ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(番外編3-1)
【大紀元日本8月27日】「温泉に行きたいにゃ~」という猫の目女のボヤキを聞きながら、なんでこの猛暑にと思ったが、しかし温泉は山の中の高所にあることだし、命を救ってもらった御礼にと、猫の目女を助手席に乗せて、群馬県の伊香保温泉郷を訪れることにした。日頃、東京にいるので地方巡業だ。
さっそく金遁雲号を龍体に変化させ、地上の渋滞を尻目に雲間を行くのであっという間だ。しかし、現地に着くと「はた!」と困った。電話予約だの、インターネット予約だのをしていなかったので、お盆休みも重なって、どこの旅館も満室だ。すると最後に立ち寄った旅館の主人が、「・・・じゃ・・この伊香保神社の先の・・ずっと村外れの津武烈荘に行ってみたらいかがですか・・・快適かどうかは保証できませんけど・・」と暗い表情で紹介してくれた。
さっそく伊香保神社を抜け、街道沿いに村外れまで行くと、瀟洒な古寂びた日本家屋が傾きそうな勢いで建っている。「なんとも小汚い旅館だにゃ~」と猫の目女は例の口調で言っている。ガタピシとした玄関を開けると、埃の詰まったような下駄箱から何やらすえた匂いがしている。奥から、老人と女児が出てきた。
「よくいらっしゃいました・・・お客さんが来たのは久しぶりで・・さぁどうぞ・・」と言っているが、顔の大振りの絆創膏が気になる。奥の日本間に通されると、「お湯は常時沸いていますので、いつでもどうぞ・・ここの茶褐色の湯は古くは万葉集でも詠まれ・・・」などという、通り一遍の説を受けている内、猫も目女の妖怪携帯が鳴った。「・・今晩、お客さんが来るにゃ~」。
すっかり陽も榛名山に傾き、蝉時雨が一段落して力を落とす頃、主人の老人が、食事をもって遣って来た。「山の中なので何もありませんが・・・山菜だけは自慢できます。他に川魚なども美味ですよ・・」などと言って出て行った。どうも奥さんはいないようだ・・・ふと見ると、猫の目女は、山うどや蕨、シメジなどの山の幸に鰹節をどっさりとかけて、御飯にもこれまた大量の鰹節をかけて「猫飯」にして食している。
食事も終わり、陽はとっぷりと暮れ、山の冷気が集落を包む頃、私と猫の目女は、仙人と妖怪らしくないある種の緊張感をもって、男湯と女湯に分かれた。私は、「サルの行水」なので、先にあがって部屋で待っていると、数十分後に猫の目女が帰ってきた。
帰ってくるなり、猫の目女は、こちらをじっと凝視すると、部屋の電気を消して、旅館の浴衣を後姿になってゆっくりと脱ぎ始め、「柔肌の・・熱き血潮も触れもみで・・寂しきかな・・道を説く君」などと言っている。後姿には、びっしりと体毛が生え、パンツの尻のあたりが糞をもらしたようにこんもりとしている。
猫の目女が振り返り、胸のあたりを隠して近寄ってくるので・・「き、君のパンツのお尻の辺りに・・こんもりとしていたのは・・尻尾!?」と素直に疑問をブツケテシマッタ。すると、「レディーに向かって失礼ね!」と、刹那に猫の手フックが飛んできて、したたか頬に爪が食いんだので、ほうほうの態で部屋を出た。
洗面所の鏡で「戦況被害」を見ていると、人の気配がしたので振り返ってみた。果たして旅館の主人だった。「お若いの・・・盛んですな!」というので、「・・何!?その逆です・・接して漏らさずです」と言ってみたがはじまらない。「・・この山の中ですじゃ・・な~にプライバシーなど気にしなさんな!・・わしなど若い頃は、村中の女を泣かしたものでしたワイ!」などと聞きもしない武勇伝を開陳しては、旅館の奥に消えていった。