロブラー氏はセラピーを受けることを勧めています。セラピーは、長い間抑え込んでいた感情を整理し、理解し、それを表現する機会を与えてくれます。

「痛みの原因となる感情に気づいていないことはよくあります。特に、その出来事が幼い頃、言葉を覚える前に起こったものであれば、体の中に閉じ込められてしまうことがあるのです。そのため、身体を使った治療法――動きや体の感覚を使ったアプローチ――がとても重要です。これらの問題は、頭で考えるだけでは解決できません」と彼女は話します。

認知行動療法や精神分析は、過去に何が起きたのかを理解するのには役立ちますが、体に蓄積された未解決の感情を完全に癒すことは難しい場合があります。身体を使った治療法を取り入れないと、痛みを根本から解消し、長期的な変化を生み出すのは難しいかもしれません。

グロブラー氏は、眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)、脳作業再帰療法(BWRT)、緊張・トラウマ解放エクササイズ(TRE)、ソマティック体験法(SE)などのアプローチを活用することで、自分自身を深く理解し、癒しを進めることができると述べています。

また、ウィルキンス氏は、痛みが悪化したときには日記を書くこと(ジャーナリング)を勧めています。日記を書くことで、どんな出来事やストレス、感情がその状況に影響を与えたのかを振り返る時間を持つことができます。以下の質問を自分に投げかけてみると良いでしょう:

  • 自分に強い影響を与えた出来事は何だろう?  体がこうして注意を引こうとしている理由は?
  • 本音で言えば、私は本当に何をしたいと思っているのだろう?
  • 私が避けたいと思っていることや、会いたくない人は誰だろう?
  • この痛みは、私に何を避けさせているのだろう?
  • 私は体を十分に動かしているだろうか?
  • かつて好きだった活動の中で、今やらなくなったものは何だろう?

グロブラー氏は、感情の蓄積を「ガスが溜まるガス室」に例えています。感情が溜まり続けると、その圧力がどんどん高まります。そのため、溜まった感情を解放する「扉を開ける」方法を見つけることが重要です。これが、痛みの本当の原因を解消する鍵だと彼女は言います。

(翻訳編集 華山律)

ゼナ・ルー・ルーは、健康ジャーナリストで、健康調査ジャーナリズムの修士号を持ち、機能栄養に特化した認定健康およびウェルネスコーチです。スポーツ栄養学、マインドフルイーティング、内的家族システム、および応用ポリヴェーガル理論のトレーニングを受けています。彼女はプライベートプラクティスで働き、英国に拠点を置く健康学校の栄養教育者としても活動しています。