【大紀元日本8月3日】店内は静まりかえり、扇風機のパタパタという音しか聞こえない。私は、店内の時間を凝縮すると、如意棒を一瞬だけ物質化し、無頼漢の腰の辺りをサッと払った。すると、無頼漢は、カウンター越しに数メートル後方に吹っ飛び、冷やし柳麺のスープを入れた寸胴鍋にすっぽりはまり込んで昏倒してしまった。剃り込みを入れた連れの無頼漢が、黒目がねを外して状況を確認し、検めて唖然としている。
「これは転地逆転という技でね、日本では珍しいと思うよ・・」私がニッと笑うと、店主が「あ~あ、半日かけて煮込んだスープが・・ヤクザ屋さんが具材になったよ・・」と嘆く。この声で我に返った剃り込みの無頼漢は、「覚えてやがれ!」と捨て台詞を残すと、足早に店を後にした。
私は、ゆっくりと席を立つと、寸胴鍋をかぶって昏倒している無頼漢の元に寄った。「おい、おまえどこの組のものだ!?」と聞くと、「・・・小虎組・・六本木タイガー・エンタープライズ・・日本迷医師会の薮本先生・・・」と寸胴の奥から微かに聞こえた。「薮本の屋敷に入るには、どうしたらいい・・」、「タイガー・エンタープライズ(株)から・・平平小籠包のお中元といえ・・」といって気絶してしまった。
六本木の東京ミッドタウン裏にある薮本邸を訪れると、すでに夜の七時を廻っていた。ここは、多国籍の外国人が闊歩する表通りの六本木通りの喧騒を離れて、一転静かな赤坂の高級住宅街の一角だ。ふと気が付くと、傍らには猫の目女がいる。手には、何やら赤子の手を乾燥させた紅葉のような葉っぱをビニール袋にギッシリと詰め込んでいる。それが、猫の目女の大きな瞳と相まって、夜の街灯下では不気味だ。
私は、恐る恐る「その紅葉のような葉っぱ、それは何なの・・?」と聞いてみた。すると、「みゃ~ん、ヒトマタタビ・・・」と答える。私はさらにひきつった作り笑いをしながら、「そ、それって、どこで採ってきたの?東北の山かどこかかな?」、「ふーぅ、地獄の4989丁目!!・・どんな無頼漢もこれでイチコロなんだにゃん♪」・・・???・・・
薮本邸は、見事な日本家屋であった。御影石の表札に「日本迷医師会・・薮本正」と読める。私は、インターフォンを押すと「すみませ~ん。金遁雲宅急便ですが・・」と呼んでみた。中から、CCDカメラで映っているらしく、若い女性の声がして、「何ですか、その横のビニール袋を持った猫みたいな女の人は!?」と警戒するので、「あ・・集金の見習いです。六本木タイガー・エンタープライズ社から、平平小籠包のお中元です・・」と言うと、暫くして「・・・どうぞ・・」とオートロックが解除された。
玄関で出迎えたのは、和服に身を包んだ小柄な日本女性だった。まだ、二十代前半だろうか、濃い目の化粧が妙に色っぽいお手伝いさんだ。ふっと横を見やると、ぎょっとした。東洋人の女性が、腹部を刳り抜かれて、臓器が丸見えになっている。まるで人間の剥製だ。「ホーホッホッホッ」と女性は口に手を当てて笑うと、「・・・それは、先生が訪中された際に、北京の日中太子党総合医科大学の賃教授から贈答されたものです。先生は、日本媚中派学識会の常任理事でもあるんですのよ・・」と鼻高々にまくしたてた。
「薮本先生は、奥の清貧の間で、お客さんと懇談されています・・」と言うと、渡し廊下のむこうにある「清貧の間」まで私たちを案内した。途中の枯山水の日本庭園が、池の見事な錦鯉と相まって高い財力を伺わせる。女は、どうぞと目配せすると、会釈して去っていった。障子を少しだけ開けて中を伺うと、中から鼻をつんと突く強い酒気が匂って来た。私のような仙人系には、苦手な匂いだ。
「おい!御手洗!例の件はどうなった?」痘痕面の中老が聞く。でっぷりとした太鼓腹が着流しの和服からせり出している。「はい。それはもう万事抜かりなく・・」とキリギリスのようなスーツ姿の太鼓もち、官僚だろうか。中では、真っ黒に日焼けした女性が、白いビキニ姿で、ヘッドセットをして酌をしている。時折、音楽に興じるのか、腰を振るのが妙に扇情的だ。ふと気が付くと、傍らの猫の目女がいない・・・。
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