「ほうれんそう」の漢字の表記は「菠薐草」、「菠薐」は昔のペルシア(今のイラン)をさしており、西域から来たものです。西洋では野菜の王とされており、現代人は鉄分補給の天然良薬として称賛しています。
一方、「ほうれん草は鉄分補給の効果に期待できない」「人体が吸収できる鉄分は少量であり、効果を発揮できない」という理由で否定的な声もあります。いったいどちらの主張が正しいのでしょうか? 中国伝統医学(中医学)からその疑問に答えましょう。
肝を養い、血を補い、酒を解き、熱を取り除く
歴代の中医学の古典では、ほうれん草は血管を通し、肝を養い、血を補い、酒を解いて毒を取り除くとされています。また、胃腸の熱邪を除き、腸を潤し便通を良くします。
『本草綱目』には、「ほうれん草は味が甘く、気は冷たくて滑らかであり、毒性がない。主に血管を通し、胸膈を開き、気を下げて中を調え、渇きを止めて乾燥を潤す」と記されています。『食療本草』では、ほうれん草は「五臓に効き、胃腸の熱を通し、酒毒を解く」とされています。
血脈が滞りなく流れるためには、2つの条件が必要です。1つ目は、血液の量が十分であり、穏やかであること、つまり、火気が強すぎず乾燥していないことです。血液中の水分がバランスを保つことで、体の五臓六腑、肌、四肢を養います。気血思想において血の部分を指し、気に対して血は陰の部分に属します。中医学では陰分という言葉がよく使われます。血は陰分に属し、充足と滋潤であることが必要です。
2つ目の条件は、気です。経絡の中の気は、血脈の運びを担当し、人体の陽のエネルギーであり、電気回路における電気エネルギーのようなものです。気は順調に流れなければなりません。そうでなければ、気の滞りや血の停滞が起こります。
肝臓の経絡は、気血の調節を専門とし、道路交通の指揮官のような役割を果たします。そのため、中医学では、「肝は血を蔵し、五行は木に属し、木は散らす性質があり、気血を通じて血脈を調節する」と言われています。
ほうれん草は、緑色で木に属し、肝経に入り、血管を潤し、肝の火を取り除き、血管を通して肝を養い、血を解いて毒を除去します。現代の科学では、ほうれん草には鉄分が豊富で栄養素が多く含まれ、血を補う効果があることが分かっており、過言ではありません。
ほうれん草には鉄分や他の栄養素が含まれていますが、それ自体が鉄分や栄養素というわけではありません。ほうれん草は生命体であり、目に見えない経絡エネルギーを持っています。鉄分と多くの元素が自然に組み合わさり、人体の経絡を動かし、脾胃の消化機能を回復し、気血が自然に補充されます。ただの鉄分では達成できない治療効果です。ほうれん草の鉄分の多さは、古代医学の創意工夫の証しです。
乾燥を潤し、熱を清め、便秘を解消
中医学が語る「胸膈を開く」という概念は、西洋医学の解剖学的な意味ではなく、経絡の気が滞っている場合に、その滞っている気を解放し、通すという意味を持ちます。ほうれん草は胸膈を開く能力があり、胸部や腹部の膨満感を解消することができます。その原理は、肝を養い、血を調節し、脾胃を過度に抑制しないという性質によるものです。
五行論では、木が土を制するとされています。肝気は木に属し、脾胃は土に属します。春は自然界で木のエネルギーが発生する季節であり、人体の肝気はそれに対応して通じています。この時期には、肝火が上昇しやすく、肝火が過度に乾燥していたり、気血が不足していたりすると、肝経が抑制され、内熱が発生します。
これにより、脾胃の土の機能を過度に制することになり、脾胃や腸などの消化器官の問題、胸腹の膨満感や便秘が引き起こされます。これは経絡の気の働きが滞っている現象です。脾胃が問題を起こすと、気血の生成能力が自然に低下します。そのため、ほうれん草は気を開き、脾胃を調節し、その機能を回復します。
これこそが、伝統的な養生学が季節に従った養生を推奨し、春季には肝を養い乾燥を潤すことを提唱する理由です。肝が健康であれば自然と脾胃も健康になります。ほうれん草はまさに旬の野菜で、それを用いて肝を養い、血を補うと、自然と効果が最も高まります。
ほうれん草は腸と胃の二つの経絡に入り、その性が涼しいため、腸胃を潤すと同時に、腸胃の熱毒を清めることができます。腸を滑らかにし通じやすくするため、便秘解消の良薬となります。
西洋人に最適、体質が虚弱で胃が寒い人は要注意
中国には「一方の水土が一方の人を育む(環境が人を造る)」という諺があります。ほうれん草が西域から来ているのであれば、西洋人の体質や食習慣に必然的に適しています。西洋人は肉や麺を好む傾向があり、また酒もよく飲みます。肉や麺、酒の多くは温熱性質を持っています。
肉は消化が難しく、長期にわたる摂取は血気を熱く乾燥させ、脾胃を損ない、便秘を引き起こしやすくなります。ほうれん草は涼性で胃腸に入り、乾燥を潤し、熱を除き、腸を通じやすくします。また酒の解毒効果もあり、まさに西洋人の健康管理には最適です。
『本草求真』によれば、「ほうれん草は滑らかで冷たく、味も甘い。そのため胃に入り清浄化する(甘味は五行で土に属し、そのため脾胃に入る)し、その熱と毒は全て腸胃から排出される」と述べられています。そのため、西洋人が年間を通じて肉や麺、酒を飲食しても過度な危害は見られず、古来西洋人から「野菜の王」と称えられてきました。
また、同書では「北の人々は肉や麺(温熱性)を多く食べる。これを食べると平衡(ほうれん草の寒涼性がその熱を中和し、バランスを保つ)。南の人々は魚や亀、水稲を多く食べる。これを食べると冷える。」「多く食べると足が弱くなり、腰痛を発症し、冷え性になる。魚と一緒に食べると、霍乱を引き起こす。だから、これは野菜として提供できるが、その使用はよく考えて行うべきである」と述べられています。
したがって、ほうれん草は良いものですが、その性質は寒涼性で腸を滑らかにします。腎や胃腸が虚寒の人は、食べる際に注意が必要です。鶏肉や牛肉、羊肉などの温熱性の肉と一緒に食べ、胡椒やネギ、生姜などの寒さを散らす温性の調味料を加えて調和させることがおすすめです。また、魚や海鮮などの水産物と一緒に食べることを避けること。そうしないと腹痛や下痢を引き起こす可能性があります。
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