- オメガ3脂肪酸を含む健康補助食品
- クリルオイルの健康効果と期待されるメリット
- フィッシュオイルとの違いと比較
- 環境および潜在的リスクへの配慮
小さく透明な海洋生物であるオキアミ(エビに似た小型の甲殻類で、プランクトンの一種、クリル)が、オメガ3脂肪酸を含む健康補助食品の王座を巡り、フィッシュオイルと競い合う存在になりつつあります。ここ数年で急速に注目を集めるクリルオイルは、その健康効果が評価され、2031年までにクリルオイル市場が14億8000万ドルに成長すると予測されています。特に北米での市場拡大が著しく、今後さらに利用者が増える見通しです。
クリルオイルは、豊富なオメガ3脂肪酸と強力な抗酸化成分を含んでおり、その健康効果の面でもフィッシュオイルに対する有力な競争相手となっています。しかし、クリルオイルが果たして全ての人にとって有益な選択肢となり得るのでしょうか? 今こそ、フィッシュオイルから、新たなこの海洋由来オイルへ乗り換えるべき時なのでしょうか?
クリルオイルを生活に取り入れる前に、まずはその成分と期待されるメリットやリスクについて知ることが重要です。最新の科学的研究を踏まえ、クリルオイルがもたらす効果と課題を理解することが、賢い選択へとつながるでしょう。
クリルオイルとは?
クリルオイルは、南極に生息するオキアミ(クリル)から抽出される油です。オキアミは半透明で細長い体を持ち、エビに似た甲殻類であり、クジラやアザラシ、ペンギン、魚など多くの大型動物の重要な食料源として海洋生態系において大きな役割を果たしています。
クリルオイルの製造は、オキアミから油を抽出し、最終製品へと精製する工程を経て行われます。製品は通常、暗赤色を帯びたカプセルや液体サプリメントとして販売されます。この赤みは、アスタキサンチンと呼ばれる抗酸化成分によるもので、これは微生物に含まれる天然色素カロテノイドの一種であり、エビのピンク色の原因ともなる物質です。クリルオイルはまた、水産養殖や動物飼料としても活用されています。
クリルオイルの期待される7つの健康効果
研究によると、クリルオイルには次のような健康効果が期待されています。
1.健康的な脂肪の供給源
「人々がクリルオイルを摂取する主な理由はオメガ3です」と、ニューヨークのマウントサイナイ病院で口腔外科医を務めるゼヴ・シュルホフ博士がThe Epoch Timesの取材で語っています。クリルオイルには多価不飽和脂肪酸であるオメガ3脂肪酸が豊富に含まれており、特に心臓の健康維持、脳機能のサポート、体内の炎症抑制に効果が期待されるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)を多く含んでいます。
2.心臓の健康を促進
研究によれば、クリルオイルはコレステロール値を下げ、心血管の健康をサポートし、「善玉」コレステロールであるHDLのレベルを上昇させる効果があるとされています。2022年に米国の医学雑誌『JAMA(Journal of the American Medical Association)』が発表した研究でも、12週間のクリルオイル摂取がトリグリセリド(中性脂肪)値を低下させることが確認されています。
トリグリセリド値が高いと、動脈硬化性心血管疾患のリスクが増加することが知られており、これは過去100年以上にわたり米国で主要な死因の一つとされています。
3.関節の健康を促進
クリルオイルに含まれるオメガ3脂肪酸の抗炎症作用には、関節炎などの症状に伴う関節痛やこわばりを軽減する効果が期待されています。2022年に米国の栄養学専門誌『American Journal of Clinical Nutrition』に発表された研究では、変形性膝関節症を持つ成人の膝の痛みが、クリルオイルの摂取により改善されたことが報告されています。また、2016年に『PLoS One』に掲載された研究でも、軽度の膝痛を抱える成人の関節痛の緩和に、効果が認められました。
一方で、クリルオイルが関節の健康にどの程度効果があるかについては、まだ確定的な結論が出ていません。2024年に米国の医学雑誌『JAMA』で発表された臨床試験では、変形性膝関節症で強い痛みを抱える人に対しては、効果が認められないことも示されています。
4.脳機能をサポート
オメガ3脂肪酸は脳の健康に欠かせない成分であり、認知機能の維持や気分の安定を支える効果が期待されています。オメガ3脂肪酸は神経細胞の死滅を抑え、炎症を軽減することで、脳のさまざまな機能に良い影響を与えます。
米軍も、クリルオイルが認知機能やメンタルヘルスに与える可能性に注目し、部隊の食事に組み込むことを検討しています。
5.肌の健康をサポート
クリルオイルや他のフィッシュオイルの摂取は、オメガ3脂肪酸と抗酸化作用により肌の健康をサポートする可能性があります。研究によれば、DHAとEPAにはアトピー性皮膚炎の改善に役立つ効果があるとされています。
6.抗酸化成分の供給源
クリルオイルは、抗酸化成分であるアスタキサンチンを豊富に含み、これにより、フリーラジカル(他の分子と結びつこうとし、反応性が非常に高いため、生体内で細胞やDNAにダメージを与える)による細胞損傷から体を保護する効果が期待されています。2020年に発表された『International Journal of Molecular Medicine』誌のレビューによると、アスタキサンチンには抗酸化作用と抗炎症効果があり、心血管疾患の進行を抑え、心臓病の補助治療としても有用である可能性が示唆されています。
7.炎症を抑える効果
2016年に発表された『Digestive and Liver Disease』誌の研究によれば、クリルオイルは腸内の炎症を軽減する可能性が示されています。研究者によると、クリルオイルは炎症時に腸壁のバリア機能をサポートし、粘膜の修復を促進するほか、腸内の細菌の増殖を調整する働きもあります。このため、クリルオイルは腸の炎症緩和に役立つ可能性があると考えられています。また、オメガ3脂肪酸は全身の炎症を軽減する効果があるとも関連付けられています。
クリルオイル vs フィッシュオイル:
サプリメントの比較
クリルオイルはオキアミからのみ抽出されるのに対し、フィッシュオイルはサケやサバ、イワシなど脂肪分の多い魚の組織や肝臓から得られます。クリルオイルはフィッシュオイルの代替品として注目され、優れていると考える人もいます。
「オメガ3サプリメントとしてフィッシュオイルは長らく人気でしたが、最近ではクリルオイルの方がさらに優れたサプリメントであることが研究で明らかになっています」とシュルホフ博士は述べています。
研究によると、クリルオイルに含まれるオメガ3はフィッシュオイルよりも吸収されやすい可能性が示唆されています。14件の研究レビューによれば、クリルオイルのDHAとEPAはフィッシュオイルよりも体内に取り込まれやすい傾向があると報告されていますが、確定的な結論を得るためにはさらなる研究が必要です。
クリルオイルでは、オメガ3がリン脂質に結合しているのに対し、フィッシュオイルでは中性脂肪に結合しています。この構造の違いが、クリルオイルの吸収率を高める要因として考えられています。
また、クリルオイルとフィッシュオイルはいずれも血中のオメガ3濃度を上昇させる効果が同等であることも示されています。2015年に『Lipids in Health and Disease(脂質に関連する健康および疾患に関する研究を専門とするオープンアクセスの科学雑誌)』で発表されたランダム化比較試験によれば、フィッシュオイルとクリルオイルを同量摂取した場合、4週間後のDHAとEPAの血中濃度に有意な差は見られませんでした。
いずれも健康的な脂肪の優れた供給源ですが、クリルオイルの方が生体利用可能性が高いかどうかを確認するためには、さらなる研究が必要です。なお、フィッシュオイルの方がコストが低く、入手しやすいという利点があり、その健康効果に関する研究も多く蓄積されています。
クリルオイルサプリメントの潜在的リスク
クリルオイルを選ぶ前に、いくつかの潜在的なデメリットを理解しておくことが重要です。考えられるリスクには以下が含まれます。
アレルギー反応:
クリルオイルによるアレルギー反応は稀とされていますが、甲殻類アレルギーのある人は反応する可能性があるため、さらなる情報が得られるまでは避けた方が良いでしょう。
消化器系の問題:
クリルオイルサプリメント(および一般的なフィッシュオイルサプリメント)を摂取することで、ガスや下痢などの消化不良を起こすことがあります。
血液が固まりにくくなる:
クリルオイルに含まれるオメガ3脂肪酸には血液を薄める作用があるため、血液を薄める薬を服用している人や出血傾向のある人は、クリルオイルの摂取を始める前に医師に相談することが重要です。「クリルオイルの最大の潜在リスクの一つは、血液凝固に影響を与え、血液を薄める薬との相互作用を引き起こす可能性があることです」とシュルホフ博士は述べています。
環境への配慮
クリルオイルは、フィッシュオイルよりも持続可能な選択肢として販売されることが多いものの、クリルの乱獲や食物連鎖への影響について懸念が指摘されています。
クリルは、クジラやアザラシ、ペンギンなど多くの海洋生物にとって主な食料源であり、乱獲により生態系のバランスが崩れる可能性があります。このため、クリルに依存する多くの種に悪影響が及ぶことが懸念されています。クリルオイルの需要が高まることで、回復しつつあるクジラの個体数にも影響が出る可能性も指摘されています。2021年に『Nature』誌で発表された研究では、ヒゲクジラのクリル消費量が従来の推定よりも少なくとも3倍多いことが明らかになり、過去の見積もりが、過小評価されていたことが示されています。
クリルオイルの生産による環境への影響が懸念される場合は、倫理的かつ持続可能な方法で調達された製品を選ぶことが推奨されます。現時点では、クリルオイルが他のオメガ3サプリメントよりも吸収しやすいかどうかの結論は出ていませんが、フィッシュオイルと同等の効果があると考えられています。ただし、価格が高い点も特徴です。
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