世界で最も厳しい部類に入る香港の新型コロナウイルス検疫措置を巡り、経済団体が政府に緩和を求める声を強めている。写真は香港で7月撮影(2021年 ロイター/Tyrone Siu)

アングル:香港、厳しい入国制限で金融ハブの魅力低下も 頭脳・資金流出

[香港 31日 ロイター] – 世界で最も厳しい部類に入る香港の新型コロナウイルス検疫措置を巡り、経済団体が政府に緩和を求める声を強めている。政府は緩和姿勢を見せておらず、企業幹部や投資資金の流出につながる恐れがある。

ロンドンやニューヨークのバンカーが旅先から戻るとすぐにオフィスに出社できるのに対し、アジアの金融ハブである香港では、バンカーがホテルの一室に3週間缶詰めの状態で10億ドル規模の取引を行うのも珍しくなくなっている。

香港は8月、大半の国からの入国者に義務付けるホテル隔離期間を3週間に延長。銀行やヘッジファンド、トレーダーらは、資産運用市場への新規投資を妨げ、頭脳の流出を招くと反発した。

政府統計によると、金融サービスは香港の域内総生産(GDP)の約20%を占める。

香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は31日の定例会見で、多くの人から隔離措置が「厳しすぎる」と不満の声が上がっているとしながらも、中国本土と往来するためにはこうした制限が必要だと強調。

「外国からの入国者の制限を緩和すればするほど、本土に行ける可能性が低くなる」とし、「可能な限り人道的な措置にするよう努めるが、入国制限の全面的な緩和は賢明な策ではない」と述べた。

関係筋によると、アジア証券業金融市場協会(ASIFMA)など業界団体は、隔離措置の緩和について政府と協議を行ったという。

アジア太平洋オルタナティブ投資管理協会の共同責任者、カー・シェン・リー氏は「世界が再開するのを見て、人々はこの先3─5年にわたり香港にとどまりたいか自問している」と話す。競合する金融ハブのシンガポールは近く、再開をさらに進める予定だ。

リー氏は隔離措置が新規投資の妨げになっているとして、同協会が政府とこの問題を協議したことを明らかにした。

ある大手米銀のシニアバンカーは、来年第2・四半期までに規制が変更されなければ、仕事がなくても香港を離れる考えだ。「多くの人にとって、2年も祖父母との再会や、出産、死去、誕生日、記念日などの機会を逃すことになる。祖父母は永遠に生きられるわけではない」と話す。

<越えられない一線>

香港政府は5月、上場企業幹部を対象に隔離措置の一部を免除する枠組みを発表し、金融業界の不満に対応しようとした。だが、事前に詳しい旅程を当局に提出する必要があるほか、ロイターに送付された公式統計によると、8月23日までに申請があった303件のうち232件は政府が却下したか、もしくは申請者が取り下げた。それ以上の詳細は不明だ。

香港の人口750万人の10%近くを占める外国人居住者の多くは、2019年の反政府デモや20年の国家安全維持法施行後も現地に残ったものの、厳格なコロナ規制がレッドライン(越えられない一線)になっている。

在香港米国商工会議所のタラ・ジョセフ会頭は「多くの人にとって我慢の限界だ。人々は海外から働く方法を考え始めている」と語った。

厳しい規制の中でも、香港の資本市場はなお堅調だ。リフィニティブのデータによると、年初来の新規株式公開(IPO)は218億ドルと、昨年同時期の95億ドルを上回っている。

当局者は、安全に規制を緩和するためにはワクチン接種率の大幅上昇が必要だと指摘する。香港市民の約60%が1回接種を受けているが、ワクチンの安全性を巡る懸念から高齢者の接種率は世界的に見て低い。

香港の累計感染者数は約1万2000人、死者は212人と、他の先進都市を大幅に下回っている。

(Farah Master、Scott Murdoch記者)

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