赤ちゃんが初めて呼吸をするよりも前から、その脳はすでに形づくられています。その材料となるのは、母親の血液を通じて届けられる栄養素です。
母親の栄養状態が、赤ちゃんの脳の発達に測定可能な影響を及ぼすことを示す証拠が増えています。さらに近年では、子どもが自閉症やその他の神経発達障害を発症するリスクにも関係していることが示唆されています。
このテーマについて行われた最大規模のコホート研究(特定の集団を長期間追跡し、要因と結果の関係を調べる研究)の一つでは、研究者が8万組を超える母子を追跡しました。その結果、妊娠中に最も健康的な食生活を送っていた母親から生まれた子どもは、自閉症と診断される可能性が22%低いことが分かりました。
妊娠中の食事が非常に重要な理由
妊娠中の赤ちゃんは、臓器の形成と成熟に必要な栄養素を、すべて母親に依存しています。こうした依存関係が、栄養に大きな科学的関心が寄せられている理由の一つです。
「栄養は、エピジェネティックな仕組み、つまり基礎となる遺伝暗号を変化させることなく、遺伝子がどのように発現するかを調節する生物学的過程を通じて、胎児の発達に影響を及ぼす可能性があります」と、精神科医のナディア・ベイカー医師はエポックタイムズに語りました。
『JAMAネットワーク・オープン』に掲載されたコホート研究では、より健康的な食事パターンに従っていた母親は、自閉症と診断される子どもを持つ可能性や、子どもが3歳および8歳の時点で社会的コミュニケーションの困難を報告する可能性が低いことが分かりました。
研究者らは、母親の食生活と脳の発達を結びつける主な経路を二つ挙げています。一つ目は栄養状態の悪化です。不十分な栄養は妊娠中の炎症を引き起こす一因となり、その炎症が酸化損傷(活性酸素などによって細胞や組織が傷つくこと)を通じて、発達中の脳に影響を及ぼす可能性があります。
二つ目の経路は、胎盤を通じた栄養素の移行です。オメガ3脂肪酸や、鉄、コリン、ヨウ素、亜鉛、ビタミンB群、D、Eなどの微量栄養素は、この方法で母親から赤ちゃんへと渡されます。
「これらの栄養素は体内で合成できないため、母親の食事やサプリメントから摂取する必要があります」と、分子疫学者でカリフォルニア大学デービス校教授のレベッカ・シュミット氏はエポックタイムズに語りました。そのため、これらが不足すると発達中の脳に影響を及ぼす可能性があります。ただし、健康な脳の発達を単独で担う栄養素があるわけではありません。
また、食事だけが自閉症を引き起こすことを研究が示しているわけでもありません。自閉症と母親の食生活を研究してきたコペンハーゲン大学の博士研究員、デビッド・ホーナー氏は、エポックタイムズにそう語りました。むしろ栄養は、遺伝的な脆弱性と相互に作用する環境要因の一つである可能性があります。
栄養が最も重要となる時期
妊娠初期から中期は、脳の発達にとって特に重要な時期とみられています。妊娠第1三半期と第2三半期には、脳と脊髄が形成され、新しい脳細胞がつくられ、それらの細胞が本来あるべき場所へ移動します。
「脳の初期発達は、多くの女性が妊娠に気づくよりも前に始まっています」と、機能性医学の専門家で、慢性疾患と神経炎症を研究するトム・オブライアン氏はエポックタイムズに語りました。同氏によると、妊娠初期には赤ちゃんの血液脳関門(血液中の物質が脳内へ無制限に入るのを防ぐ仕組み)がまだ発達途中で、物質を通しやすいため、母親の体内で起きていることの影響を受けやすい可能性があります。
特に重要となる栄養素も、妊娠の時期によって変化します。葉酸は、受胎前後および妊娠初期に特に重要です。シュミット氏によると、ビタミンDは妊娠初期に特に重要とみられる一方、オメガ3脂肪酸と鉄は妊娠第2三半期から第3三半期にかけて、より大きな役割を果たします。
栄養は受胎前から重要です。グラスゴー大学の栄養士で研究者のキャサリン・フリエル氏は、エポックタイムズにそう語りました。あらかじめ十分な栄養素を体内に蓄えておくことは、胎児が発達の最初の段階から必要な栄養を得られるようにするうえで役立ちます。
食事パターンについて研究で分かったこと
大規模研究では、個々の栄養素ではなく、食事パターン全体が比較されてきました。その違いは明確です。
妊娠中の欧米型の食生活は、一般的に加工食品、添加糖、不健康な脂肪を多く含み、注意欠如・多動症(ADHD)と自閉症の両方について、発症リスクの上昇と関連することが示されています。6万組を超える母子を対象とした三つの大規模研究のレビューでは、欧米型の食事パターンが、10歳までの子どもにおける自閉症関連の結果の増加と関連していることが分かりました。
これに対して、受胎前後に地中海式の食生活をより忠実に実践することは、自閉症に関連する行動が現れる確率の低下と関連していました。
「胎児の脳は、妊娠中に単に成長しているだけではありません。すでに機能しており、母親の栄養状態がその働きをリアルタイムで積極的に形づくっています」と、妊婦への支援に幅広く携わってきた管理栄養士のジェシカ・クランシー=ストローン氏は、エポックタイムズに語りました。
食べ物への欲求、現実の生活、栄養不足
では、妊娠中の女性はどのような点を変えられるのでしょうか。
「母親として、栄養士として、そして何度も流産を経験した後、ようやくハイリスク妊娠を経て生きている赤ちゃんを出産した者として、赤ちゃんの発達を支えるために、できることはすべてしたいと感じる気持ちがどれほど強いかを知っています」と、クランシー=ストローン氏は語りました。
自身の妊娠中、同氏は脳の発達を支える栄養素を重視しました。コリン、ビタミンB12、ビタミンD、たんぱく質を摂るために卵を食べ、ドコサヘキサエン酸(DHA)を摂るためにサーモンなどの脂肪分の多い魚を選びました。また、葉酸と鉄のために葉物野菜と豆類を、ヨウ素とカルシウムのために乳製品または栄養強化された植物性ミルクを、良質な脂肪とマグネシウムのためにナッツ、種子類、植物油を、食物繊維と抗酸化物質のために全粒穀物、果物、野菜を取り入れました。
妊娠したからといって、食事を制限する必要はありません。特定の食べ物を無性に欲しくなることは、妊娠中にはごく普通に起こることで、その欲求は非常に具体的かつ強い形で現れることが多いと、クランシー=ストローン氏は述べました。
「妊娠中、私はケソ、つまり細切りチーズではなく溶かしたチーズをかけたファヒータ・ナチョスに、リフライドビーンズ(豆を煮てつぶし、炒めたメキシコ料理)と、ありとあらゆる野菜を添えたものが無性に食べたくなりました」と同氏は語りました。「そして、その欲求が起きたときには、ほかの何を食べても満足できませんでした」
妊娠すると、ホルモン、代謝、食欲に大きな変化が起こります。特定の食べ物を欲することは、こうした変化に身体が反応する方法の一つと考えられます。クランシー=ストローン氏は、その欲求に逆らうのではなく、健康的な食生活の中に、食べたいものを楽しむ余地を設けることを提案しています。最も重要なのは、食事全体のパターンです。日々の食事が栄養価の高い食品を中心に構成されていれば、全体のバランスを崩すことなく、食べたいものを楽しむ余地もあると同氏は述べました。
妊娠中の栄養不足のリスクは、気づかれないことがあります。身体が必要とする栄養量の増加によって欠乏が生じる可能性があるほか、胃酸を抑える薬やメトホルミンなど、一般的に使用される一部の薬は、ビタミンB群の吸収を妨げることがあります。また、カフェインの過剰摂取や飲酒も栄養素の損失を増やす可能性があると、クランシー=ストローン氏は述べました。
脳の健康を支える食事の組み立て方
こうした推奨事項を、妊婦が心配すべき新たな問題として受け止めてしまうのも無理はありません。しかし専門家らは、心配する必要はないと述べています。
母親に罪悪感を抱かせたり、負担に感じさせたりするのではなく、健康的な食事をより手頃な価格で入手しやすくし、選びやすくするための支援を行うことが、より建設的な方法だとホーナー氏は述べました。
コペンハーゲン大学で食品と健康に関する計算科学を研究するモーテン・アレント・ラスムセン教授は、多少の努力と意志の力、そして地域や家族の支援があれば、妊娠中の食事を栄養豊富で満足できるものにできると、エポックタイムズに語りました。
クランシー=ストローン氏は、胎児の脳の発達を支える1日の食事例として、次の内容を紹介しました。
朝食:卵2個、全粒粉トースト、アボカド。必要に応じて、DHAを強化した牛乳、またはDHAを加えたコーヒー(もしくはカフェインレスコーヒーや紅茶)
午前中の間食:チアシードまたはクルミとベリー類を添えたギリシャヨーグルト
昼食:キヌア、ホウレンソウまたはケール、オリーブオイルを使った地中海風サーモンボウル
午後の間食:野菜、全粒粉クラッカー、フムス(ひよこ豆をペースト状にした中東料理)
夕食:グリルチキンまたは豆腐、ローストしたサツマイモ、蒸したブロッコリーまたは芽キャベツ、カボチャの種を加えたミックスグリーンサラダ
夜の選択肢:栄養強化牛乳または植物性ミルクを使ったラテ
「この食事パターンなら、胎児の健康な脳の発達に関連する栄養素を自然に摂取でき、胎盤と代謝の健康も支えられます」と、クランシー=ストローン氏は述べました。
重要なのは、栄養が健康な脳の発達にとって大切な基盤になるという点です、とベイカー氏は述べました。
「単一の食事要因だけで自閉症を予防したり、引き起こしたりすることはありません。しかし、必須栄養素を十分に摂取し、科学的根拠に基づく妊娠期のケアに関する推奨事項に従うことは、母親の健康と胎児の最適な発達の両方を支えるために実践できる方法です」と同氏は語りました。
(翻訳編集 井田千景)
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