日本、台湾、豪州など インド太平洋地域 米軍と提携強化 中国に対処
2021年4月上旬に中国が南シナ海で空母群の演習を実施したこと、および中国人民解放軍海軍(PLAN)最新空母の戦闘態勢がまもなく整うと国営報道機関が報じたことで、中国の軍事的拡大と敵対的な姿勢に対して新たな注目が集まっている。
アナリストや外交官等が同地域の不安定化要因と非難する中国人民解放軍(PLA)の一方的な軍事活動を牽制するように、航行の自由の維持、法治の支持、連帯の強化を目的としてインド太平洋地域の同盟・提携諸国が二国間演習や多国間演習を展開している。この一例として、2週間の予定で一連の実弾訓練と模擬戦争訓練を行う米比軍事演習「第36回バリカタン(Balikatan 36)」が挙げられる。年次恒例で実施される同演習の主題は、タガログ語で「肩を並べる」を意味する「バリカタン」という名称に反映されている。
ロイター通信の報道では、4月中旬にデルフィン・ロレンザーナ(Delfin Lorenzana)比国防相はバリカタン演習開始時の演説で、同合同訓練により「ますます複雑化する同地域の状況の中、従来型・非従来型の安保課題に対処する能力を強化できる」と述べている。最近の安保課題の一例として、南シナ海東部のフィリピン排他的経済水域(EEZ)内に位置する牛軛礁周辺に海上民兵が乗船する約200隻の中国船舶が結集した事例が挙げられる。これにより世界諸国から中国に対する非難が集まりフィリピンは外交ルートを通じて同国に抗議を申し立てている。
紛争水域における中国の挑発行為、特に中国が自国領土と主張する民主主義の台湾に対する攻撃を匂わせる脅迫的行動により同地域の緊張が高まる状況の中で、今回は中国人民解放軍海軍の空母訓練が実施された。また、台湾国防部の発表では、4月12日には戦闘機と核爆撃機を含む中国人民解放軍空軍(PLAAF)航空機25機が台湾防空識別圏に侵入した。ロイター通信によると、台湾はミサイルシステムを配備すると同時に戦闘機をスクランブル(緊急発進)し中国の航空機群に警告を発して監視したが、この事態は中国による最大数の航空機侵攻と言われている。
台湾側も潜在的な攻撃に対する防御体制を強化している。ロイター通信が伝えたところでは、4月中旬に台湾で大砲、対空ミサイル、高射砲、対空砲を搭載した新しい輸送揚陸艦の推進式が行われた。台湾で最も高い山の名称に因んで「玉山」と命名された同揚陸艦は、上陸用舟艇やヘリコプターを積載できるドック型である。サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)紙の報道では、台湾が実行支配する東沙諸島(プラタス諸島)周辺を中国の無人偵察機(ドローン)が旋回しているのが見つかった事態を受け、台湾当局は中華民国国軍が2021年4月下旬から5月上旬にかけて同諸島で実弾訓練を実施すると発表している。
日米を含むインド太平洋地域の提携諸国は、地域の安定性を損なう一方的な現状変更の試みを停止するよう中国に警告している。ジャパンタイムズ紙によると、2021年3月下旬に日米両政府は日本が実行支配する尖閣諸島周辺の防衛を想定した大規模な合同訓練を実施する調整を始めたと発表した。中国は東シナ海の尖閣諸島の領有権を主張している。同月上旬には、陸上自衛隊(JGSDF)と在日米軍が空挺旅団と共に大規模な訓練を実施している。
最近実施されたインド太平洋地域提携諸国による他の演習には、海上自衛隊(JMSDF)、オーストラリア海軍、カナダ海軍が4月8日に実施したインド洋における艦船演習が含まれる。米インド太平洋軍(USINDOPACOM)が発表したところでは、同日、シンガポール空軍と米国海兵隊の戦闘機がシンガポール近郊で合同訓練を実施している。その翌日、「自由で開かれたインド太平洋」の推進を目的として、米国海軍のセオドア・ルーズベルト空母打撃群とマキン・アイランド両用即応グループ(ARG)の航空機と艦船が南シナ海で遠征打撃作戦を展開した。
4月に入ってからはフランス海軍、インド海軍、海上自衛隊、オーストラリア海軍、米国海軍の艦船が年次「ラ・ペルーズ(La Perouse)」演習の一環として、インド洋で戦闘即応性、海上優位性、戦力投射に焦点を当てた統合訓練を実施している。 一方、全米軍支部のセンサーを接続するという米国国防総省の構想による全領域統合指揮統制(JADC2)の中心的な役割を含め、米軍統合参謀本部は統合任務部隊の攻撃効果の強化に焦点を当てている。2021年4月にオンライン雑誌「ブレイキング・ディフェンス(Breaking Defense)」誌に掲載された記事によると、2021年後半に米国陸軍の主導により米国空軍、米国海兵隊、米国海軍が合同で「プロジェクト・コンバージェンス」プログラムの特殊作戦を実施する予定である。これは西太平洋の広大な範囲にわたる大国間戦争を想定してその技術的課題に挑むものになると考えられている。
こうしたイニシアチブは米国とインド太平洋地域の同盟・提携諸国による同地域の継続的な覇権を証明するための要素と見なされている。例えばアナリスト等の見解では、最終的に最新の空母「山東」後継艦が中国人民解放軍海軍に追加されたとしても、中国人民解放軍海軍が海洋での優位性を得られるとは言い難い。
4月7日にオンライン雑誌のザ・ディプロマットに掲載されたキングス・カレッジ・ロンドン・戦争学学部の大学院生、ベンジャミン・マイナルディ(Benjamin Mainardi)著の記事には、「中国の艦隊の構成はフリゲートやコルベットといった比較的小規模な艦船に偏っている。一般的にこうした艦船は強力な水上戦闘艦艇とは考えられていない」および「顕著ではないにしても、中国周辺を警備する膨大な数の中国海警局の巡視艇から得られるメリットは大きい。しかし、こうした船艇が戦力投与できるのは中国近海に限られる。一方、米国は母艦による巨大な優位性を維持している」と記されている。
(Indo-Pacific Defence Forum)