文・中原

習・馬会談に隠されたコード

そもそも天下の大勢は、分かれること久しければ必ず合し、合すること久しければ必ず分かれるもの。11月7日、習近平・国家主席と馬英九・総統がシンガポールで会談し、66年も凍結していた厚い氷が砕かれ、面会そして国家統一へと通じる扉が開かれ、『三国演義』冒頭で言われる天下の大勢が大きく変わり始めた。

会談が実現できたのは、双方が歩み寄った結果であるが、習近平・主席による台湾政策の是正や積極的な推進が主因であった。習氏はなぜ、この時期に突然、馬英九・総統と会談しなければならなかったのか。狙いは一体何だったのか。

南シナ海で人工島造成により国際情勢が緊迫化した今、領土問題で共同の立場を持つ台湾からの応援、日米とのすり合わせや衝突緩和などの役割が必要だ。いわば、台湾との連携により、人工島造成で対立する諸国をけん制しつつ迂回の道を作ったのである。同時に、国家統一を主張し、支持率が下がった国民党の肩を持ち、来年1月に行われる総統選挙に一石を投じることによって、新政権に釘を刺しつつそれと交流するパイプを作っておくことにもなるのである。

しかし、これらは表層現象に過ぎず、習氏の真の狙いはより大なるものだ。

会談で馬氏は、台湾と大陸の平和と繁栄を維持するための五つの案を提言し、万世太平、中華民族の平和で燦爛たる未来を切り開こうと訴えた。習氏は、両首脳会談の歴史的意義を強調し、台湾と大陸が共に歴史的な選択を強いられている当今、中華民族と歴史に求められる正確な選択をし、行動をもって中国人が自分の問題を解決できる能力と知恵があることを証明すべきと呼びかけた。

馬氏の談話は規範的であった。習氏の発言はあるコードが隠されつつも自らの宣言となり、今後の波乱万丈な情勢の展開にも伏線を敷いた。

習氏の建議は共産党が崩壊しなければ実現できないので、彼はすでにポスト共産党のために網を張っておいたと読まれても問題ない。これは、共産党の崩壊をもたらしかねない腐敗撲滅、法制化の推進、共産党の影響力を弱めつつ国家の機能を強化し、伝統文化重視等の一連の措置からも裏付けられるだろう。

習氏は偉業を成し遂げようとしているが、ぜひ自ら掲げた「歴史の試練に耐えられる選択」をしてほしい。何れにせよ、習氏の言う「大陸と台湾の国民が共に民族復興の偉大な栄耀を享受できる」願いはきっと叶うだろう。天下大勢の故だ。


コラムニスト プロフィール

中原・本名 孫樹林(そんじゅりん)、1957年12月中国遼寧省生まれ。南開大学大学院修士課程修了。博士(文学)。大連外国語大学准教授、広島大学外国人研究員、日本学術振興会外国人特別研究員等を歴任。現在、島根大学特別嘱託講師を務める。中国文化、日中比較文学・文化を中心に研究。著書に『中島敦と中国思想―その求道意識を軸に―』(桐文社)、『現代中国の流行語―激変する中国の今を読む―』(風詠社)等10数点、論文40数点、翻訳・評論・エッセー等300点余り。

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