中国海軍によるインドネシア沈没潜水艦の支援 その思惑は

2021年5月、突如として中国人民解放軍海軍が、沈没したインドネシア海軍潜水艦の回収作業支援を申し出て3隻の艦船を同海域に派遣した。インドネシアからは感謝が伝えられているが、中国の狙いは国際世論へのアピールとみられている。

オンライン防衛雑誌の「ネーヴァル・ポスト(Naval Post)」の報道では、中国の潜水艦救難艦は国際演習には協力したことがあるものの、他国の救助・回収活動を支援するのは今回のインドネシア海軍潜水艦「ナンガラ402(KRI Nanggala 402)」回収作業が初のケースとなる。

サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)紙は中国のある潜水艦専門家の発言として、中国軍は回収作業支援を表向きにして、「潜水艦が沈没した海域の軍用地理学的情報を調査すると共に、国際的に自国の潜水艦の救助・引き上げ能力を誇示してその影響力拡大を狙っている」可能性があると報じている。

調査船数を増やして海洋調査を継続的に強化している中国について、専門家等は中国海軍が海洋研究を利用して海洋資源を搾取していると主張している。

専門家等の主張によると、最近の中国軍事活動の拡張は海底採鉱における優位性の確立を追求するためであり、増強を続ける同海軍の潜水艦作戦により外国の軍事活動を監視することを目的としている。

ジャカルタに所在するビナ・ヌサンタラ大学の防衛アナリストであるキュリー・マハラニ(Curie Maharani)博士は、中国からの援助申し出をどう受け止めるかは微妙な問題であると述べている。

マハラニ博士はロイター通信に対して、「一方で、中国は大国としての責任を持ってその能力を活かして支援を提供しているだけかもしれない」としながらも、潜在的な敵対国をインドネシア海域で活動させるのは「自国の弱点を明かすようなものである」と述べている。

以前からインドネシア当局は同海域における中国の海事活動の活発化に対する懸念を表明しており、インドネシアの基線から200海里の範囲内に設定された排他的経済水域(EEZ)での漁業権を主張する中国政府とインドネシア政府の間で南シナ海領有権紛争の緊張がしばしば高まっている。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じたところでは、ナンガラ402潜水艦が沈没したのは潜水艦の航路としても重要視されている戦略的水路のロンボク海峡の近くである。調査により、中国海軍がロンボク海峡を含む主要なインド太平洋チョークポイントやシーレーン(SLOC)近辺で調査作業を実施していることは明らかとなっている。こうした調査を行うことで、中国は資源開発交渉における優位性を獲得する可能性がある。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると2021年4月21日にナンガラ402が消息を絶った後、中国側からインドネシア政府に支援を申し出た。

某米国当局者がウォール・ストリート・ジャーナル紙に語ったところでは、捜索救難活動に協力していた米国は、インドネシアが支援を必要としていると勝手に想定するのは同国の感情を損ないかねないとみて、支援を直接申し出ずに、インドネシア側からの要請を待った。オーストラリア、インド、マレーシア、シンガポールも捜索救難活動に参加していた。

(Indo-Pacific Defence Forum)

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