しばらくすると少年が店に到着し、呂玉を見ると深くお辞儀をしました。呂玉は少年の姿を見て、なぜか心から喜びの感情が湧き出てきました。そして、呂玉は少年の左側の眉に傷があるのに気づきました。
その時、呂玉はさらわれた息子にも、左の眉に転んでできた傷跡があったことを思い出しました。年齢といい、名前といい、左眉に傷痕があることといい、もしかしたらこの少年はさらわれた息子ではないかと呂玉は思いはじめました。
ドキドキする心を抑えながら、呂玉は少年に家族のことなどを尋ねてみました。すると少年は、名は喜児、姓は呂で、2人の叔父がいると言いました。呂玉は震えた声で「我が子よ!」と叫びながら、目の前の少年を抱きしめ、涙を流し喜びました。喜児も目の前にいるのが父親だとわかり、涙を流し再会を喜びました。
呂玉は気持ちを落ちつかせ、陳朝奉に感謝の言葉を伝えました。陳朝奉は、「呂さんは金を拾ってもねこばばせずに持ち主に返したため、神様がその心に感動して、こうして、我が家に来させ、長年、行方不明だった息子と再会させたのだ」と話しました。その後、陳呂両家の子供たちは結婚することになりました。
翌日、呂玉は息子を連れて陳朝奉のもとへ行き、別れを告げました。出発の際、陳朝奉は旅費だと言って銀20両を呂玉に渡しました。呂玉は断りましたが、陳朝奉は聞く耳をもたず、仕方なくこの餞別を受け取ることにしました。落とし物を返したことで、呂玉は行方不明の息子と再会でき、その上、良い縁談までまとまりました。呂玉は神様になんとお礼をしたらいいのかわからず、陳朝奉がくれた20両を寺に寄付することにしました。
翌朝、呂玉親子は船に乗って家に向かいましたが、その途中で大きな騒ぎに出くわしました。何事かと周りの者に尋ねたところ、船が壊れ、乗客が川に落ちたことがわかりました。岸の人々は救助のために船を呼んだのに、船員は金を要求し、喧嘩になっていたのです。事情を知った呂玉は、寺などに寄付するよりも目の前の人命のほうが大事ではないかと「川に落ちた人たちを全員助けた者には20両をだすぞ」と声を上げました。
すると、船員たちは船を動かして、川に落ちた者を助けはじめました。呂玉は約束通り、船員たちに20両を払い、皆から「ありがとう」とお礼を言われました。その時、人込みから「お兄さん!なぜここに?」という声が上がり、呂玉が振り返ってみると、なんと、一番下の弟、呂珍がずぶ濡れの姿でそこに立っていました。
呂玉はとても感激していました。もし20両を投げ出して川に落ちた人を助けなかったら、弟は今頃溺れ死んでいたでしょう。彼は呂珍にこれまでのことを話しました。
呂玉は貪欲にならず、拾ったお金を持ち主に返しました。そんな呂玉に、神様は生き別れになった息子に再会させ、弟の命も助けさせ、そして一家団らんの福報を与えたのです。
注:『明‧馮夢龍《警世通言》第5卷 呂大郎還金完骨肉』より
(翻訳・郡山雨来)
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