今年の秋は、暦の上では初秋が過ぎたにもかかわらず、依然として高温が続いています。これは、中医学の視点で見ると、地球の五行のバランスが崩れ、湿気が多く、熱気が地中に降りず、「上熱下寒」という状態が起こっているためです。
「上熱下寒(じょうねつげかん)」は、体の上半身が熱く、下半身が冷える状態を指します。これは、体内のエネルギー(気)のバランスが崩れ、特定の部位に熱がこもり、別の部位が冷えるという不調を引き起こすものです。
このような症状になる原因は、脾胃に湿気が溜まり、機能が低下することにあります。脾胃のバランスが崩れると、その影響はすぐに腎臓に及びます。中医学では、脾胃を「後天の本(生まれてからの健康の基盤)」、腎臓を「先天の本(生まれながらの生命の根源)」と呼び、この2つの基盤が崩れると、さまざまな病気にかかりやすくなるのです。脾胃と腎をケアすることが、病気の予防と健康維持の鍵です。
秋の暑さが続く理由―「上熱下寒」とは?
古代中医学では、寒熱、乾燥、湿気といった自然現象と体の状態を密接に関連づけて考えます。体の不調は、気候の変化に対応したものであり、治療や養生は、こうした自然界のバランスを整えることに重点を置いています。これを理解することで、体を自然に調和させる方法が見えてきます。
2024年は「甲辰の年」とされ、土のエネルギーが強すぎるために湿気が多く、脾胃の機能が低下しやすくなっています。脾胃が湿気により抑えられると、消化が悪くなり、気血の流れが滞ります。これは「後天の本」である脾胃にダメージを与え、さまざまな不調の原因となります。
脾胃が滞ると、上半身の肺の気が下降せず、心臓が生み出す熱が肺にこもりやすくなります。その結果、咳や乾燥、鼻や喉、歯ぐきの炎症、さらには不眠や不安感、さらには肺の病気が発生しやすくなります。この状態は、秋の暑さが地面から降りず、空に滞っている現象と同じです。
秋の気候と体のバランス
秋は五行で「金」に属し、この金のエネルギーが熱を地中に下ろし、夏の暑さを大地に送り込む役割を果たします。このプロセスがうまくいけば、秋が進むにつれ、冬には地上が寒くなり、地下は温かくなります。しかし、もしこの熱の降下が妨げられると、秋の暑さが続き、体内でも「上熱下寒」という不調が生まれます。上半身が熱く、下半身が冷えるため、肺が乾燥しやすく、腎臓が冷え、手足が冷たく、腰や膝の痛み、頻尿といった症状が現れやすくなります。
自然界でも、地下水が温まらないと、春に新しい生命を育む力が不足し、次の年には悪循環が起こりやすくなります。これと同様に、私たちの体も、脾胃と腎をしっかりケアしないと、健康を維持するためのエネルギーが不足し、さまざまな病気が発生しやすくなります。
宇宙の五行と人体の関係
地球や宇宙全体は、五行のエネルギーによって支配されており、人間の力では自然全体のバランスを調整することはできません。しかし、中医学の五行の知恵を活かすことで、体内のバランスを整え、健康を保つことは可能です。古代には、大禹(だいう)が五行の知識を使って洪水を治めたという伝説もあり、陰陽五行の原理が病気や気候異常を治す力を持っていると信じられてきました。
このような古代の知恵を現代に活かし、人体を小さな宇宙と見立て、気候やエネルギーのバランスを整えることで、私たちは健康を守り、病気を予防することができるのです。
四神湯の原理を使って、
脾と腎をケアし、体質を整えよう
今年の秋は湿気が多く、上半身が熱く、下半身が冷える「上熱下寒」の状態が起こりやすい気候です。このような状況下では、体内のバランスを整え、脾胃(消化器系)と腎臓をケアすることが健康維持に重要です。湿気を取り除き、脾胃の機能を回復させ、肺の熱を下ろし、腎臓にエネルギーを補うことで、体の基盤を強化し、免疫力を高めることができます。
このようなケアに役立つのが、中国で古くから親しまれている「四神湯」という薬膳です。四神湯は、脾胃を強化し、腎臓をケアする働きがあり、体のバランスを整えるために使われてきました。通常、茯苓(ぶくりょう)、蓮子(れんし)、山薬(さんやく)、薏苡仁(よくいにん)を中心に、豚のスペアリブや豚の胃袋などを煮込んで作られます。
今回は、この四神湯の原理を参考にしながら、日本の食材を使った「類四神湯豚汁」をご紹介します。日本でも手に入りやすい食材を使って、日常の養生食として役立つレシピです。
四神湯豚汁の養生の原理
この豚汁は、栗、長芋、蓮根、ごぼう、枝豆、にんじんなどの食材を使い、四神湯の効果に似た働きを期待できます。これらの食材は脾胃を健やかに保ち、腎臓を強化し、湿気を取り除き、体全体のバランスを整える効果があります。特に、湿気の多い環境にいる人や、夏から秋への季節の変わり目で体が弱っている人に適した食材です。以下、それぞれの食材の効果を簡単に説明します。
食材の代替とその理由
栗 栗は、芡実(けんじつ)の代わりとして使います。栗には、腎臓を強化し、脾胃を健やかに保つ効果があり、特に体が弱っている人に適しています。芡実と同様、腎臓の機能を高め、消化を助ける働きがあります。
長芋 山薬(さんやく)の代わりに使います。長芋は、脾胃と腎臓、さらに肺を滋養し、気血を補う効果があります。消化を助け、免疫力を向上させ、特に脾胃と腎臓が弱っているときに役立ちます。
蓮根 ハスの実の代わりです。蓮根には、清熱、血を養う効果があり、消化を助け、血液の循環を良くする働きもあります。ハスの実と同様に、脾胃を強化するのに役立ちます。
ごぼう 茯苓(ぶくりょう)の代わりに使います。ごぼうは、肺の熱を取り、体内の気の流れを整える効果があり、茯苓のように体内の余分な湿気を取り除き、肝臓や腎臓の機能をサポートします。さらに、ごぼうの繊維が腸内環境を整え、便秘を改善します。
枝豆 薏苡仁(よくいにん)の代わりです。枝豆には、豊富なタンパク質と繊維が含まれており、清熱、脾胃の強化、消化促進に役立ちます。薏苡仁ほどの利水効果はありませんが、体内の余分な水分を排出し、湿気を取り除く効果があります。
にんじん にんじんは脾胃を温め、体質を強化する効果があります。四神湯の典型的な材料ではありませんが、体を穏やかに温め、免疫力を高め、脾胃のケアに非常に役立ちます。
結論
これらの食材は、四神湯の材料に近い効果を持ち、薬性も穏やかです。脾胃を整え、湿気を取り除き、腎臓を補い、肺を養う効果が期待できます。特に、現在の湿気が多い気候に適しており、免疫力を高める養生食として、日常的に取り入れることができます。
「四神湯豚汁」の作り方
材料(2~3人分)
豚肉の薄切り(バラ肉または赤身肉)100グラム
栗 4~5個(皮をむき、半分に切る)
長芋(ナガイモ) 50グラム(皮をむき、薄切り)
蓮根(レンコン) 50グラム(皮をむき、薄切り)
ごぼう 30グラム薄切りにし、水にさらす)
枝豆 50グラム(殻をむいた状態)
にんじん 30グラム(薄切り)
長ねぎ 1本(小口切り)
味噌 大さじ2(白味噌または赤味噌)
だし 500ミリリットル(昆布や鰹節のだし)
植物油 適量
塩と醤油 少々(調味用)
作り方
材料の準備 栗の皮をむき、長芋と蓮根の皮もむいて薄切りにします。ごぼうは薄切りにして水にさらし、変色を防ぎます。にんじんも薄切りにし、枝豆はあらかじめ茹でて殻をむいておきます。
1.豚肉と野菜を炒める 鍋に適量の植物油を入れて熱し、豚肉を炒めて色が変わるまで火を通します。続いて、長ねぎ、ごぼう、にんじんを加え、野菜が少し柔らかくなるまで炒めます。
2.だしと具材を加える 炒めた具材にだしを加え、栗、蓮根、長芋を入れます。沸騰させた後、弱火にして10~15分ほどじっくり煮込み、すべての具材が柔らかくなるまで煮ます。
3.味を調える 少量のスープを取り出し、味噌を溶かしてから鍋に戻します。全体をよく混ぜ、最後にお好みで塩や醤油を加えて味を整えます。
4.枝豆を加える 火を止める直前に茹でた枝豆を加え、軽くかき混ぜます。
5.盛り付け 出来上がった豚汁を器に盛り付け、仕上げに長ねぎを散らして完成です。
この「四神湯豚汁」は、風味が豊かで体に優しい食材をたっぷり使っています。秋の暑さが残る時期にぴったりで、体を滋養しながら湿気を取り除き、健康を守るための一品です。脾胃や腎臓をケアし、免疫力を高めたい方におすすめです。
(翻訳編集 華山律)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。