(Photo credit should read FRANCK FIFE/AFP via Getty Images)

チベットの光 (51) 今生の生き別れ

その晩、ミラレパは師父の部屋にやってきて、師母もまた一緒であった。師母は、あくる日の早朝に彼を送らねばならないと思うと、涙を隠せなかった。

 「ダメマ!おまえは、なぜ泣いているのだ」、師父が師母に言った。「怪力君はすでに道統の奥義にあたる口訣と灌頂を得たのだ。これからは専心して修行しに行くのだ。おまえは彼のために喜ぶべきなのに、なぜ泣くのか?」

 「人身が得られても、正法を得られない人こそ、悲しむべきことだ。こういった人たちは、本当に惜しい人たちで、もし彼らのために泣いていたら、一晩だけでは泣ききれないぞ」

 「先生のお話は間違っていません。しかし、誰があのように時々刻々と正念を保持できるでしょうか。怪力君は、師父母に対して言えば、絶対に従順で、これまで少しも間違いを犯してきませんでした。よくない考えを抱くこともなく、信心、智慧があり、慈しみもある弟子です。それが今離れようとしている。私はこれまでこのように素晴らしい弟子を見たことがありません。これが悲しまずにいられましょうか」

 師母は語れば語るほど心苦しくなり、涙が止まらず、後には大泣きして語れなくなった。

 ミラレパもまた堪らなくなって大泣きした。師母は実の母親のように彼を愛し、師父の恩愛は天より高かった。このような生き別れになって、師父も耐え切れずにまた涙を拭った。師弟三人は名残惜しく、時に感傷し、時に嘆き、時に涙し、誰も何も話すことができず、こうしてその晩は過ぎていった。

 あくる日、皆が法会の供え物をもってきて、師父と弟子の十三人がミラレパを十数里先の路まで送った。最後に、ミラレパは師父母に挨拶し、皆も名残惜しそうに別れた。

 ミラレパは皆と別れた後も、何度も後ろを振り返った。見ると、皆がまだ涙を流しながら、彼の方を望んでいた。実際には耐え切れずに何度も振り返っていたが、彼が山道の湾曲した所に入ると、もう師父母は見えなくなっていた。

 それから少し行って、小川を渡った後にまた振り返ってみると、師父母と送っている人たちがまだわずかに見えた。彼らはまだ依然として、彼と別れた方向をじっと見ていた。刹那、ミラレパはまた戻りたい衝動に駆られたが、その思いを翻した。「わたしはすでに佛になる口訣と灌頂を得ている。師父の話に照らして修行に励めば、師父とともにいることと同じことだ。将来もし、修行が成就して、佛になることができたら、また浄土で師父母と会うこともできよう。それに、郷土に帰って母を訪ねた後、また師父の所に戻ってもいいのではないか」、彼はこのように考えて、感傷を抑えて振り返らず、一路故郷を目指した。

 このとき、ミラレパの脚は行く雲の如く軽く、十五日の道程を三日で走破してしまった。彼は師父が顕した神通を思い出した。彼にはすでに一般人を凌ぐ能力が具足していたのだ。彼は舞い上がって思った。「修行は本当に素晴らしい。法を得て修めた後に得られる能力は、本当に恐るべきものだ」。彼はこうして修煉の信心と決心とをさらに深くしたのであった。

 (続く)

 

(翻訳編集・武蔵) 

関連記事
寒い季節こそ、ゆったり過ごし心身を整えるチャンス。睡眠や食事、メンタルケアで冬を快適に楽しむ方法をご紹介します。
50年以上前から次世代の食料として研究されてきたオキアミ(プランクトン)。クジラなどの海洋性生物にとっては生存のための原初的な存在だ。そのオキアミからとれるオメガ3が注目されている。本文にあるようにオメガ3は人の健康にとっても有益なものだ。クリルオイルは、オメガ3と抗酸化成分が豊富で人気のある健康補助食品。フィッシュオイルに比べてコストが高い点が難点だが……
仏に対抗しようとした調達が、暗殺未遂や陰謀を重ねた末、地獄に堕ちるまでの報いの物語。
「犬に散歩される」気の毒な飼い主たち、笑っちゃってゴメンの面白動画→
過度な運動や減量で陥りやすい「低エネルギー可用性」。エネルギー不足が体に与える影響とその対策について、専門家のアドバイスを交え解説します。