(Photo by Paula Bronstein/Getty Images)

チベットの光 (42) 露見

 ウェンシーは山の洞穴の中で怠りなく修行に精進していたが、一向にこの法門特有の感覚を得られなかった。彼は洞穴のなかでぽつんと一人でいるようで、だんだんとマルバ師父との以前のいきさつが気になりだした。

 「無論どんなことがあっても、正法を求めるためには、師父を騙すことがあってはならない」。彼はこう思い、師父を騙したことを後悔し始めた。彼は以前に、師父から法を伝えてもらいたくて、師母の計にのって師父の元を去るふりをして、却って師父に叱られたことを思い出した。彼が急いで正法を求めれば求めるほどに、かえってその機会は遠のいていくのだった。まさに、心が急げば急ぐほどに、道から離れて遠のき、近道を走ろうとすればするほどに、道は大きく湾曲するのであった。心が不正なのに、どうして正法を得ることができようか。

 このようであったがやるかたもなく、またアバ・ラマに本当のことを切り出す勇気もなかった。しばらくして、アバ・ラマがやってきた。彼は、マルバ師父からの手紙を手にして、ウェンシーに尋ねた。

 「怪力君!この手紙のなかで、君が大悪人だと書かれているが、これは一体どういうことなのか。君は本当に先生の許可を得てここに来たのか」

 「実際のところ、師父の許可は得ていないのです。手紙と供養はいずれも師母がくれたものなのです」。ことここに到り、ウェンシーは真実を話した。

 「なんだ、そういうことだったのか!そうすると今までやってきたことは全部無駄になる。師父の許可がなければ、何の効果もないからね。君に感覚がなかったのは本当におかしいと思ったよ。元々そういうことだったのだ」。アバ・ラマは手紙を読み続けた。「師父は手紙の中で、師父のご子息が成年に達し、新居を落成した祝いの席に、君を連れて出席するようにと言ってきている」

 「いいですよ」、ウェンシーはかしこまって答えたが、師父が怒るのを思い出すと、アバ・ラマさえ震えるのであった。しかし師父の話をきかないわけにはいかなかった。

 「わたしたちは日取りを選んで師父の元を訪れようと思う。君はそれまでここで修行をすればいい」、ラマは慈悲をかけてそう言った。

 数日後、皆はウェンシーが立ち去るのを知り、彼に別れを言いに来た。マルバ師父のところから帰ったばかりのラマも来たので、ウェンシーは彼に尋ねた。

 「彼らは私の事を何か言っていませんでしたか?」

 「師母が、『怪力君は今どんな様子なの?』と聞いてきたので、『彼は今修行中ですよ』と答えておいた。また彼女が、『彼は修行の他に何をしているの?』と聞くから、『彼はただ一人で洞穴の中で座禅を組んでいるだけで、他には何もしていませんよ』と答えておいた。すると、師母は『彼は忘れ物をしているわ。これは彼がここにいるときによく使っていた遊び道具だから、これを彼の元へもっていってちょうだい』といって、このサイコロを手渡してきた」。ウェンシーは、このラマからサイコロを受け取ると、師母のことを偲ばずにはいられなかった。

 ラマが去ると、ウェンシーはこのサイコロを手にしながら、思いを巡らせた。私は以前、師母の前でサイコロ遊びをしたことはなかったのに、なぜ師母はあんなことを言ったのか。師母はもうわたしのことなど嫌いになったのか…ウェンシーは頭のなかが混乱してきて、ちょっとした不注意でサイコロを地面に落として割ってしまった。するとサイコロの中から小さな手紙が出てきた。

 「先生があなたに灌頂と口訣を与えてくれるそうよ。アバ・ラマと一緒にいらっしゃいな」。ウェンシーは師母のこの一文を見ると、単純に狂喜乱舞し、洞穴のなかでぐるぐると走り回った。

 

(続く)

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