能楽『菊慈童』 (菊水の由来譚)
【大紀元日本9月6日】周(紀元前1046―紀元前256年)の時代。周王朝の第5代王・穆(ぼく)王は八頭の駿馬を駆って、異民族を征服したと伝えられる。穆王八駿は霧を纏い、地に足をつけることなく、羽ばたく如く自身の影を追い抜いて、超光速で走るという別格の馬ぞろいだ。断るまでもなくこれら天駆ける神馬は、地に降り立って玉座に侍る龍馬=ドラゴンの別称に他ならない。
神話的王・穆王は八駿を御して、中国全土の龍脈の道を制する大旅行を敢行した。龍脈の本源である崑崙山に登り、西王母に邂逅して歓待を受けお互いの贈り物を交換し合ったと伝説は語る。聖地における贈り物の交換は、秘儀伝授の姿を留めるものである。西王母から、三千年に一度実る桃の実を受け取ったという。
大旅行家・穆王はインドの地に到り、霊鷲山(りょうじゅせん)でお釈迦様に出会って法華経の八句の偈(げ)を賜った。偈は詩の形式で仏法を説いたもの。この八句の偈の内の二句「具一切功徳慈眼視慈衆生、福聚海無量是故応頂礼」が、『菊慈童』物語りで重要な働きをなす。穆王(?-紀元前940年)とお釈迦様(紀元前5-6世紀)との出会いは、考証学的には合わない。しかし神話的物語りが織り成す時空では、歴史的時間が溶かされて何事もなく推移する。過去の想い出も未来の出現も神の懐の中で等しく現在化され、不可思議の由来を事も無げに称揚するのである。
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