胃酸逆流の症状を抑えるなど、一般的な胃腸薬を服用している人は、知らず知らずのうちに偏頭痛を発症するリスクを高めているかもしれません。
このような一般的な治療薬と偏頭痛との関連性について、アメリカ神経学アカデミーが発行する「Neurology Clinical Practice」オンライン版に掲載されました。研究では、胃腸薬が偏頭痛を直接引き起こすとは断定されていないものの、両者の間には何らかの関連があるのではないかと考えられています。
数百万人がPPIやH2ブロッカーを誤って使用
食後や横になった際に胃酸が食道に逆流する酸逆流には、酸を抑える薬が処方される事が多いです。これらの薬は、胃食道逆流症(GERD)、バレット食道、消化性潰瘍病などの胃酸に関連する上部消化管の障害に対して広く処方されています。
研究対象となった薬には、プレバシッド、プリロセック、ネキシウム、プロトニックスといったプロトンポンプ阻害薬(PPI薬)や、ファモチジン、シメチジン、ニザチジン、ラニチジンといったヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)があります。
プロトンポンプ阻害薬(PPI薬)は胃酸分泌を抑制する薬であり、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)は、胃酸の分泌を抑えることにより、胃痛や胸やけ、もたれなどの症状を改善する効果があり、症状が現れたら服用する薬です。
これらの薬は副作用が少ないとされていますが、研究者たちはこれらが過剰に処方されていると指摘しています。アメリカでは1500万人以上がPPIを処方されており、その上、医師の診察を受けずに市販薬としてこれらを購入する人も多いと、セントルイスのワシントン大学医学部の報告で明らかにされています。
「酸逆流や他の症状を管理するために酸を抑える薬が必要とする人もいることを理解することが大切です」と、栄養士であり研究の主任研究者であるマーガレット・スラビン氏はプレスリリースで述べています。「これらの薬やサプリメントを服用している偏頭痛や重度の頭痛の患者は、医師と相談して継続するかどうかを決めるべきです」
一部の胃腸薬が偏頭痛のリスクを70%高めるか
この研究で、スラビン氏とそのチームは、胃酸を抑える薬を使用している約1万2千人のデータを分析し、過去3か月間に偏頭痛や重度の頭痛を経験したかを調査しました。プロトンポンプ阻害剤(PPI)を使用している参加者の約25%が偏頭痛や重度の頭痛を報告したのに対し、薬を服用していない人では19%でした。
偏頭痛の発生率だけを見ると、PPIを服用している人は服用していない人に比べて70%も偏頭痛になりやすいことがわかりました。
H2ブロッカーを服用している人の4人に1人が重度の頭痛を訴えており、これは薬を服用していない人が5人に1人と比較しています。H2ブロッカーを服用している人は、服用していない人に比べて偏頭痛になるリスクが40%高いとされています。
単純な制酸薬でもリスクが増加することが明らかになりました。制酸薬を服用している人は、胃酸を抑える薬を一切服用していない人に比べて、偏頭痛になる確率が30%高くなるという事を研究チームは発見しました。
研究では、年齢、性別、社会経済的地位による差異も明らかになりました。若い女性で経済的に困窮している人ほど、偏頭痛や重度の頭痛を経験する傾向があります。食生活も影響を及ぼし、質の低い食事をしている人は偏頭痛や重度の頭痛をより多く経験しています。また、ほとんどまたは全くアルコールを摂取しない参加者は、偏頭痛や重度の頭痛が少ないことが分かりました。
胃酸を抑える薬の使用と偏頭痛の間の正確な関連性はまだ特定されていませんが、初期の研究によると腸内フローラが偏頭痛に影響を与える可能性があるとしています。
特定の腸内細菌が偏頭痛や胃腸疾患の頻度を増加させると関連付けている研究もあります。これらの状態の間には多くの関連が指摘されています。胃酸を抑える薬によって腸内環境に変化が起きると、タンパク質に影響を与える腸内細菌の機能が低下することがあります。初期研究によると、この現象が偏頭痛にも同様に見られると考えられます。
リスクを冒す価値はあるのか?
研究チームは、酸分泌抑制剤だけが片頭痛の原因ではないと指摘しています。
「これらの薬は過剰処方される事が多く、最近の研究では、プロトンポンプ阻害薬の長期使用による別のリスクも明らかになっています。たとえば、認知症のリスクが高まるというものです」とスラビン氏はプレスリリースで言及しました。
プロトンポンプ阻害薬を長期にわたって服用することで生じる可能性のある他の健康リスクには、骨折のリスクの増加、腎臓病、消化器系の感染症、マグネシウム不足などがあります。
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