西側の軍事技術はこうやって盗まれてしまう 中国の手口の数々(下)
西側の軍事技術を虎視眈々と狙う中国共産党。近年、軍事情報の窃盗は軍を成長させる国家戦略となっており、ますます憂慮すべき問題となっている。
西欧諸国は、中国はこれまで主に4つの戦略を通して技術を盗んできたと分析する。前回の記事は戦略1)中国政府は、大規模な外資系ハイテク企業を買収する国内企業を支援、戦略2)ハイテク企業を中国に投資させる、について述べたが、この記事は戦略3)海外で一流の外国人研究者や中国人専門家の募集に力を入れる、戦略4)外国企業との協力を促進、について記述する。
戦略3:海外で一流の外国人研究者や中国人専門家の募集に力を入れる。
中国共産党機関紙・人民日報の報道によると、当局は2015年5月に開かれた統一戦線の会議で、海外の中国人の学生や学者が統一戦線の主要な目標となると明言した。当局は中国人の留学生と良い関係を築くだけでなく、彼らを利用すべきだと述べた。
海外の留学生や研究者を取り込む手段の一つに、科学技術分野で働く人材を誘致するためのリクルートキャンペーン「千人人材計画」がある。2010年の「千人人材計画」は、IBM半導体研究開発センター勤務の朱慧瓏氏をはじめ、米半導体大手MEMSICの元戦略責任者陳東敏氏、米エネルギー省が運営するオークリッジ国立研究所の磁気ナノ材料工学の研究者で、テネシー大学ノックスビル校教授の沈健氏など一流大学、研究機関、著名企業から人材を獲得している。
2017年11月まで、専門家ら7,000人以上が、このプログラムの下で中国にリクルートされた。
中国当局は、100万元(1650万円)の補助金を支給するなどの高待遇で彼らを呼び寄せている。ほかにも大学、研究機関、または国有企業でのリーダーとしての地位、研究助成金の支給、配偶者の雇用保証などの約束を交わしている。
近年、FBIはこの「千人人材計画」によって募集された学者の動向に関心を払っている。
2017年9月、バージニア工科大学で生物系工学の張以恆教授がFBIに逮捕され、不正詐取を企てた罪で起訴された。
張氏は2005年からバージニア工科大学に勤務し、米国エネルギー省、米陸軍研究室、空軍科学研究室、国防大学の計器研究プロジェクトなどの研究プロジェクトに関わった。張氏は、中国科学院天津産業バイオテクノロジー研究所の研究者でもある。同研究所のウェブサイトによると、張氏は第12回目の「千人人材計画」に採用されたという。
2015年5月に中国から渡米した天津大学の張浩教授は水際で逮捕された。
米司法省によると、南カリフォルニア大学で電気工学博士号を取得し、張浩氏と天津大学教授の龐慰氏は、米国国防総省からの資金で薄膜バルク音響共鳴(FBAR)技術の研究を行った。卒業後、龐慰氏はコロラド州の半導体製造大手アバゴ・テクノロジー(Avago Technologies)社に雇われ、張氏はマサチューセッツ州のワイヤレス半導体メーカー・スカイワークス・ソリューションズ(Skyworks Solutions)社に勤務していた。二人ともFBARエンジニアとして働いていた。
FBAR技術は携帯電話、タブレット、GPSデバイスなどモバイル機器で使用される重要な技術で、軍事や国防にも幅広く使用されている。Avago TechnologiesはFBAR技術を設計、開発、供給する企業だ。龐氏は、2013年の「千人人材計画」プログラムの採用者リストに載っていた。
2008年には、天津大学の職員が、張氏、龐氏とその他の共謀者と面会するためにカリフォルニア州サンノゼに出張した。天津大学は同日、彼らと中国にFBAR生産拠点を設置することで合意した。二人とも、天津大学と緊密に協力しながら、勤務先の会社にとどまっている。2009年、二人は米国の仕事を辞め、天津大学の教授職の内定を受け入れた。
米当局の起訴上によると、張氏らは米の勤務先からソースコード、技術仕様書、デザインキットおよびその他の文書を盗んだ。そして、盗んだ技術資料を天津大学と共有し、「最先端のFBAR製造施設」を構築した。その後、張氏と龐氏らは、同大学と諾思微系統有限公司(ROFS Microsystem)という合弁会社を設立し、商業顧客と軍事顧客向けにFBARを大量生産した。
張氏らは産業スパイと営業秘密の窃盗の罪で起訴された。
これ以外にも、中国当局は「百人人材計画」、「長江奨学金プログラム」、「一万人人材計画」、「千人外国人専門家計画」など、多くの類似プログラムを導入している。
清華大学経済管理学部の銭穎一教授 (経済管理学部)は、海外の人材の導入は、中央当局と地方当局にとって重要な 「戦略的責務」だと述べた。
海外の人材を積極的に採用する中国当局の戦術から国益を守るため、米当局は中国人コミュニティの活動を警戒した。
2017年10月、複数のメディアが報じたところによると、在米中国人スパイに関するセミナーで講演を行った弁護士は「千人人材計画」に参加している人は、FBIの監視リストに自動的にアップされると警告した。また、在米の中国人科学者グループも監視対象となっていると述べた。
また、在米の中国人学者は、「千人人材計画」に参加していなくても、中国当局に利用され機密技術を窃盗している。
米国司法省は2018年1月23日、米国の企業から軍事技術を盗んで中国の成都ガストーン・テクノロジー社に売却した容疑で二人の中国人が逮捕されたと発表した。
この米企業の顧客には、米空軍、海軍、国防高等研究計画庁がある。同社は、電子戦やレーダーシステムに使われるMMIC(モノリシックマイクロ波集積回路)チップを製造している。
米国司法省は2018年1月18日、元IBMソフトウェア開発会社の徐家強氏が、IBMから独自のソースコードを盗み、複製、取得したために懲役5年の判決を受けたと発表した。
2017年12月6日、米国の主要チップメーカー、Applied Materials社の元幹部4人が、同社からチップ設計案を盗んで中国に会社を設立しようとしていると連邦裁判所から告発された。4人は同社のエンジニアリングデータベースから、1.6万以上の図面を含むデータをダウンロードした。
2012年、米国籍を持つ中国生まれのソフトウェア技術者金漢娟氏は、モトローラ社から盗んだ秘密情報を中国軍向けの製品開発に使用したとして、4年の懲役を言い渡された。
2012年には、米国の大手防衛請負業者であるL-3通信で働いていた劉思星氏が、ミサイル、ロケット、ドローンの誘導システムを含む同社の技術を盗んだ罪で懲役5年の判決を受けた。司法省によると、同氏は中国での就職活動に備えて資料を盗んでおり、中国の大学、中国科学アカデミー、中国政府の会議で技術に関するプレゼンテーションを行った。
戦略4 外国企業との協力を促進
中国当局が機密技術を獲得するもう1つの手段は、中国企業と外国企業の業務提携である。ニューヨークタイムズによると、米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ社とヒューレット・パッカード社の2社が、中国企業との提携を行い、サーバー・チップの研究開発に協力しているという。インテル社は中国の半導体メーカーと提携し、最先端の携帯電話チップを製造している。IBM社は、メインフレーム・バンキング・コンピューター技術の一部を中国側に移管することで合意した。
中国のインターネット大手のテンセント社は昨年、世界有数の科学雑誌『Springer Nature』と業務提携を結んだ。テンセントの副社長・陳武氏によると、双方は基礎研究の発展に注力するほか、若い科学者の育成を支援するという。
テンセント社は毎年、WEサミットを主催している。
2017年のWEサミットのウェブサイトでは、過去4年間に世界のトップ科学者45人が大会に参加し、宇宙探査、生命科学、人工知能などの分野について情報交換を行ったという。
米ニューヨークを拠点とする政治評論家明朱氏は、中国は積極的にさまざまな国際会議を開催している。これらの会議は、外国人一流科学者のスピーチから関連情報やアイデアを収集する場となっている。このような会議では、中国政府が自らの目的に合う企業を探し出す、いつか攻勢をかけるための用意を整えている。
例えば、2015年には、アルゼンチンの衛星会社であるSatelllogicがWEサミットに参加した。テンセントは2017年6月にSatelllogicに投資し、Satelllogicは中国の酒泉宇宙開発センターで6枚目のマイクロサテライトを中国の長征-4Bロケットに搭載し、打ち上げに成功した。
2014年、シリコンバレーのシンクタンクであるSingularity Universityの共同設立者Robert RichardsがWEサミットに参加した。当時Richards氏はムン・エクスプレスという新しい会社を設立したばかり。テンセントもその後、同社に投資した。「中国が法治国家ではないため、民間企業には党の(海外の技術窃盗の)指示に従わないという選択肢はない」とデレク・シザーズ ヘリテージ財団シニア・リサーチフェローはコメントした。