英国バイリンガル子育て奮闘記(6)

就学前(1989~1992年)  いたいのいたいの、とんでゆけ〜

 英語より日本語の方が,幼児語が多い気がするのは、私が日本語で生まれ育ったせいだろうか。英語では、大人の会話通り幼児に語りかけるが、日本語では、幼児に対しては幼児語を使う。たとえば、「だっこ」は、英語で「pick me up」。 「のんの」は「get up」(大阪出身の人は「ちゃんこ」と言っていた)。「たっち」は「stand up」。成人してから日常会話で「私、のんの」とも言えないので、日本人は大人になる過程で、また別の単語を頭にいれなければならない。

 日本から送ってもらったビデオで『ポンキッキ』を見た時、「こういう風に幼児に語りかけるのかあ」と、意識して幼児語を学習した覚えがある。しかし、不思議なもので、周りに日本人がいなくても、眠っていた潜在意識が呼び起こされるかのように、言葉が口から出てくることもあった。その例が、子供を歩かせようとする時の「あんよはおじょうず、ころぶはおへた」だった。大人が手を叩きながら、はやし歌のようにして、よちよち歩きに向かって繰り返す。突然、自分の口が動き、この言葉が出てきた時は、「え?今の言葉、誰が言ったの?どこからきたの?」と思わず自分の耳を疑った。20年以上耳にしていなかった言葉が、自分の目の前で再び息づいていた。

 よく使ったのは、「いたいのいたいの、とんでゆけ〜」だったが、山らしい山はスコットランドまで行かないと存在しないので、「遠くのお山」の代わりに「スコットランドのお山にとんでゆけ〜」と自分のバージョンを作らせてもらった。

 因みに、娘が道端で転び「泣こうかな、どうしようかな」としばらく躊躇している瞬間、「道に穴開けちゃった?」と真剣に道路に凹みができたかを確認しようとする近所のおばさんがいた。これはイギリスのジョークらしい。ひとりならず、いろいろな人から言われた。子供が頭を机にぶつけた時も、机の裏や角を真顔で調べる。子供の方も、頭を打ったことは忘れて、一緒に机の確認を始める。すぐに抱き上げて「あ〜かわいそ、かわいそ」と甘やかすよりも、内向せず外に目を向けさせる、実に賢い子育て法だと感心した。

 (続く)