在日中国外交官、ツイッター上で頻繁に米国批判 専門家「SNS使った対日宣伝工作」=米VOA
米軍のアフガニスタン撤退を揶揄する在大阪中国総領事館の薛剣総領事のツイートはこのほど炎上した。19~24日まで、薛氏の投稿に対して1000件以上の非難の書き込みが殺到した。専門家は、中国の外交官による日本社会へのプロパガンダ宣伝は無駄骨に終わると指摘した。
薛氏は18日、ツイッター上で、米軍機2機のイラストに「20年かかって、アメリカはアフガンでこんな『成果』を挙げた」と日本語のコメントを付けて投稿した。1機はミサイルを落下させており、「2001年、アフガンに侵入した時」との説明文が付けられた。もう1機からは人が落下する様子が描かれ、「2021年、アフガンから撤退する時」との言葉を添えた。
薛剣氏の同ツイートに対して、多くの日本人ユーザーは「人の命を軽視している」「品格がない」とバッシングした。また、一部のユーザーは「天安門事件」の写真をつけてリツイートして、中国当局が1989年に学生らの民主化運動を武力で鎮圧し、多くの死傷者を出したことを皮肉った。
米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は29日、薛氏の投稿をめぐって、大阪教育大学教養学科の安部文司教授と京都芸術大学大学院芸術研究科の小崎哲哉教授とのインタビュー記事を掲載した。
VOAは、米政府は中国の台頭に伴い、オバマ政権2期目から対中政策を調整したと指摘した。トランプ政権は中国当局を最大の敵として捉えた。現在のバイデン政権もトランプ前政権の対中政策方針を受け継いでいる。いっぽう、中国当局も米国を最大のライバルと見なし、国際社会における米国のイメージ低下を図ろうとしているとVOAは示した。
安部教授は「米中対立がますます強まっている。在日中国外交官も対米批判に加わった」とした。教授は、民主主義の国だけでなく、全体主義の国でも世論が外交に影響を及ぼすことがあるとした。
「公共外交は政府間の外交と同じぐらい重要だ。中国の外交官はこれを知っており、ツイッターという日本国民がよく使うソーシャルメディアを利用して、公共外交を推し進めようとしている。彼らは、これが、米国に関する不満を日本政府の首脳ではなく、直に日本の世論に訴える有効な方法であると考えているだろう」
小崎教授はVOAの取材に対して、中国当局の現行の対日外交戦略の一つは、日本における米国のイメージを壊すことだとの見方を示し、薛氏の投稿はプロパガンダの一環であり、中国当局の外交戦略と一致しているとした。
在日中国大使館の今年4月のツイートも物議を醸した。投稿のなかで、「米国が『民主』を持って来たら、こうなります」との書き込みとともに、米国旗の模様が入った服をまとった死神がイラン、リビア、シリアなどと書かれた部屋のドアを開け、部屋から大量の血が流れる様子を描いたイラストを掲載した。
また、薛剣氏は今月13日、「笑止千万!アメリカが民主サミットを開催するんだって?今のアメリカに民主があるとすれば、腐敗した民主、金まみれの民主、泥沼化の民主しかない。ほら、見てみよう。コロナの中で60万人以上もの人が命を失ったアメリカ、誰かが責任を取ったのか?いないでしょう?!」とツイッターに投稿した。
薛氏が頻繁にツイッター上で、日本語での米国批判を展開していることについて、安部文司教授は、「中国当局は、日本と米国の仲を裂こうとしている」とした。
「米中対立の高まりに伴い、日本政府は『自由で開かれたインド太平洋戦略』を推進しており、同時に、米豪印との4カ国安全戦略対話枠組み(クアッド)の設立を提案した。中国当局は、日米間の緊密な関係を望んでいない。だから、在日本の中国外交官は米国を批判しながら、日本と仲良くなることを図り、日米関係を離間しようとしている」
小崎哲哉教授は「薛剣氏のツイートは、米中対立という情勢において、日本の世論をより中国寄りにする目的がある」との考えを示した。
小崎教授は「これは、中国の対日外交路線は北風のような戦狼外交から、太陽のような温かくて柔らかい方向に変わっていることを示した。しかし、これは日本国民向けの発信だ。(日本国民に)『信用され、愛され、尊敬される』という中国のイメージを植え付ける狙いがある」と話した。
今年4月、中国外務省の趙立堅副報道局長はツイッターを更新し、日本政府が東京電力福島第一原子力発電所の処理水を海に放出すると決定したことをめぐって、葛飾北斎の浮世絵のパロティー画で日本を皮肉る投稿をした。小崎教授は、これは戦狼外交の一部で、「趙立堅氏は英語でツイートしており、これは全世界に対するプロパガンダ宣伝である」とした。
薛剣氏は今年6月、駐大阪の総領事に就任したばかりだ。着任後、同氏は積極的にツイッター上で投稿している。米国批判を行うほかに、中国メディア「人民中国雑誌社」の記事を転載している。また、日中友好をアピールするツイートを投稿したり、日本の観光スポットやグルメを紹介したりしている。
VOAによると、今年7月、米シンクタンクのピュー研究所(Pew Research Center)が17の経済国を対象に行った調査報告書を発表した。回答者の69%は中国についてネガティブな印象を持っていることがわかった。国別では、日本は最高の88%となった。
安部教授は、1972年の日中国交正常化から鄧小平が主導した改革開放までの間、日本国民は中国に対して印象が悪くなく、むしろ先の戦争で中国に対して罪悪感があったと示した。
同教授は、江沢民政権の反日運動が日中関係を悪化させたことによって、両国間の歴史的問題や尖閣諸島(中国語:釣魚島)の領土問題が再び浮上したと指摘した。
「習近平氏が中国共産党の最高指導者になってからも、中国当局の日本に対する態度を変えていない。米中対立が激化し、習政権は日本に接近し始めたが、これは米国をけん制するための戦略である。中国の対日政策は基本的に変わっていない。中国の中央政府が反日姿勢を変え始めなければ、在日中国大使館がいくら日中友好をアピールしても無駄であろう。日本国民はこれを広告としか受け取っていない」
日本国内の一部の人は米中対立において、日本は米中間の緊張を緩和させる役割を担うべきだとの声を上げているという。安部氏は、このような見方は「現実的ではない」との見方を示した。
「中国と米国のどちらにつくかという問題では、日本政府は米国側を選択する。これは唯一の正しい選択だ。日本は、国家安全保障上で米国に頼っているため、日米同盟は非常に重要である。また、日本は米国と同じ価値観を共有し、自由・民主主義や基本的な人権などといった普遍な価値観に賛同しているからだ」
同氏は、日本にいる中国の外交官のプロパガンダは、中国当局が望むような効果を生むことができないと指摘した。
(翻訳編集・張哲)