古来より東アジアで、お粥は「第一の食物」とされてきました。(Shutterstock)

実は体に良い「白米のお粥」 玄米信仰に偏らないで

中華民族の食文化は太古の昔からあり、神話時代である黄帝(こうてい)の頃から「蒸した穀は飯。煮た穀は粥」と言われてきました。昔の人が「世の中で(粥は)人を養う第一の食物」と称してきたように、粥食は、病中病後の養生にも、日常の健康維持にも、誰にでも簡単で、安価な食事療法として利用できるものです。

白飯、白粥にまつわる大きな誤解

ところが現代人は、お粥を食べることに対して、ある種の抵抗感をもつようになっているかもしれません。白粥や白飯を、まるで「毒物」であるかのように見ているのです。それというのも、「白米にはデンプンしか含まれず、栄養価があまり高くない。しかも血糖値を急激に上昇させ、糖尿病を引き起こす」という考え方が主流になっているからでしょう。

これは、一部分だけしか見ていない、極端な考え方ではないでしょうか。白米だけでは、もちろん栄養が偏りますので、さまざまな副菜やスープ、果物などを併せて摂ることによってバランスの取れた食事になります。

このような誤った認識は、伝統的な正しい食事観に潜在的影響を及ぼし、健康を損ない、病気を悪化させる可能性があるもので、大変危険なのです。

例えば、今の糖尿病患者のなかで、少なからぬ人が「白米を食べると血糖値が上昇する」と思いこんで、長期にわたって玄米を主食にしています。さらに一部の患者は、米飯を食べること自体を止めたのですが、それでも血糖のコントロールがうまくいかなくて、体力を一層弱める結果になりました。

台湾の漢方医である筆者は、臨床で糖尿病患者に接する際に、「白米と(アワ)を同量ずつ混ぜて主食にする」と「食事では、肉→野菜→主食の順番で食べる」の2点を提示して、血糖コントロールするよう勧めています。

さらに、古くから実践してきた白米に関する養生観をもとに、昔の人が粥食に託してきた養生の知恵を取り戻すことを提言しています。簡潔に言うならば「白米を食べることは非常に重要である」ということです。

五穀の中では「うるち米」が人間の体にとって最上です。その性質が穏やかであり、天地の中和の気を有していて、最も中庸であるからです。(Shutterstock)

五穀のなかでは「うるち米」が人間の体に最適

粥で最もよく使われる穀物は白米です。「昔は精米技術が発達していなかったから、主食は玄米で、裕福な人だけが白米を食べていたのだろう」。そのように現代人は想像しているのだと、よく聞きます。

しかし、私が専門とする漢方医学の古典によると、少なくとも後漢の張機(張仲景)の時代までは、一般の人は大部分が白米を主食としており、玄米を主食としていないのです。張機(150~219)は後漢の官僚で、優れた医学者でもあります。彼の著作は、後に医学書『傷寒論』としてまとめられ、中国史上において「医聖」の尊称で呼ばれています。

前漢に成立した中国最古の医学書『黄帝内経』によると、五穀とは「イネ、キビ、稷、ムギ、ムラサキツメクサ」すなわち米、キビ、豆、麦、コウリャンを指します。人の体にとって最重要である五穀は、命を養うためのものですので、これらを主食とすることから長期的に離れた場合、体に遅かれ早かれ深刻な問題が生じます。

また、明代の李時珍による薬草学の総合専門書『本草綱目』は、「天の五穀を生みしは、人を養う所以なり。これを得るものは生き、得ざるものは死す」と述べています。

『本草綱目』はまた「惟此穀得天地中和之氣、同造化生育之功、故非他物可比」と言います。その意は「(五穀の中で)この穀(うるち米)は、天地の中和の気を得て、これに同じくして生育の功を造化する。ゆえに他の穀類とは比べものにならない」ということです。

以上、漢方の古典に見られる「うるち米」に関する要点をまとめると、「五穀の中では、うるち米が最も良い」「それは、性質が穏やかで、天地の中和の気を得て、最も中庸であるからである」「身体が健康でも、病気であっても、うるち米を食べることで、命を養うことができる」などです。それは、うるち米には副作用がなく、他の食物の偏りを中和するとともに、他の食物の栄養を消化吸収しやすくする働きをもつという、非常にすぐれた食品だからです。

 

長粒種のインディカ米は、中国南部、東南アジア、南アジアで多く生産されています。(Shutterstock)

うるち米(ジャポニカ)のお粥が一番

毎日の食事で主食として食べられている米には、ジャポニカ米と呼ばれる短粒種と、インディカ米と呼ばれる長粒種があります。皆様がお住まいの日本では、ほとんどが短粒種ですね。もち米は、ご存じの通り、搗いて餅や菓子にしたり、蒸して「おこわ」にするものです。

先述した後漢の医聖・張仲景による薬湯(やくとう)である白虎湯、桃花湯、竹葉石膏湯などは、いずれも「粳(うるち米)」を用いたもので、米類の、薬用として初めての投与記録です。

病中や病後、あるいは産後などの体力回復期には、うるち米のお粥を食べることをお勧めします。それは体力の回復を早めることができますし、うるち米のお粥の利点として「脾臓を養い、胃をはじめ五臓六腑を元気にする」「発汗を促して、体内の毒素を排出する」「服用する薬が効果を発揮するのを助ける」などがあります。

症例にもよりますが、一部の西洋医学の医師は、患者におかゆを食べさせないことがあるそうです。しかし、これは如何なものでしょうか。病気に罹った人は身体に生気がなく、胃が空っぽになれば、余計に病状が重くなります。胃が弱っているところへ、飲んだ薬が空の胃を通っていくと、多くの場合、十分な治療効果が得られないのです。

お粥を作る鍋は、どんな鍋がいいでしょうか。圧力鍋などは使わなくてもいいですが、できれば土鍋を使うのが理想的です。土鍋は保温効果が良く、米粒が均一に加熱されますので、お粥が柔らかく香ばしくなります。

お粥は、十分に時間をかけて炊きましょう。2時間ほど炊けば、米粒が完全に溶けて、すり身のような形状になります。特に、消化系の病気で胃腸が弱っている人には、お茶漬けのように米粒が残っている状態のものは良くありません。

米粒が完全に溶けた状態になれば、脾臓や胃での消化吸収は非常に良くなります。うるち米で炊いたお粥の表面に浮かんだ、油膜のような「粥油」の部分は、体力の衰えた高齢者にとって最適の滋養となります。申し遅れましたが、お粥は、やけどしない程度の温かいうちに食べてください。冷えてしまったお粥は、おいしくないし、体にも良くありません。

うるち米で炊いたお粥の表面に浮かんだ、油膜のような「粥油」の部分は、体力の衰えた高齢者にとって最適の滋養となります。(Shutterstock)

皆様、いかがでしょう。繰り返しますが、白米中心のお粥だけでは、ビタミンB1などの栄養がどうしても不足しますので、その分は雑穀や副菜などで補います。

しかし昨今のように、あまりに「玄米信仰」が強くなって、体に無理をしてまで玄米を食べ続けることには、再考すべき点があるのではないでしょうか。

年齢による個人差もあるし、またその時の健康状態もさまざまです。消化吸収の良い「うるち米のお粥」は、それぞれの場合に合わせて、適切に利用することが何よりも肝要です。

私のいる台湾も、皆様のいらっしゃる日本も、昔から「お粥文化」を大切にしてきました。そうした伝統を、いつの時代も忘れたくないものです。

(文・呉國斌 翻訳編集・鳥飼聡)

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