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「畑の肉とは限りません」 おいしくて役立つ豆の話

明末清初の僧、隠元隆琦(いんげんりゅうき 1592~1673)が来日したのは、江戸時代初期の1654年。着いたところは長崎でした。

その際に、中国大陸からもってきた「」がインゲン豆と称され、日本でも広く栽培されるようになったと言われています。

「豆」を食した禅寺の修行

伝承通りの史実であるかどうかは、分かりません。大豆(だいず)や小豆(あずき)は、はるか昔の縄文時代から日本にありましたが、インゲン豆は確かに、近世になってから日本にもたらされたのでしょう。

隠元禅師の日本での宗教活動は、長崎の興福寺から始まり、のちに京都宇治に明様式の大伽藍である黄檗山萬福寺を開く(1661)ことで集大成されます。

萬福寺では、師の教えを守って、今日でも中国音で勤行(ごんぎょう)が行われています。

隠元禅師は、おそらく日本語を解せなかったと思われますが、そうであればなおさら「隠元さまが、唐土から珍しい豆をもってこられた」という物語は、宗教家の行動に付随しがちな好印象のエピソードとして、日本人に歓迎される十分な効果があったでしょう。

普茶料理(ふちゃりょうり)という中国式の精進料理があります。これも隠元禅師の来日以後に、その中国禅のなかの食文化として伝えられたといって間違いはありません。

動物性食材の不使用はもちろん、五葷(ごくん)といわれる臭気のつよい野菜も禁忌とされるなかで、いかに見事なコース料理をコーディネートするかに精魂を込めたような、まことに「中国っぽい工夫」をこらした料理です。

植物性タンパクの宝庫

さて、その精進料理にも使われた「豆」について考えてみたいのですが、肉や魚に代わるタンパク質の源として、豆類は主力ともいえる存在でした。

昔の日本人は、獣肉を食べる習慣が西洋人のそれに比べてはるかに少なく、主として海や淡水の魚介類からタンパク質を摂ってきました。

江戸の街には「ももんじ屋」という、鹿やイノシシなどの獣肉を供する料理屋があり、特に幕末に流行しましたが、それも一部の富裕層の喰い道楽でしかなかったのです。

庶民の日々の健康を支えたのは、やはり豆腐、納豆、がんもどき、たまに大衆魚のイワシやサンマが膳に乗るという、(白米偏重を除けば)質素ながらも合理的な食事だったといってよいと思います。

昔の人には、もちろん「タンパク質」などという栄養学の知識はなかったわけですが、「人間の血肉を養うのはどんな食材であるか」については経験的に知っていました。

そうした歴史から、今日でも「豆は畑の肉」というような言い方をされて、積極的に食べることを推奨されます。

確かに豆類は植物性タンパクが豊富で、「畑の肉」という比喩は間違いではないのですが、肉と全く同じかというとそうでもなく、やはり豆は豆として、その適切な利用法を理解しておいたほうがいいのではないでしょうか。

「畑の肉」ではない豆もあります

ここで台湾の栄養士で、食品科学の博士号をもつ陳小薇さんに助言していただきます。

陳さんによると、豆類には小豆、緑豆、枝豆、大豆、エンドウ(豌豆)など、いろいろな種類がありますが、それを「大きく二つのカテゴリーに分けることができる」と言います。

一つは「五穀雑穀類」です。

小豆、緑豆、エンドウ、そら豆、インゲン豆、ライ豆(インゲン豆の一種)などは、タンパク質の含有量が少なく炭水化物が比較的多いため、五穀雑穀類に分類されます。いわゆるデンプン類に近い食材と見なす、ということです。

例えば、日本では「ミックスベジタブル」という三色の食材が、肉料理のつけ合わせによく使われますね。

その「三色」には、黄色のトウモロコシ粒、赤いニンジンのダイスカット、それに青の「グリーンピース」と呼ばれる青エンドウ(あるいはカットしたインゲン豆)が使われます。

このなかの「青」は、野菜というより、デンプン質の「雑穀」と考えていただきたいのです。糖尿病などで食事制限をされている方は、血糖値を管理する上で、その分のカロリー計算をお忘れにならないようご注意ください。

陳さんによると、「五穀雑穀類」に属する豆類の特徴は「粉っぽい食感」または「和菓子のあんこのような性質があるもの」だそうです。

もう一つは「豆魚卵肉類」です。

これはタンパク質が比較的豊富な豆類のことで、大豆、枝豆(大豆の若い豆)、黒豆の3種がその代表です。

これらの豆は、筋肉を増強し、腎臓の機能を補い、脾臓を健康にする栄養源となります。こちらは「畑の肉」と呼んでも、よさそうです。筋力アップには「大豆」「枝豆」「黒豆」をおすすめします。

台湾には、信仰上の理由または個人の健康観のため、人口の10%に当たる菜食主義者がいます。これらの人は、肉類を一切食べないので、タンパク質が不足しやすく、筋肉がひどく失われることがあります。陳小薇さんによると、この3種類の豆およびそれを原料とする食品は、菜食主義者のタンパク質補給に適しているといいます。

肉類や乳製品以外でタンパク質を摂るには、豆類のなかのこの「3種」が良いとのこと。日本の皆様も、この点は、ぜひご参考にされてはいかがでしょうか。

興味深いことに、漢方医学の視点からみると、この3種類の豆は「色によって効能が違う」のだそうです。

漢方医の葉啓民氏によると、枝豆は「青大豆」とも呼ばれるように青であるため、肝臓に入って、肝臓の機能を補います。

枝豆は台湾でもよく食べられており、年間を通して冷凍したものが販売されていますが、食べる時は必ず加熱してから食べてください。冷たいままの枝豆を食べると、脾臓と胃の健康を損ねることになります。

黒である黒豆は、腎臓に入って、腎臓の機能を補います。

大豆は中国語で「黄豆」というように黄色ですから、脾臓に入り、脾臓に有益な作用をはたらきます。少量を食べると消化吸収を助け、排便を促進することができます。

ただ、多く食べると、ガスが溜まりやすく、痰が湿って、咳が出やすくなります。風邪で痰が絡んでいる時は、大豆や豆乳はしばらく控えてください。

豆といっても、いろいろな種類や特徴があるものですね。

最後に、もう一つ。日本の豆には「鬼は外」で邪気を祓うという、世界でも稀な「超能力」があります。

おいしくて、病を祓い、健康に役立つ、すごい「豆」のお話でした。

(翻訳編集・鳥飼聡)

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