飲酒運転がやめられない元兵士 判事と独房で一夜を過ごす
ほんの少しの優しさが、人を更生させるきっかけになることがあります。
アメリカ人のジョー・サーナさん(Joe Serna)は、アフガニスタン紛争に従軍した元兵士。テロや爆弾が日常の戦地から帰還した勇者でした。
しかし、退役してからは飲酒運転を繰り返し、逮捕されてしまったサーナさん。2016年、彼は飲酒が禁じられていた保護観察期間中にお酒を飲んでいないと「嘘をついた」として、留置所に一晩拘束されることになりました。
サーナさんへの処遇を決めたノース・カロライナ州ファイエットビル裁判所のロー・オリベラ判事(Lou Olivera)は、「彼には責任を果たす義務がありました。そこで、一晩拘束することにしたのです」とCBSイブニング・ニュースのインタビューに答えました。
一方、サーナさんにとって、独房で過ごすことは、とてつもない苦痛でした。閉ざされた空間は、アフガニスタンでの記憶を甦らせる可能性があったのです。なによりも恐怖だったのは、彼のトラックが川に落ちた時のことでした。まったく身動きが取れない彼の足元に水が流れ込み、徐々に浸水した水は、アゴのところでやっと止まりました。サーナさんはなんとか脱出できましたが、同乗していた他の兵士たちは亡くなりました。その時の経験がトラウマとなり、彼は長い間PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいたのです。
独房に入ったとたんにフラッシュバックが起こり、不安に掻き立てられたサーナさん。すると、そこにオリベラ判事が現れました。サーナさんが怯えていることを知っていた判事は、彼と共に一夜を過ごすことを決めていたのです。
判事が現れると、サーナさんは落ち着きを取り戻しました。二人でミートローフを食べながら、家族のことなどを話しているうちに、サーナさんの恐怖心も薄れていきました。「(判事と話しているうちに)、独房の壁はなくなりました。彼は僕をアフガニスタンからここノース・カロライナに引き戻してくれたのです」
オリベラ判事との打ち解けた会話が、サーナさんの心を動かしました。判事を「絶対に失望させたくない」と話すサーナさんは、今後二度と飲酒運転をしないと決心したそうです。
(文・郭丹丹)