中国とロシア 常套句「蜜月」実際は付かず離れず
「露中蜜月」という常套句で付かず離れずの関係を続けてきた中国とロシアは、米国の新政権発足に伴い、今回もまた「新時代に向けて両国の行動調整を強化し、関係を包括的な戦略的パートナーシップへ格上げする」と公言した。
しかし、アナリスト等の見解によると、中露関係は引き続き国内の圧力と異なる利害が足枷となり、こうした宣言はほとんど体裁に過ぎない。
英国を拠点とするガブリエル・ギャビン(Gabriel Gavin)政治コンサルタントが2021年1月にオンライン雑誌のザ・ディプロマット誌に執筆した記事には、「ほのぼのとした美辞麗句だが、中露の外交関係は幅が1マイルあっても、深さが1インチほどしかないのが実情である」と記されている。
2020年12月下旬に行われたロシアのウラジーミル・プーチン大統領との電話会談で、中国共産党中央委員会総書記などを兼務する中国の習近平主席が両国関係を「決して壊れない」関係と表現したと報じられている。いっぽう、中国と国境を接する資源豊富な極東ロシアに対する中国の野心を巡り、両国間では緊張が高まっている。
しかも、中国共産党による香港弾圧および中国湖北省武漢市を震源地とする新型コロナウイルス感染症発生時の初動の遅れについて、習主席は国際社会からの批判に直面している。一方でプーチン大統領は、2021年1月に野党「進歩党」のアレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)党首を拘束したことで発生した世界的な反発と全国的な抗議デモの鎮圧に手を焼いている。
ロシア政府批判で知られるナワリヌイ党首は、毒物により数か月にわたって重体に陥っており、回復後にロシアに帰国した直後に拘束された。同党首自らがロシア政府による毒殺未遂説を主張している。
プーチン大統領と習主席が公に統一前線を掲げ、国内外の問題から世界の注意を逸らす努力をするのは、米国のジョー・バイデン新政権の両国に対する厳しい姿勢が要因となっている可能性がある。ギャビン政治コンサルタントの記事には、「両国にとっては、中露関係が深化して同盟が永続するという発想のほうが現実よりも都合が良い」と記されている。
2020年12月から一連の声明を発表してきた中露政府当局は、経済・安保問題などの共通の関心分野を強調しているだけなく、2021年が中露善隣友好協力条約の締結20周年に当たることにも言及している。2021年1月の記者会見では、中国外務省の報道官が、「この協力関係の拡大・深化について制限や禁止領域はないと考えている」と述べている。
2020年10月、プーチン大統領は中国との軍事同盟形成の可能性について「原則として排除するつもりはない」と述べているが、観測筋によるとこれは非現実的である。カーネギー財団が設立したカーネギー・モスクワ・センターの所長を務めるドミトリー・トレーニン(Dmitri Trenin)博士は、ロシアの国営通信社「イタルタス通信」に対して、「両国間でこのような同盟が確立されれば、近隣諸国、特に露印関係が低迷してから米国寄りになったインドにとっては大きな脅威となる」と説明している。
トレーニン博士は自身の著書で、両国は合同軍事訓練や兵器の相互販売を行っているが、両国関係は同盟というよりも、共通の利害関係を基盤とする調整行動と表現するほうが適切である。
ハドソン研究所の上級研究員として政治軍事分析センターを率いるリチャード・ワイツ博士によると、中露の安保関係には大きな障壁がある。たとえば、東シナ海・南シナ海における広範な水域に対する中国の領有権主張やロシアによるクリミアの併合など、両政権共に他方の領土奪取を支持していない。
同シンクタンクが2019年5月に発表した報告書で、ワイツ博士は、「中国はロシアと第三国との軍事紛争、ロシアは中国と第三国との軍事紛争に巻き込まれるリスクを懸念している」と述べている。
さらに、新米国安全保障センター(CNAS)が2020年8月に発表した報告書によると、外国に対する逸脱したロシアの軍事的・政治的行為により、同国が民主主義の西側諸国から疎外されていることで、二国間関係が中国側に支配されるリスクが高まっている。同センターで上級研究員を務めるアンドレア・ケンドール=テイラー博士とジェフ・エドモンズ客員上級研究員が共著した報告書には、「中露が公式に軍事同盟を結ぶ可能性は低く、両国の目的における著しい相違および関係の非対称性により最終的には両国は決別する可能性がある」と記されている。
習主席の前任者となる胡錦濤主席とプーチン大統領の2012年の事例も含め中露は度々戦略的提携を宣言しているが、専門家等の見解では中露関係は単に利便上のものでしかない。
ギャビン政治コンサルタントの記事には、「従来から強い存在感を有していた中央アジア地域の勢力圏で中国の役割が拡大している。この状況にロシアが警戒心を抱いていることから、両国関係は当分の間は同じような状態が続く可能性が高い」と記されている。
(Indo-Pacific Defense Forum)