アングル:平昌五輪のロシア除外、プーチン大統領に有利か
[モスクワ 6日 ロイター] – ロシアの各種世論調査からすると、来年3月の大統領選に出馬する意向を表明したプーチン氏が再選するのは既に確実な情勢だ。
しかし国際オリンピック委員会(IOC)が、ロシアによる組織的なドーピングを理由に平昌冬季五輪から同国の選手団を除外すると決定したことで、プーチン氏に対する国内の支持が一層強まる公算が大きい。「世界がロシアを敵視している」というプーチン氏のメッセージを受け、有権者が一致結束するとみられるからだ。
ロシアと西側諸国の関係は、ここ何年かで最も冷え込んでいる。そうした中で平昌五輪除外を決めたIOCについてプーチン氏は、ロシアが西側による封じ込めにさらされているとのおなじみのフレーズを持ち出し、政治的動機に基づくものだと批判を浴びせた。
さらに「ロシアは前進を続ける。何人たりともこの動きを止められない」と語った。
ロシア上院のコサチョフ外交委員長は、IOCの決定は西側の反ロシア行為だという主張を早速展開した1人で、ソーシャルメディアに「(西側は)わが国の名誉や評価、利益に狙いを定めている。裏切り者を買収し、メディアの狂騒を操っている」と書き込んだ。
またロシア国内では、IOCの決定はプーチン氏個人への侮辱と受け止める向きも多い。プーチン氏統治の成功の象徴とみなされた2014年のソチ冬季五輪で、ドーピング検査に関する「空前の組織的な不正操作」があったとIOCが指摘したからだ。
ただしプーチン氏はこれまでも何度か危機を自らの立場を有利にするために利用し、国際社会からの逆風を国内における政治的勝利へと転換してきた。
カーネギー国際平和財団モスクワ・センターのドミトリー・トレーニン所長は「ロシアに対する外圧は、米国が主導する政治的動機が背景にあると理解され、国民の結束強化につながっている。さまざまな西側の制裁も、ロシア国家の礎を築く道具と化しつつある」と述べた。
世論調査ではプーチン氏の支持率は80%前後を示すのが普通の光景になっている。それでもプーチン氏は、IOCの決定に対する国民の怒りをてこに有権者の無関心という事態を克服し、選挙で高い投票率を確保して正当な付託を受けたとアピールできる。
IOCの決定への反発がロシアの愛国心を高揚させている兆候は既にいくつか見られる。政府傘下のロシア軍事歴史協会のあるメンバーはロイターに「ロシアは超大国だ」と胸を張り、ロシア抜きの五輪に価値はないと切り捨てた。
このメンバーはロシアの除外について、多くの国民が2014年のクリミア編入以降に定着したとみている西側の反ロシア運動の一環だとの考えを示した。
クリミア編入だけでなく、14年7月のマレーシア航空機撃墜事件や、ウクライナとの紛争など国際社会からロシアへの風当たりが強まるたびに、同国は西側を攻撃してきた。そうした戦術で国民の愛国心を取り込み、プーチン氏はどんなスキャンダルにも無敵に近い存在になった。今ではもはや多くの有権者から、かつての皇帝のような、国家を崩壊の淵から救った国父的人物として扱われている。
今年初め、米国でロシアとの関係改善意欲を見せていたトランプ氏が大統領に就任した際には、ロシアの西側攻撃は一時鳴りを潜めた。だがロシアの米大統領選干渉疑惑が浮上して両国関係が修復する望みがなくなるとともに、プーチン氏は以前にも増して西側対ロシアの構図を強調している。
ロシア政府に近い複数の人物は、IOCの決定とこれまで続いてきた西側の対ロシア制裁、そして新たな制裁が見込まれることが、有権者にプーチン氏の下で結束するよう政府が訴えかけるのを手助けするだろうと話した。このうちの1人は「外圧はわれわれをより強くする」と断言した。
(Andrew Osborn記者)