チベットの光 (69) 人生無常

【大紀元日本10月11日】「お兄さんの言っている世間の八法とは、人間の幸福のことなのよ!」 プダが血相を変えて反駁した。「わたしたち兄妹が、世間の幸福を捨てることはないわよ。あなたは、バリ・ラマ大先生のようなやり方を知らないから、そんな大仰な道理を私に言って聞かせて、偉そうにするんじゃないの。わたしはあなたの言うことは信じない。食べない、着ない、それでもって誰もいない山の中に入って飢えて凍えるなんて、私はいやだわ。お兄さん、あなたはあっちこっちほっつき歩くのはやめて、ここに定住しては駄目なのかしらね。ここにいれば、私も容易に見つけられるし、それにここの人たちは皆あなたのことを信じているようだし、ここに長く住めばいいじゃない。そうでなかったら、しばらくここにいて。私があげた毛布でチベット・スカートを作っていてちょうだい。ちょっと、別の所に行ってきて、それからまた戻ってくるからね」

 「いいだろう!それではまだしばらくここに留まることにしようか」。 ミラレパがそう答えると、彼女は山を下りて、プリンに托鉢に行った。しばらくしてプダが戻ってきた。しかし、ミラレパは彼女の言いつけを守らず、毛布でチベット・スカートではなく、別のものを作っていたので、大声を張り上げた。

 「もうお兄さん!やりすぎなのよ。私が苦労してもらってきたご飯で、やっと毛布に換えたのに、それが台無しじゃないの」。彼女はそれらの羊毛を見て青ざめて言った。

 「お兄さん!私がなんと言おうと、私が言ったとおりにしないで勝手にやるんだったら、もう私はあんたのことにかまわないら。だけど、私はお兄さんを見捨てられないの、そんな様子を見るのが辛いのよ」。プダはもらってきた食料とチベット・バターをミラレパに渡すと言った。「あなたはこれを食べていて。私はまた山を下りて、食料を調達してくるからね」言い終えると、彼女は行こうとした。

 「ちょっと待て!」 ミラレパが引き留めた。「慌てていくことも無い。これらのものを食べ終えてから行くがよい。おまえがここに留まっている間は、よしんば修煉はしなくても、少なくとも山を下りて業を作ることもないしな。ここに数日逗留してからいくがよい」

 「いいわよ!」 プダがここに逗留している間、ミラレパは彼女に因果応報、善悪輪廻の道理を言って聞かせたので、彼女の仏法に対する認識も段々と正確になり、その個性もいささか改められた。

 それからしばらくして、ミラレパの叔父が亡くなった。彼が死んでから、叔母は人生の無常を深く感じた。人はいつ死ぬかわからない。人は死んだら、何もあの世に持っていけない。世上の財産がいくら多くても、生きて持ってくることも、死んで持って行くこともできない。生前の財産名利は、死後には単なる幻に過ぎないのだ。彼女は、ミラレパに以前やったことを思い出し、本当に後悔した。これらの夢幻のようなもののために、悪いことをたくさんしたのだ。なんと意味の無い、価値のないことであったか。

 こうして、彼女はあらゆる財産を村の人に預け、自分が背負える物だけを選んで背負うと、プリンの地にいるミラレパを訪れた。

(続く)

 

(翻訳編集・武蔵)

 

 

 

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