毎年、世界で約100億キログラム(1000万トン)のコーヒー豆の出がらし(コーヒーかす)が出てきてしまいます。通常、その出がらしは環境臭気の除去(脱臭剤)や肥料の副素材などに使用されますが、実は、コーヒーかすの大部分はほとんど再利用されていないのです。
ところが、最近、オーストラリアのある大学は、コーヒーかすを熱分解し、コンクリートに添加することにより、コンクリートの耐圧強度が大幅に向上することを発見しました。
オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)の研究チームは、コーヒーかす(SCG)を無酸素環境の下で熱分解し、それをSCGバイオ炭(使用済みコーヒーかすを材料とした、生物の活性化および環境の改善に効果のある炭化物)に変換し、コンクリートに添加することで、コンクリートの耐圧強度を30%向上させることに成功したのです。
この研究成果は、最新の『ジャーナル・オブ・クリーナー・プロダクション』(Journal of Cleaner Production)に発表されています。
コーヒーかす(SCG)は有機廃棄物であり、コンクリートに入れる前に処理する必要があります。そのままだと、コーヒーかすなどの有機物をコンクリートに直接加えることになり、コンクリート粒子の水和反応が低下し、耐圧強度に影響を及ぼしかねません。
研究者は、コーヒーかすを350°Cと500°Cの無酸素環境に置き、2時間加熱し、SCGバイオ炭を生成しました。そして、このSCGバイオ炭を、コンクリート中の砂に置き換えて使用し、コンクリートの耐圧強度の変化を測定する複数の実験を行ったのです。
350℃での熱分解によって生成されたSCGバイオ炭は、異なる比例でコンクリートと混合された結果、15%の体積比で、コンクリート全体の耐圧強度を30%近く高めることができることがわかりました。
500℃で生成されたSCGバイオ炭の結果は、15%の体積比で、コンクリート全体の耐圧強度を22.9%増加させることができることが判明しました。
この研究では、添加される SCGバイオ炭の割合が高くなるほど、逆に、コンクリートの耐圧強度の向上が鈍感になり、つまり、入れすぎには注意を要するという結果なのですね。
さらに、他の多くの器具を通しての検査結果からも、500°Cで熱処理されたSCGの炭素、窒素、硫黄含有量が最も多く、350℃で熱分解したSCGが次に高いことが判明しました。また、熱処理されたSCGの金属と鉱物含有量は、未処理のSCGよりも高くなります。
研究者はまた、熱処理後にSCGが多孔質構造を生成し、この構造は熱処理温度の上昇とともに増加し、コンクリートスラリー(スラリー ( slurry) や スライム とも呼ばれる 懸濁体(けんだくたい)のことで、液体中に鉱物や汚泥 などが混ざっている混合物のことが多い)が多孔質バイオカーボン材料に浸透しやすくなり、コンクリート全体の耐圧強度を向上させることを示したのです。
RMIT大学のキルマーティン・リンチ博士は、「コンクリート業界は、コーヒーかすなどの有機廃棄物のリサイクルに重要な貢献をする可能性があります。研究はまだ初期段階にありますが、この新たな発見は、廃棄物を削減する革新的な方法を提供しています」と述べています。
現在、世界中で毎年約500億トンの天然砂が建設プロジェクトに使用されています。この問題について、研究チームのリーダーである李杰(Jie Li)教授は、通常、コンクリートに使用される砂は、川の床や川岸から採掘されており、過度の採掘により、環境が深刻な被害を受けていると報告しています。SCGバイオ炭は砂の一部を代替し、環境被害の軽減が可能だそうです。
この研究チームは、SCGバイオ炭を含むコンクリートに対して、さらに機械的および耐久性試験を実施する具体的な計画を策定し、また、さまざまな産業と協力して研究成果を発展させる予定でいます。
この研究は、オーストラリアのARUP社、Earth Systems Pty Ltd、Talwali Coffee Roasters、およびRMIT大学の支援を受けています。
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