ジョー・バイデン米大統領(SAUL LOEB/AFP via Getty Images)
何清漣氏コラム

「脱トランプ化」とオバマ政策の復活を目論むバイデン政権

バイデン氏は1月20日、「トランプ大統領が実施した政策はすべて廃止する」という民主党の原則に基づき、17の行政命令に署名した。ここで、トランプ氏を排除しオバマ氏の「遺産」を復活させる政治的行動が正式的に始まった。ウォール街やシリコンバレーなどの富裕層は、バイデン氏の寄付に多大な貢献をしてきた。しかし、彼らはすぐに自らが搾取の対象となることに気付くだろう。

トランプ氏の政策はすべて廃止

バイデン氏は減税、雇用拡大、金融政策などパンデミック前の好調な経済にはもちろん言及していない。一方、民主党はさらなる増税を計画しており、主に法人税と個人所得税を対象としている。これはすぐに実施される恐れがある。中産階級は最も多く税金を払うことになるだろう。富裕層は主に個人所得税と相続税の免税額の大幅な引き下げに直面するだろう。バイデン氏を支持するウォール街の富裕層や多国籍企業のトップらは世界各国で免税する方法を持っている。さらに、キャピタルゲインに対する課税は、以前は取引後に課税されていたが、今後は取引の有無にかかわらず、価値が上がれば課税される。この計画が実行されれば、それは政府による合法的な資産強奪になるだろう。

中国政策に関しては、中国が差し出したオリーブの枝にはとげがついているものの、中国はバイデン政権に大きな期待を寄せている。習近平氏はスターバックスCEOに宛てた手紙の中で、中国と米国の架け橋になってほしいと記しており、CEOもこれに同意している。現在、香港や台湾、米国のバイデン氏にかすかに希望を寄せている層は、バイデン政権が中国に対して引き続き強硬姿勢を取ることを望んでいる。バイデン政権も、中国はたやすい相手ではないことを承知しており、急いではいけないことを理解している。しかし中国側をなだめる施策はすでに取っている。例えば、一つの中国政策は1月6日以降に強調済みであり、対中関税の引き下げも行った。香港に対する米国の経済制裁は、主に特別税関地域の地位の廃止であり、中国でさえ関税を引き下げているので、香港も心配ないというメッセージ性もある。

さらに、バイデン氏はイスラム教徒が人口の過半数を占める国家に対する旅行禁止令に終止符を打った。2017年1月27日、トランプ大統領は「国際テロリストの米国への入国を防ぐための国家保護プログラム」と呼ばれる大統領令に署名し、左派からの強い抵抗に遭った。2017年9月12日、米最高裁判所は、トランプ政権の難民禁止令を許可した。事実、トランプ氏の在任中、少なくとも2020年5月下旬に黒人男性のフロイド氏が死亡するまで、米国ではテロ攻撃がほとんど発生しなかった。これはフランスや他のヨーロッパ諸国での数々のテロ攻撃と比較しても、この旅行禁止令には一定の効果があったと評価できる。

バイデン氏の当初の政策は、米国とメキシコの国境の壁の建設をやめ、不法移民の自由な入国を許すことだった。しかし、不法移民が最初に到達するテキサス州の強硬な態度を考慮して、バイデン氏は一定の妥協を行った。

バイデン氏はさらに、国勢調査時にアメリカ市民権を有していない者を除外するというトランプ政権の政策を廃止した。これはゆくゆく民主党が票田を作るための準備である。信頼できる票田を作るほうが、あらゆる方面で不正を働くことより簡単なのは自明だ。

性同一性、または性的指向に対する差別禁止の保護を強化することもバイデン氏の政策だ。民主党の看板政策は人種と性別に関するものであり、バイデン政権は奇妙な大統領令や法律を発表すると推定されている。オバマ時代の男女トイレ共同使用許可令のような法律が出ても珍しくないだろう。

以下の項目は、「オバマの政治的遺産」の復活と見なすことができる。

パリ協定は、オバマ大統領の任期の最後の年に署名された協定だ。表向きは環境保護といったもっともらしい理由を掲げているが、実質的には米国がこの協定に毎年数十億ドルを提供している。2017年6月1日、トランプ大統領はパリ協定からの離脱を発表した(正式的な撤退は2020年11月4日)。米国からの資金がなくなったため、この協定は正式に発足できなかった。そこで、米国をはじめ世界各国の主流メディアは一致してトランプ政権を厳しく批判した。バイデン氏は就任後、パリ協定に復帰する意向を表明したほか、2兆ドルの気候変動対策資金を計画している。

現在、西側諸国で最も政治的に正しい2つの議論は、気候変動と移民だ。西側諸国はバイデン政権が米国で再びポリティカルコレクトネスを取り戻すことを歓迎している。例えば、フランスのマクロン大統領はこの動きを歓迎している。なぜなら、アメリカの資金が注入されれば、近年失業した国内の環境保護団体の職員の雇用問題が解決できるからだ。パリ協定に参加するには、10億ドルを国連の官僚機構に納付する必要がある。

「パリ協定」の幻想について、「米国の「パリ協定」離脱は誰のパイを奪ったのか(VOA、2017年6月11日)」で詳細な分析を行っているため、ここでは繰り返さないこととする。

バイデン氏支持の組合が干される

「キーストーンXL(Keystone XL)」パイプラインの承認撤回について、人々は主に2つの項目に着目している。1つ目は、カナダの権益にかかわることだ。カナダのトルドー首相はグリーンエネルギーを含む民主党のイデオロギーに賛同しているが、自国の利益が失われることを快く思っていないようだ。2つ目は、米国の1万1000人の雇用と、16億ドルの収入が失われることだ。しかし、本当の問題はこの2つではない。伝統的なエネルギーを否定するのは、メルケル首相が提唱する「グリーンエネルギー計画」の道を作るためである。メルケル首相のグリーンエネルギー計画には2つの致命的な問題がある。1つは価格が高すぎるため、ヨーロッパの中産階級がそれに苦しんでいること。もう1つは供給が不安定であり、最も必要とされるときに安定的に供給できないことだ。米国北部の冬はヨーロッパよりもはるかに寒く、グリーンエネルギー計画は非現実的だと言わざるを得ない。

これらの行政命令は、米国の産業構造を大きく変えるだけではなく、目前の失業問題も、もたらしている。OANN記者ジャック・ポソビエク氏の1月23日のツイートによると、今回バイデン氏に投票した組合指導者の中には、絶え間なくバイデン氏に電話する者もいるとのこと。バイデン氏の行政命令により、国境の壁の建設やパイプライン建設が中断され、天然ガス、石炭など多くの産業が休業を余儀なくされている。しかし、電話しても数週間後に再び電話をかけるように言われ、最悪の場合コール音が鳴るだけで誰も応答しないという。

WHOとの親密すぎる関係

バイデン氏が署名した一連の行政命令の中には、2021年7月1日に、国連の下部組織である世界保健機関(WHO)から離脱する米国の決定事項の撤回が含まれている。バイデン氏はまた、世界的に有名な公衆衛生専門家であるアンソニー・ファウチ博士を彼の主任医療顧問に任命し、ファウチ博士を代表としてWHOの理事会に参加させた。職務に怠慢なWHOについて、ファウチ博士は1月21日、米国政府を代表して感染症対策におけるリーダーシップに感謝すると発表した。そしてWHOが「新型コロナウイルスに対抗する中で世界各国と積極的に協力した」と称賛した。ワシントンのシンクタンク「Heritage Foundation」の上級研究員であるブレット・シェーファー氏は近日、新型コロナウイルス対策におけるWHOの失敗を繰り返させることはできないとメディアに語った。「世界保健機関が大規模な改革を実施しない場合、将来の公衆衛生危機に対応する際に、全世界、特に貧しい国々を非常に惨めな状況に陥れるだろう」

WHOはすぐさまバイデン政権と協働し、ウイルスの検査基準を変更し、あたかもバイデン氏の感染症対策の神話を裏付けようとした。私たちは皆、超左派のハリウッド女優、ジェーン・フォンダ氏の有名な発言を知っている。彼女は、新型コロナウイルスは神が左派に与えた最高の贈り物だと発言している。民主党は、感染拡大を誇張し、経済に打撃を与え、この期間中のすべての死者を中共ウイルスによる死亡として計上することで、トランプ大統領を非難した。WHOも民主党に非常に協力的で、PCR検査で45回の「増幅」サイクルを行うよう推奨した。サイクルが多いほど、誤検知の可能性が高くなる。30以上のサイクルがあると、少量のウイルスでも検知されやすくなり、危険性がない場合も誇張される恐れがある。そのため米国は感染拡大が深刻なように印象付けられ、トランプ氏に対する攻撃材料とされていた。しかし民主党政権が誕生した当日、WHOはPCRのしきい値を下げ、CNNも画面上の新型コロナウイルスによる死者数のカウンターを削除した。2日後、民主党が優勢なカリフォルニア州は、感染者数を公表しないことを決定した。真実を隠すために統計をごまかすこの方法は、中国共産党の手口と酷似している。

新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以来、民主党やバイデン氏、そして主流メディアはトランプ大統領が何もしなかったと批判し続けてきた。そしてバイデン氏こそ最高の感染病対策リーダーだともてはやした。しかしその「最高の感染病対策リーダー」は1月23日、「今後数カ月は感染拡大に対してなにも打つ手はない」「アメリカでは60万人の死者が出るだろう」と話した。(On Day 2 Biden Says “There’s Nothing We Can Do” About COVID.,JANUARY 23, 2021,STAFF WRITER,https://thenationalpulse.com/author/staff-writer/ )

バイデン氏はオバマ氏のために復讐を行った

上記の17の行政命令は、人種差別、不法移民、ジェンダーの多様性、グリーンエネルギーなど、民主党が非常に力を入れている分野ばかりだ。左翼メディアは、これらの施策を「修復」だと表現した。事実、これらはオバマ氏が「政治的遺産」としてヒラリー氏に引き継ぐ予定だった。

しかし、これらは本当にアメリカの有権者が重要視するものなのだろうか。2016年、トランプ氏はポリティカルコレクトネスに反対し、常識に立ち返り、グローバリゼーションの影響で損失を被った製造業労働者や農民、中小企業主の支援を得て、元大統領のオバマ氏とクリントン氏、民主党、そして共和党の既得権益層を打ち破ってホワイトハウスに入った。過去の4年間、トランプ大統領はアメリカを伝統的な価値観に立ち返らせ、アメリカ人が本来の生活方式に戻るよう努力した。この点において、トランプ大統領を侮辱し批判してきた左翼メディアでさえ、トランプ大統領が公約のほどんどを実現させたと認めざるを得ない。2020年大統領選前の10月初旬、ギャラップ社の世論調査によると、感染拡大と経済の疲弊にも関わらず、56%のアメリカ人が4年前のオバマ・バイデン時代よりも生活がよくなったと回答した。さらにこの調査では、選挙の直前期にアメリカ人が最も重要だと思うトピックについて集計した。上位5つのトピックはそれぞれ経済(89%)、国家安全保障(83%)、教育(82%)、健康(80%)、感染症対策(77%)だった。

この調査からもわかる通り、民主党が掲げるトピックは、大多数のアメリカ有権者の関心事ではない。ポリティカルコレクトネスとされているこれらのトピックは、民主党が近年アメリカのイデオロギーを改造するために用いられてきたものばかりだ。5番目に位置付けられている「感染症対策」については、民主党政権は検査基準を調整しデータをごまかして対応している。民主党にとって、ポリティカルコレクトネスを主張し、民主党のグレートリセット計画に沿ってアメリカを改造することこそ最も重要であり、アメリカ国民の意向や生活方式は二の次なのだ。

アメリカで近年何が起きたのかを知るには、まず「グローバリゼーション」から「グレートリセット」までの過程で、どのような方向転換が起こったかを理解する必要があると思われる。

(翻訳編集・文亮)

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