扇子を手に風景を楽しむ北京市民。2020年9月撮影(Photo by Kevin Frayer/Getty Images)

「扇」に凝縮された豊かな伝統と文化

団扇うちわ)のルーツ

扇(おうぎ)は中国で3000年以上の歴史があると言われています。扇には植物で作ったもの、羽で作ったもの、絹張りなど様々なものがありますが、現在、日本で使われている「うちわ」と呼ばれるものは歴史が長く、前漢の成帝(在位、前33ー前7年)の女官の詩に既に登場しています。円形をしているこの扇は、真ん中に柄があり、左右対称となっているため、一家団欒、夫婦円満などの意味をかけて「団扇」と呼ばれるようになったそうです。

団扇は飛鳥時代に日本に伝わり、主に貴婦人が顔を隠す道具として使われていたと伝えられています。

扇子のルーツ

8世紀頃になると、日本では折り畳んで携帯できる便利な扇が発明されました。当初、宮中で男性らは書を記すためのうすい木の板、「木簡」というものを持ち歩いていました。その木簡を糸で綴じたものが、のちに「檜扇」とよばれる扇子の原型となりました。

1、檜扇(ひおうぎ)

檜扇は宮中で用いられた木製の扇のことです。奈良時代の終わりから平安時代の初め頃にかけて発明されたと思われます。

檜の薄板を金具で留め、板の上部を紐で繋げ、折り畳みを可能にした檜扇は、宮中行事の複雑な式の作法などをメモする目的で用いられました。女性の場合、他人の視線から顔を隠す時に使いました。

ちなみに、東寺の千手観音像の補修作業中に発見された元慶元年(877年)の檜扇が最古のものだと言われています。

2、蝙蝠扇(はかほりおうぎ)

檜扇から紙製の扇が派生しました。それを開くとコウモリが羽を広げた形に似ているところから「蝙蝠扇」と呼ばれました。威儀用の檜扇に対し、略式なものだとされています。当時は宮中女性の持ち物として使われ、美しい絵が施されるようになりました。

日本の扇子が宋へ渡る

日本で誕生した扇子は宋の時代に中国へ伝わりました。

983年(永観元年)に入宋した日本の僧侶・奝然は、宋の太宗から厚遇を受け、貴重な大蔵経五千四十七巻などを賜りました。帰国後の988年(永延2年)、奝然は弟子の喜因を遣わし、数多くの宝物を贈り、太宗に謝意を伝えました。『宋史』の「日本伝」では、献上品リストに「檜扇20枚、蝙蝠扇2枚」と記録されており、それは中国で見られる日本の扇子の最も古い記録です。

また、北宋の名高い文人の蘇轍(そ てつ、1039―1112年)は『楊主簿日本扇』と題する詩を詠んでいます。

扇従日本來 

風非日本風

…… 

但執日本扇 

風來自無窮

 

扇は日本より来たけれど

日本の風ではない

…… 

日本扇を手にすれば

風が尽きることがない

日本の扇子は宋の人々の間でも結構な人気を誇りました。

北宋に伝わった日本の扇子は、その後、中国でも作られるようになりました。それまで片面にしか紙が貼られていなかった扇子は、両面に紙が貼られるようになりました。このように変化を遂げた扇子は、室町時代に「唐扇」として日本に逆輸出され、普及しました。そして、日本ではまた「唐扇」の良さを生かし、扇面に日本画を描くなどの工夫を加えました。更に洗練された扇子は、明の時代になると、勘合貿易の商品として、大量に中国へ輸出され、更に欧州にまで運ばれました。

扇子は文化を豊かにする

日本では、扇子は日常生活のみならず、能楽や歌舞伎等の芸能や、茶道等でも欠かせない物となり、正月や御宮参り、結納・結婚の祝儀等、人々の暮らしの折り目節目にも用いられています。

一方、日本から中国に伝わった扇子は、中国の文人や画家に重宝され、団扇と同じように、詩と絵を描く客体となり、舞台芸術の道具としても盛んに使われました。科学の分野に於いても、本領を発揮しました。明代末期の中国の暦数学者である徐光啓(じょ こうけい、1562―1633年)は、『幾何原本』を翻訳した際に、扇子の形からヒントを得て、「扇形」と初めて訳し、その後、「扇形」と言う言葉は日本にも伝わりました。

中国語では、「扇」と「善」は同じ発音で、とても響きの良い言葉です。中国では、「扇」は仙人の神通力を発揮する法器としての言い伝えがあります。日本でも、扇子は末広がりで縁起が良いとされ、また、魔除けの効果もあると言われています。扇は縁起物としても親しまれてきたのです。

このように歴史と伝統が凝縮された「扇」は、文化の伝承と生活の向上に大きく寄与しました。

(文・一心)

(看中国より転載、一部体裁を整えました)

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