新型コロナの治療にイベルメクチンを使用すべきか否かをめぐる議論は今でも続いています。イベルメクチンで治療がうまくいったことを報告する医師が多い一方で、効果がないとする研究も一流の科学雑誌に掲載されています。
アメリカ食品医薬品局(FDA)は3月、イベルメクチンに関する誤った情報を削除しましたが、その有効性に関しては、エビデンスがないという当初の姿勢を崩していません。
したがって、イベルメクチン擁護派は新型コロナの治療効果を否定する研究を詐欺呼ばわりし、懐疑派はそれを反科学の陰謀論とみなしています。
長年にわたり抗ウイルス薬に関する数十件の臨床試験に携わった専門家として、私はイベルメクチンに効果がないとする研究を深く掘り下げてみることにしました。その結果は驚くべきものでした。
大手メディアは否定的に報道
イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して幅広い効果を持つことは、数多くの前臨床試験で判明しています。ウイルス感染に対する初期効果から、ウイルスが体内に引き起こす病変に対する効果にまで及びます。
イベルメクチンは私たちの細胞における新型コロナの付着、拡散、複製(1, 2, 3)を含むライフサイクル全体を抑制します。
さらに、イベルメクチンには抗炎症作用と臓器保護作用があり、新型コロナに関連した深刻な肺障害や急性呼吸窮迫症候群、心臓関連の合併症、血栓から身体を守る可能性があります。
ウイルスのみを標的とし、抗炎症作用や臓器保護作用に欠けた他の承認薬(パクスロビド、モルヌピラビル、レムデシビルなど)より、イベルメクチンの方が抗ウイルス作用があります。モノクローナル抗体は、それぞれの変異株に対して特異的に構築されなければならず、非常に高価です。
製薬業界では、医薬品の有効性と安全性を評価するために、そのメカニズムが実証された後に臨床試験が行われるのが一般的です。臨床試験には観察試験と介入試験の2種類があります。
観察試験は、医師が臨床現場で薬効を分析するためにしばしば実施されます。現場での観察からデータが収集されるため、干渉は最小限に抑えられます。
イベルメクチンが患者に及ぼす良い影響を、多くの医師が観察しています。ブラジルで88,000人以上の患者を対象に行われた観察試験では、イベルメクチンが感染率を49%、死亡率を92%、入院率を100%減少させたことが示されました。
製薬会社は、FDAの定める承認基準を満たす介入研究の実施が義務付けられており、その要件を満たすために、医学研究におけるゴールドスタンダードであるランダム化比較試験(RCT)がよく用いられます。RCTでは、患者をランダムに2つのグループに振り分け、一方の患者群には特定の薬剤を投与し、もう一方には投与して、結果を比べます。
イベルメクチンはすでに他の疾患に対する使用がFDAから承認されており、新型コロナ治療への適応外使用も法的・医学的に問題ないはずです。
そして、多くの医師がイベルメクチンの治療効果を認めているにもかかわらず、メディアは「新型コロナの治療に効果なし」と結論づけたRCTのデータを厳選して取り上げてきました。
しかし、これらのRCTではいくつかの重要な点が見落とされています。
不適切な投与量
薬剤が体内で適切な濃度に達し、数日間その濃度が維持され、十分な時間が経過して初めて、その治療効果が観察可能となります。
イベルメクチンに効果がないとされたRCTにおける大きな問題は、投与量が不適切だったことです。
推奨用量
メルク社のイベルメクチン(販売名:ストロメクトール)の添付文書によると、寄生虫疾患の治療には0.2mg/kgの単回経口投与が公式に推奨されています。
新型コロナ治療に対しては、世界中の医師の臨床経験に基づいて、投与量が推奨されています。
Front Line COVID-19 Critical Care Alliance(FLCCC)のガイドラインでは、新型コロナにばく露した直後から毎日0.4mg/kgの服用を推奨しています。累積投与量が200mgを超えれば、感染リスクはほぼゼロになると示されています。
複数の適応症を持つ薬剤で、疾患によって用量が異なることはよくあります。
さらに、イベルメクチンは、空腹時に服用するよりも食事と一緒に服用した方がバイオアベイラビリティ(体循環液中に到達した割合)が2.6倍高くなるため、食事と一緒に服用すべきです。メルク社の添付文書(2022年5月改訂版)もこれを裏付けており、「高脂肪食を摂った後にイベルメクチン30mgを投与すると、絶食状態でイベルメクチン30mgを投与した場合と比較して、バイオアベイラビリティが約2.5倍増加した」と記載されています。
FLCCCのガイドラインでも、イベルメクチンは「吸収を高めるために食事と一緒に、あるいは食後すぐに服用する」ことが推奨されています。
しかし、この重要な情報は一般的な資料には反映されておらず、逆に空腹時に水と一緒に服用し、前後2時間は食事を摂らないよう示されています。
空腹時に服用すると、推奨量の40%しか摂取できないことになります。体重の大きい患者の場合、投与量不足の影響はさらに大きくなる可能性があります。
RCT研究は不適切な投与量だった
3月に発表されたPRINCIPLE試験では、イベルメクチンは0.3mg/kgで3日間しか使用されず、参加者は服用前後2時間は食事をとらないようにアドバイスを受けていました。
2022年10月にJAMA誌に発表された別のRCT試験 ACTIV-6でも、絶食状態でイベルメクチンが投与されました。プロトコルには「イベルメクチンは空腹時に水と一緒に服用すること(食事から30分前または2時間に)」と記載されていました。
0.4mg/kgを3日間投与したことが報告されていますが、これは本来よりもはるかに短い期間です。しかし、付録16.3.3のプロトコル表4では、正確な投与量は0.269mg/kgだったことが示されており、0.4mg/kgは投与量の上限に過ぎませんでした。
世界的に認知されている試験ガイドラインICH Good Clinical Practiceにあるように、臨床試験は倫理原則を遵守しなければなりません。これを怠れば、試験における不正または詐欺とみなされ、誠実性の原則に反することになります。
2021年3月に発表されたJAMA研究では、軽度の新型コロナ患者に対して空腹時に0.3mg/kgを5日間服用するよう提案するという同じ過ちを繰り返しました。
2022年3月にNew England Journal of Medicine誌に発表されたTOGETHERと呼ばれるRCT研究では、0.4mg/kgで3日間だけ投与され、食事との併用については言及していませんでした。
しかし、この低用量であっても、イベルメクチンはプラセボと比較して入院率、死亡率、人工呼吸器の必要性を低減させました。
過少投与でも臨床的改善
RCT研究のデザインに大きな欠陥があったにもかかわらず、イベルメクチンは臨床上の有益性が示されました。イベルメクチンは命を救う薬であり、効果がないと結論付けるのは不適切です。
PRINCIPLE試験では、回復期間が自己申告されましたが、イベルメクチン投与群の方が通常治療群よりも中央値で2.06日短く、統計解析の結果、事前に定義された優位性基準を満たすことが示されました。
さらに、分析の結果、イベルメクチンが新型コロナに関連した入院と死亡を効果的に減少させたことが示されました。イベルメクチン群で入院または死亡は2,157例中1.6%のみだったのに対し、通常治療群では3,256例中4.4%でした。
低用量でもイベルメクチンが命を救う可能性が示されましたが、著者らは「新型コロナに対するイベルメクチンは、回復、入院、長期的転帰において臨床的に意味のある改善をもたらす可能性は低い」と結論づけています。
一方、報告書の付録には、イベルメクチンを投与された患者の臨床的効果として、すべての症状、全身の不調、筋肉痛、頭痛が緩和されるまでに要した時間など、数十件が記録されています。症状の改善も持続し、重症度も軽減しました。ところが、当記事の執筆中に出典のPDFがウェブサイトから削除されました。
例は他にもあります。上述のJAMA研究では、患者への投与量が過小ではありましたが、イベルメクチンによる治療で回復までの期間が2日短縮されました。ACTIV-6試験では、イベルメクチン投与群817例で報告された静脈血栓イベントは1件のみだったのに対し、プラセボ投与群774例中では5件でした。
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