米政権の対中政策のキーパーソン その人物像
トランプ大統領が就任後、対中強硬策に転じ、次々と中国共産党の覇権を抑制する対抗措置を繰り出している。その背後に、ある中国人の活躍があった。
米紙ワシントン・タイムズは6月15日付に、独占インタビューを掲載し、トランプ政権で対中政策を担う重要人物として、米海軍兵学校で教授を務める余茂春(Miles Yu、マイルズ・ユー)氏を紹介した。
余氏は、1962年安徽省に生まれ、幼少期を重慶で育ち、そこで1966年から10年間続いた「文化大革命」を経験した。同氏によると、当時はまだ幼かったが、当時の「狂気の沙汰」を今も覚えている。急進革命の暴力と不条理、社会的信頼や公衆道徳の破壊、および西側や資本主義に対する恨みは、幼少期の無邪気さを残酷に踏みにじってしまったという。
「レーガン元大統領からアメリカの良さを知った」
1976年、文化大革命が終焉を迎え、中国は鄧小平の指導体制のもとで改革・開放政策に転じた。余氏も、 1979年に南開大学歴史学部に入学した。在学中、余氏は何人かのアメリカから来たフルブライト奨学生と接触した。これらのアメリカ人学者の影響で、弁証法的唯物主義(マルクスレーニン主義の哲学)を学び続けるのは無意味で、時間の無駄だと気づいた。
当時、余氏は、米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)で放送されたロナルド・レーガン元大統領の演説をこっそり聞いた際、「アメリカは地球上の人類の最善かつ最後の希望を象徴している」という言葉に啓発され、アメリカ留学を決意した。
1983年に南開大学を卒業後、渡米し、1985年にペンシルバニア州のスワースモア大学(Swarthmore College)に入学した。1994年、カリフォルニア大学バークレー校で歴史学博士号を取得した後、米海軍兵学校で近代中国と軍事史の教授となった。現在、同氏の教え子の中に、米国防省や国務省で要職についた人も少なくないという。
1989年6月に「六四天安門事件」が発生した際、バークレー校在学中の余氏は米国に逃亡した中国の民主化活動家を積極的に支援していた。民主派が発言する場を設けるため、「中国フォーラム」と呼ばれる定期講演会を行っていた。
対中政策首席顧問、「国宝」と称賛
過去3年間、主要敵対国の再定義に向けた米国の対中政策構築の「陰の実力者」として、余氏はマイク・ポンペオ国務長官のもと、スティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)とともに、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」の理念に基づいた対中政策の立案に参画している。
余氏は共産主義の中国で育ったため、トランプ政権で中国共産党の話術を真に理解できる数少ない実力のある中国問題専門家である。現在、余氏は国務長官の対中政策の首席顧問を務め、外交政策の司令塔とされる米国務省の最重要人物の一人に数えられる。
ホンペオ氏は、余氏を中心とする対中政策チームについて、「中国共産党の挑戦に向き合うとき、このチームはどうやってわが国の自由を守れるかをアドバイスしてくれる」とその重要性を語った。
スティルウェル国務次官補は、余氏を「国宝」と称賛し、「民主主義と独裁の違いを理解しており、私が知っている誰よりもうまく説明できる」と評した。もう一人の「中国の事情通」、マシュー・ポッティンジャー氏も、余氏のことについて「貴重な資源」「冷戦と米中ソ関係に対して冷静に認識している」「独裁政権で成長した経験から、独裁政権にとって最強の敵だ」と評価した。
中共政権の鬼門、正統性覆る「中国共産党≠中国人」
余氏は、中国共産党の政治体制がマルクス・レーニン主義と中国ナショナリズムを融合させたもので、米国は真剣に対処しなければならない戦略的な敵対者であると指摘した。「中国共産党は自らを中心とする国際秩序を構築しようとし、欧米の自由や民主主義を柱とした国際秩序を侵食し続けている」と分析した。
余氏はまた、米国政府は中国共産党と中国人を区別すべきだと主張している。実際に中国の一般市民は資本主義的な価値観やライフスタイルに熱中し、中国共産党のマルクス・レーニン主義理論には興味がなく、共産党幹部とは真逆の考えを持っているという。
余氏によると、長い間、米国の政治家らは北京の弱点を正しく認識できず、中国共産党の計略に弄され、アメリカの国益に基づいて対中政策を策定することができなかった。米国は往々にして中国共産党の虚勢と見せかけの怒りに屈服し、北京の思いのままに振り回されていた。
実際、それはただの見かけ倒しだった。中共政権は脆弱で中身が空っぽで、自国民を恐れている。そして西側からの抵抗、とりわけ米国との対立をも恐れている。米国が自国の実戦力と中共政権の脆弱さを正確に認識してこそ、対中戦略で大誤算を避けることができるという。
一方、共産党幹部が繰り返し使う「ウィンウィン」や「相互尊重」などの美辞麗句について、余氏は中国共産党の文化を理解していれば、これらは「つまらない決まり文句」で何の意味もないことがわかると喝破(かっぱ)した。 同氏のアドバイスによって、トランプ政権は対中戦略において「原則的現実主義(レトリックに惑わされず、中国共産党の実際の行動を客観的に評価すること)」を貫いているという。
この影響で、トランプ政権には、米中関係において中国共産党(中国国民ではなく)こそが問題の根源であるという認識が鮮明になっている。ポンペオ氏が今月23日にカリフォルニア州で行った演説で、中国共産党の最大の嘘が14億人の中国人を代表しているということだと批判した。
余氏、トランプ政権の中国共産党との対決姿勢を称賛
余氏は、トランプ政権は米中関係の歴史で初めて北京をけん制することができたと評価した。外部の影響を受けたくない共産党が、中国の国家権力を掌握しており、自らを中心とする国際秩序を目指している。
米スタンフォード大フーバー研究所の戦史研究家、ビクター・デイビス・ハンソン(Victor Davis Hanson)博士は、「長年にわたり、余氏は中国共産党の帝国主義政策や重商主義路線、国ぐるみの技術窃盗、共産主義の恐怖と狂気を警告し続けていたが、聞き流されていた」と述べた。
「米政権がようやく、先見の明を持つ人々の声に耳を傾け始めている。余氏が注目されるようになったのも、ここ20年来、米国の対中(共産党)政策における最も重要な進展を示している」
(翻訳編集・王君宜)