αリノレン酸は体内でオメガ3脂肪酸に合成されます。オメガ3脂肪酸は、筋肉の成長を促し、体脂肪を減らすことに有益な物質です。(Shutterstock)

「減量したいなら脂肪を摂る」その逆説的真理とは何か?

脂肪を減らすために欠かせない栄養素とは、何でしょうか?

避けてはいけない「良質の脂肪」

それは、ちょっと意外に思われるかもしれませんが、食物のなかに含まれる「脂肪」です。つまり「良質の脂肪を食事から摂取すること」が、ダイエット減量はもちろん、健康維持には不可欠だということです。

食物に含まれる脂肪には、「トリアシルグリセロール」と「コレステロール」という2種類の脂肪があります。

日常の飲食物に含まれる油脂の大部分はトリアシルグリセロールです。それらは、乳製品、ナッツ類、種子、肉類など、いろいろな食物の中に存在しています。

トリアシルグリセロールには、液体(不飽和脂肪酸)と固体(飽和脂肪酸)の2つの形態があります。いずれも、ビタミンの吸収を助け、各種ホルモンを生成し、皮膚や髪の毛の健康を維持するなど、人体における重要な役割をもっています。

 

常識的感覚で対処する

飽和脂肪酸は、常温では固体の状態で、肉類、乳製品、卵などに含まれています。従来、飽和脂肪酸は「心臓病のリスクを高める」と考えられてきましたが、近年この考え方を改める「科学的挑戦」がなされています。

米国の医学誌『アナルズ・オブ・インターナル・メディシン』2014年3月発行号では、「飽和脂肪酸は心臓疾患の原因にはならない」という研究が発表されました。

それによると、飽和脂肪酸の摂取量を減らすことは(特に女性の場合)高比重リポタンパク質(善玉コレステロール)の量を急減させ、かえって心臓疾患にかかるリスクが高くなると言います。

これまでの研究を見る限り、飽和脂肪酸をどれだけ摂取できるかをあえて言う人はいません。したがって、より詳細な研究成果が出るまでは、高脂肪食を過剰に避けるのではなく、また過剰に摂取するのでもなく、常識的な食事量のなかで観察するのが適切であると思われます。

これは例えば、肉類に含まれる飽和脂肪酸は、適量ならば健康に有益ですが、摂りすぎてはいけないという、極めて常識的な感覚をもつということです。

 

肉類に含まれる飽和脂肪酸は、摂りすぎてはいけません。(Shutterstock)

なぜ「地中海食」が良いのか

不飽和脂肪酸は、常温では液体であり、冷却すると凝固します。ただし、種類によっては、低温下でも凝固しない不飽和脂肪酸もあります。

各種のナッツ類、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アボカド、ベニバナの種、ゴマ、ヒマワリの種、トウモロコシなどには、不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。

不飽和脂肪酸は、心臓病のリスクを下げることが研究でも証明されています。

オリーブオイルを多く摂取する「地中海式ダイエット」が健康に良いと考えられている理由の1つは、その点にあります。

不飽和脂肪酸は、大きく「一価不飽和脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」に分けられます。このうち後者の「多価不飽和脂肪酸」が、体内では合成できないため食事から摂取しなければならない必須脂肪酸です。その主な供給源は、α-リノレン酸とリノール酸という2つの物質です。

 

単純には言えない「食物の善悪」

α-リノレン酸は体内でオメガ3脂肪酸になり、リノール酸はオメガ6脂肪酸になります。

この2つの物質は人体に多くの影響を与え、必要摂取量も定められています。ただ、その化学的作用は複雑多様であるため、とりあえず私たちが知っておく必要があるのは以下の2点です。

リノール酸は、体内でいくつかの化合物に変換されますが、その中には炎症を抑えるガンマ油(アマニ油)や、逆に炎症を促進するアラキドン酸(AA)などが含まれます。

α-リノレン酸は、オメガ3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)またはエイコサヘキサエン酸(DHA)に変換されます。

このEPAとDHAについては科学者が多くの研究を行っており、「炎症の軽減」「気分を改善」「筋肉の成長を速める」「認知能力を高める」「脂肪削減の促進」など、複数の健康上の利点があることを確認しました。

ゴマ、ベニバナの種、ヒマワリの種、トウモロコシ、多くのナッツ類には多価不飽和脂肪酸が含まれています。(Shutterstock)

そこで「人間に対して、オメガ6脂肪酸はマイナス作用、オメガ3脂肪酸はプラス作用がある」という主張は、あまりに単純化した見解ですが、方向性は概ね正しいと言えます。

確かに、食物中にオメガ6脂肪酸が多すぎる、あるいはオメガ3脂肪酸が不足すると、健康上の問題が起こりやすくなります。

しかし、米イリノイ大学の研究者らは、オメガ3脂肪酸の摂取不足は健康に有害であることを証明する一方、「オメガ6脂肪酸の摂取量を増やすことが心臓病リスクを高めるのではなく、むしろリスクを減らすことになる」という研究結果を出しています。

そのため科学者の関心は、オメガ3とオメガ6の割合を検討するのではなく、十分な量のオメガ3脂肪酸を摂取することに重点が置かれ、卵や肉などの成分研究を通じて「どの食品に多くのオメガ3脂肪酸が含まれているか」を専ら探求しているようです。

食物の「誤解」を解く

食物中のもう一つの脂肪は、ワックス状のコレステロールです。

コレステロールは体内のあらゆる細胞に存在し、体内でホルモンやビタミンDなどの、消化を助ける物質を作るために使われます。

数十年前には、卵や肉などのコレステロールを含む食品が「心臓病のリスクを高める」と考えられていました。しかし現代の私たちは、話がそれほど単純ではないことを知っています。

長らく誤解されてきた卵は、もうこの「汚名」を背負う必要はありません。

加工された肉製品は心臓発作のリスクを高める可能性を否定できませんが、未加工の肉はそうではないという研究もあります。

 

加工肉は心臓発作の確率を高めます。(ShutterStock)

心臓の健康とコレステロールとの関係を特定するのが難しい理由は2つあります。

1つはコレステロールを多く含む食品には、心臓発作のリスクを高める飽和脂肪酸が多く含まれているためです。

もう1つは、体がリポタンパク質を介して、血液中のコレステロールを細胞に運ぶことです。リポタンパク質とは脂質が血漿中に存在する状態のことで、「低比重」と「高比重」の2種類のリポタンパク質で構成されています。

低比重リポタンパク質とはいわゆる「悪玉コレステロール」のことです。血液中にこれが大量に含まれていると、動脈が詰まりやすくなり、心臓疾患のリスクが高まることが指摘されています。

これに対し、高比重リポタンパク質は、コレステロールを肝臓に運び、人体のさまざまな必要に応じて処理する有益性から「善玉コレステロール」と呼ばれています。

さて再び、表題の「減量したいなら脂肪を摂る」に戻りましょう。

ダイエットや減量を目指す人、および健康を願う全ての人は、脂肪の全てを避けるのではなく、不飽和脂肪酸が豊富に含まれるナッツ類などを食べて、「良質の脂肪を食事から摂取すること」です。

この点にご留意の上、皆様お元気でお過ごしください。

(翻訳編集・鳥飼聡)

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