スイスの村「高額な移住奨励金」騒動でフェイクニュースに苦言
最近、スイス南西部の美しい小さな村が、高額奨励金で移住者を募っていると世界のニュースの見出しに踊った。しかし、村の当局は「4人家族モデルで現金7万スイスフラン(790万円)を受け取れる、と言った誤解を招く報道がなされている」と苦言を呈した。奨励金受け取りには条件をクリアしなければならないと当局は声明で強調した。
ヴァレー州アルビネン村は標高1300メートルの高山の斜面にあり、欧州最大の温泉リゾート地ロイカーバートから6キロほどの場所に位置する。協会や家屋は伝統的な石造りや木造建築で、その佇まいは数世紀の歴史を感じさせる。しかし、村の人口は約240人と年々減り、学校も閉鎖しており、わびしさが目立つ。村の全児童7人は隣町に就学している。
人口増加策として話題となった同村の高額奨励金は21日に発表された。移住する成人には1人あたり2.5万スイスフラン(約282万円)、未成年者には1人あたり1万フラン(約113万円)を支給。夫婦と子ども2人の4人家族なら総額7万フラン(約790万円)を受け取れる試算だという。
この発表から数日、「お金持ちスイスの村 あなたも高額助成を受け取って住める」「美しいアルプスの村に住み、7万ドル受け取れる」といった気を引く見出しが英語メディアを中心に踊った。
村当局は27日声明で「誤解を招く報道により、何百人もの条件を理解していない問い合わせがあった」と不快感を示した。村長Beat Jost氏は、奨励金はあくまで人口増加への対策だと述べた。「別荘だとか不動産投資といった目的は論外だ」と英デイリーメールに抗議した。
同村の声明で、移住条件に付いて改めて強調した。たとえば、①45歳以下 ②最短10年間滞在、期間に満たなければ返済しなければならない ③奨励金を受けるには最低20万フラン(約2266万円)の現地不動産を購入 ④一定額の財務証明の提出 ⑤外国籍ならばC許可証保持者(スイスに継続10年間以上滞在した者に認められる居住権)など。
アルビオン村役場は11月30日、条件付き高額奨励金を含む移住者募集制度の実行の是非について、住民投票を行う。
スイスは億万長者が人口に占める割合が世界で最も高いが、日本同様に人口減少の問題を抱えている。しかし、移住者や難民を歓迎する姿勢よりも、排斥するムードがある。2016年5月、人口13%が億万長者である「欧州で最も裕福」とされるスイスの村オーバーウィール・リーリでは、住民投票で、国が26行政に要請した難民10人の受け入れを拒否し、代わりに罰金およそ3000万円を支払うことを決めた。
同村の住民の一人は英デイリーメールに対して「私たちは一生懸命働き、村の美しさを保っている。難民が暮らすのには適さない」。秩序と犯罪防止のために「率直に言って、難民には来てほしくない」と述べた。
しかし、国内外の批判を浴びて同年11月、難民一家5人を受け入れる決議が通過した。
スイスの国土は日本の約10分の1、人口は約787万人。主な産業は金融業(銀行、保険)、電力、観光業、精密機械工業(時計、光学器械)、化学薬品工業。市民の生活満足度は高く、国連世界幸福度報告(2016)では第2位だった。
(翻訳編集・叶清/佐渡道世)