一部の「無脳症」の人のなかには、通常の日常生活が送れる人もいます。大脳とは一体、どのように機能するのでしょうか。(Shutterstock)

董宇紅博士が語る「不思議な脳のおはなし」(1)

世界的に権威のある科学誌『サイエンス』1980年12月号に、サイエンスライターのロジャー・レウィン(Roger Lewin)氏が書いた記事「あなたのは本当に必要か?(Is Your Brain Really Necessary ?)」が掲載されました。

(ロジャー・レウィン氏の記事はこちらから)

 

「脳のない学生」が学位取得

その記事のなかでレウィン氏は、先天的に脳がほとんどない「(水頭症性)無脳症」でありながら、英シェフィールド大学で数学の学位を取得した学生の実例に触れています。

同記事は、シェフィールド大学の小児科教授で、長年にわたり無脳症児の治療と研究にあたってきたジョン・ローバー(John Lorber)医師の業績を引用したものです。

そのなかに取り上げられた当該の「学生」は、通常より大きくなった頭蓋骨の内部は脳脊髄液ばかりで、脳はその液圧によって委縮しているため、ほとんど形として存在していません。

しかし彼は、友人と普通に社交し、全く問題なく日常生活を送ることができます。

しかも、最上級クラスに在籍するほど学業成績が優秀であり、知能指数は126に達していたのです。

これは一体、どういうことなのでしょうか。

 

厚さ1ミリになった「脳」

もちろん、この学生の1例のみを取り上げ、他の無脳症(水頭症性無脳症)の患者にまで敷衍して論じることはできません。

しかし、実例としてそれが存在する以上、そもそも脳とはどのように機能するものなのか、その根本を考えることも求められるのではないでしょうか。

先ほどの記事「あなたの脳は本当に必要か?」に再度触れましょう。

ジョン・ローバー医師が、この学生の頭部を、当時導入されて間もないCTスキャナーを使って調べたところ、驚くべきことが分かりました。

「彼の脳は、厚さが1ミリだった。通常の脳の厚さは4.5センチであるのに」。

この学生は、本当に「脳がない」状態だったのです。

 

頭蓋内にたまった脳脊髄液のため、この「学生」の脳の厚さはわずか1ミリでした。通常、脳の厚さは4.5センチほどです。(健康1+1/大紀元)

 

脳脊髄液が頭蓋内に充満する

正常な人の頭蓋内には、左右の脳と脳脊髄液があります。

脳脊髄液は、脳と脊髄の内部で合成され、体内を循環する透明な液体です。しかし、脳脊髄液が正常に循環しない場合、液が頭蓋内に充満し、水頭症になる人もいます。

そうなると、脳内の他の組織が液体で圧迫されてしまいます。脳の50~95%を超える領域が脳脊髄液で置換されると、実質的に「脳がない」状態になってしまうのです。

英シェフィールド大学小児病院は、世界最大の小児二分脊椎症治療センターの一つです。シェフィールド大学の神経学教授で、水頭症を専門とするジョン・ローバー医師は、一連の類似症例を系統的に調査しました。

ローバー医師は、軽度の水頭症から重度の水頭症まで、約600人の子供を調査しました。

なかには、脳内の95%を「水」が占める水頭症の子供もいます。

その結果、約600人の水頭症の子供のうち、約5%に当たる30人が、知能指数は平均値である100以上であり、生活や学習における能力は、普通の子供と大きな差がないことを発見しました。

しかもこの30人は「最も水頭症が重症であるグループ」に偏っており、そのグループ内では約半数(50%)が知能指数100以上だったのです。

 

最も水頭症が重症であるグループのなかで、約半数の子供が、知能指数は100を超えています。(健康1+1/大紀元)

 

(次稿に続く)

(口述・董宇紅/翻訳編集・鳥飼聡)

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