超加工食品 ケネディ氏への試練
アメリカ人の1日の平均摂取カロリーの約60%は超加工食品から摂っています。これらの食品はスーパーマーケットの棚を占め、日常の食生活に深く浸透しています。代表的な例として、包装スナック、砂糖が多く含まれるシリアル、冷凍食品、清涼飲料水などが挙げられます。これらには高果糖コーンシロップ、硬化油(液体の魚油や大豆油などの脂肪油に水素を添加して固体状にした油脂)、人工調味料などの成分が含まれることが多く、利便性が高く保存性も優れていますが、肥満、糖尿病、心臓病との強い関連が指摘されています。
科学者の間では、超加工食品の定義やその区別の重要性について意見が分かれています。モンテイロ(Carlos Monteiro)氏が開発したNOVA分類システムは、食品を加工度と目的に基づいて分類する最も広く使われている枠組みです。このシステムでは、超加工食品を硬化油や風味増強剤、乳化剤といった工業的な成分を含み、利便性や長期保存を目的として製造された食品と定義しています。ただし、他の分類システムも存在するものの、統一された基準はまだなく、これが超加工食品の健康への影響を評価する取り組みを複雑にしているのです。
食事ガイドライン諮問委員会(DGAC)は、超加工食品に関する具体的な制限を推奨することを見送りました。その理由として、研究が限定的である点を挙げています。
栄養学者のマテス(Richard D. Mattes)氏は「国家政策を策定するには十分なエビデンスが必要です。現時点では、この問題に関するランダム化比較試験は1件の小規模な研究しかなく、それでは不十分です」と述べました。
モンテイロ氏は、対策の欠如を批判しました。大紀元のインタビューで「これらの食品を減らす勧告は、公衆衛生に有益ですが、大企業の利益には損害を与えるでしょう」と語りました。
一方で、ジャーナリストであり、食事ガイドラインに関する批評家として知られるニーナ・タイショルツ(Nina Teicholz)氏は「超加工食品という言葉自体があいまい」と指摘し、この問題への取り組みの難しさを強調しました。例えば、科学的根拠が限られる中で、加工肉を学校給食から排除する抜本的な改革は、過剰な砂糖や精製穀物といった、より差し迫った問題への対策を後回しにすることで、かえって逆効果になる可能性があると警告しました。
ブラジル、フランス、イスラエルなどの国々では、超加工食品の摂取を減らすよう明確に勧告する食事ガイドラインを採用しています。これらの政策は、食事関連の慢性疾患に取り組むアメリカにとってモデルになるとされています。しかし、DGACの慎重な姿勢から、アメリカが同様の措置を取るのは、遅れる可能性があると見られています。
ケネディ氏は「完全な科学的証拠を待つつもりはない」と明言しています。選挙運動中、同氏は超加工食品が、肥満の流行を引き起こす主要な要因であると指摘し、より厳しい規制を示唆しました。
企業の影響力に立ち向かう
DGACは、産業界とのつながりについても批判を受けています。非営利団体「U.S. Right to Know(USRTK)」の報告によると、2025年の委員会メンバーの約半数がBeyond Meat(植物由来の人工肉を製造・開発するアメリカ食品テクノロジー企業)やAbbott(医療企業)などの企業と財政的な関係があるとしています。こうしたつながりは、委員会の客観性を損ない、国民の信頼を揺るがしています。
ケネディ氏は、連邦保健機関に対する「企業の影響力」を問題視し、公然と批判してきました。
「企業の利益が、米農務省の食事ガイドラインを乗っ取ってしまった」と、ケネディ氏は10月30日にUSDA本部前で撮影されたソーシャルメディア動画で述べました。
同氏はシステムの見直しを誓い、「USDAの食事ガイドラインを作る委員会や専門部会から利益相反を排除する」と強調しました。
このような改革を求める声は以前からありました。2017年、全米科学アカデミーは利益相反のルールを厳格化し、委員会メンバーの財政的関係を完全に公開するよう要求しました。しかし、透明性を求める活動家やチャック・グラスリー上院議員は、その後の進展がほとんどないことを批判しています。
「なぜ利益相反がこれほど多い人々が作成した報告書を、国民が信頼できるのでしょうか?」と、USRTKのエグゼクティブディレクターであるゲイリー・ラスキン氏は以前のインタビューで述べています。
ガイドラインの実効性 混在する成果
アメリカの食事ガイドラインは広範な影響力を持つ一方で、国民の食生活改善には限られた成果しか上げられていません。健康的な食事の実践度を測る「健康的食事指数(HEI)」で、アメリカ人の平均スコアは100点中58点にとどまっています。
「私たちはガイドラインをほとんど守れていません」と栄養学者のマテス氏は述べています。
しかし、前出のタイショルツ氏は、政府のデータを引用し、1970年以降の食品消費データに基づいて「アメリカ人は、過去数十年の勧告に従って、ほぼすべての食品グループで大きな変化を遂げています」と反論しています。
また、HEIの正確性についても疑問を呈し、この指数は単なる一時的なスナップショットに過ぎず、長期的な傾向を見落とす可能性を指摘しています。
一方、多くのアメリカ人がガイドラインを完全に守っていないとしても、その影響は食品生産、マーケティング、そして公衆の認識に及び、市場に広く流通する食品の種類や価格にも影響を与えています。低脂肪食や炭水化物摂取の増加といった傾向は、ガイドラインの広範な影響を反映しているといえます。
ガイドラインの限界と課題
研究によると、ガイドラインが健康改善に効果を上げているかどうかは疑問が残ります。たとえば、女性の健康イニシアチブ(WHI)という8年間にわたる大規模なランダム化比較試験では、約4万9千人の閉経後の女性が、脂肪摂取を大幅に削減し、野菜、果物、穀物を多く含む食事を実践しました。しかし、脂肪摂取量の大幅な削減にもかかわらず、心臓病や脳卒中、その他の循環器系疾患の発症率に有意な減少は見られませんでした。この結果から、慢性疾患に取り組むには、より焦点を絞った戦略が必要であることを示唆しています。
さらに、制度的な責任の欠如も問題とされています。
「農務省のような機関は、自らの食事指針が慢性疾患に与える影響についてほとんど責任を負っていません」とタイショルツ氏は述べ、最終的なコストは医療システムが負担することになると警告しています。
また、ガイドラインの複雑さも有効性を阻む要因です。900ページを超えることもあり、実践的なアドバイスに落とし込むことが難しいとしています。
前出のマテス氏は「ガイドラインが長くなるほど、健康成果が悪化しているように思われます」と述べ、実践を促進するには、具体的でわかりやすいアドバイスが必要だと指摘しています。
「単に指示を出すだけでは人々を従わせることはできません。人々が直面している障壁を理解し、それに応じたガイダンスを提供することが重要です」
改革か再構築か ケネディ氏が進むべき道
ガイドラインの遵守率が低い中、ケネディ氏のリーダーシップは改革の貴重な機会を提供しますが、制度的な課題が立ちはだかります。
栄養政策の専門家ネスル(Marion Nestle)氏は、ガイドラインの最終決定がHHS(保健福祉省)と農務省の指導層にかかっているため、ケネディ氏が大きな影響力を持つと考えています。
同氏は大紀元に、「長官は共同委員会を任命して文書を作成します。また、議会も方向性に関与することができます」と語り、ケネディ氏は農務長官と連携してガイドラインの方向性を決定するだろうと述べました。
しかし、ネスル氏は、食品業界のロビー活動や、科学的証拠に対して過度に厳しい基準を求める動きが、改革を妨げていると指摘しています。また、未完成で進化中の科学に基づいて、政策を変更することの難しさにも言及しました。
ケネディ氏がどのようにこの役割を果たすのかについて、ネスル氏は不確実だと述べています。「もし彼が長官に任命されたら、何をするのか全く予想がつきません」とし、連邦政府のプロセスがしばしば伴う遅さと抵抗にも触れました。
ケネディ氏の考え方が科学的根拠に基づいているかについて、ネスル氏は「いくつかはそうで、いくつかはそうではない」と述べ、「科学的根拠に基づくものは支持し、そうでないものは反対します」と付け加えました。
ケネディ氏の具体的な計画はまだ明らかにされていませんが、企業の影響力に対する批判的な姿勢から、大規模な改革を推進する可能性があります。ただし、現行の枠組みの中で取り組むのか、それとも全く新しい方針を描くのかは、今後の展開次第です。
個人ができること
ケネディ氏の改革が実現するまでには数年かかる可能性がありますが、今すぐ取り組める食生活の改善方法もあります。自然食品や未加工に近い食品を中心にした食事に切り替え、砂糖入り飲料や超加工スナックを減らすことが、実践的で効果的な第一歩です。たとえば、自宅での調理を増やしたり、炭酸飲料を水に置き換えるといった日常生活の些細な工夫でも、食事に関連する健康リスクを大幅に減らすことができます。
2025年版の食事ガイドラインは、ケネディ氏が連邦栄養政策をどれほど改革できるかを測る重要な評価基準となるでしょう。彼がアメリカの健康を向上させるという公約を果たし、連邦栄養政策を再構築できるのか、それとも挑むべき強大な既得権益に阻まれるのか、その結果が注目されています。
タイショルツ氏は自身のSubstack記事でこう述べています。
――私たちの国の健康はこれにかかっています。
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