宴会続きでも疲れない体へ 冬至後に整えたい「肝と脾胃」の養生
冬至は、天地の陰気が極まり、夜が一年で最も長くなる日であり、同時に「陰が極まって陽が生まれる」大切な転換点でもあります。この時期は、体内の陰陽のバランスや気の流れも切り替わる最中にあり、本来は食べすぎを避けたいタイミングです。
しかし実際には、冬至の後はすぐに年末を迎え、会食や鍋を囲む集まり、忘年会、年末年始のごちそうが続き、鍋料理、焼き物、煮込み、甘いものが次々と食卓に並びます。
その結果、胃腸に大きな負担がかかり、肝と脾の働きのバランスが乱れ、体内の気の巡りが滞って、なんとなく不調を感じやすくなるのです。
陽気が芽吹く冬至明け いちばん怖いのは「気の滞り」
冬至は、陽気がようやく芽吹き始めたばかりの時。それは土から顔を出したばかりの小さな芽のように、とても繊細で、重たいもので覆われるとすぐに押しつぶされてしまいます。
ところが年末年始の宴席では、脂っこい料理、濃い味、長時間の座りっぱなし、飲酒、生活リズムの乱れが重なりやすくなります。中医学では、こうした状況によって気の巡り(気機・経絡)が滞ると、最初に影響を受けるのが脾胃だと考えます。脾胃が滞れば、気血の流れも悪くなり、気分、睡眠、筋肉の調子まで乱れてしまいます。
ですから、冬至後の不調の多くは「補いが足りない」のではなく、補いすぎているのに「出口」がないことが原因なのです。
この時期の養生で大切なのは、何をどれだけ補うかではなく、 体の中の気の巡りを、もう一度なめらかに動かしてあげることなのです。
年末年始こそ「肝の気」をのびやかに整えることが大切
五行では、肝は「木」に属し、全身の気の巡りを調整し、のびやかに発散させる働きを担っています。この肝がいちばん苦手とするのが、「鬱滞」や「詰まり」です。
冬至を過ぎると、陽気が芽生え始め、肝の気も「内にしまい込む状態」から「動き出そうとする段階」へと移っていきます。ところが、年末年始のごちそうやお酒、味の濃い料理、感情の起伏などが重なると、肝の気はたちまちスムーズに発散できなくなってしまいます。
肝の気が滞ると、全身の気の巡りが悪くなり、脾胃の消化・吸収の働きも鈍くなります。せっかく摂った栄養が、かえって体の負担となり、ため息がでる、胸がつかえる、イライラする、眠れない、胃腸の調子が悪い――といった不調が現れやすくなります。
だからこそこの時期の賢い食べ方は、やみくもに補うことではなく、肝の気をのびやかにし、脾胃を助けて滞りをさばく食養生なのです。
年末年始の胃腸を救う一皿 「筑前煮」で肝と脾胃を同時に整える
日本の伝統的な家庭料理である筑前煮は、一見とても素朴ですが、実は体を思いやる絶妙なバランスを備えた料理です。滋養スープのように重たすぎることもなく、年末年始の体調にちょうどよく寄り添ってくれます。
筑前煮の主役は、れんこん・ごぼう・にんじんといった根菜類。これらは土の中で育つ食材で、性質もどっしりと落ち着いており、浮つきがちな気を下へと引き戻し、胃の気を下げ、肝と脾のバランスを整える働きがあります。
さらに、しいたけが脾胃を元気づけ、宴席続きで鈍くなった消化力を呼び覚まし、少量の鶏肉やこんにゃくが、重くなりすぎない形で気血を補ってくれます。
食後には、胸やお腹のつかえが取れ、食欲が整い、体の巡りがすっと良くなるのを感じられるでしょう。心身が自然と落ち着いてくる、まさに年節にふさわしい一皿です。
レシピ:筑前煮
材料(2人分)
- れんこん 少量
- ごぼう 少量
- にんじん 1/2本
- 干ししいたけ 2枚(戻しておく)
- 鶏もも肉 少々(またはこんにゃくで代用)
- 和風だし 適量
- しょうゆ・砂糖・みりん 各少々
作り方
- 根菜は切ったあと、すぐに煮るのではなく、先に軽く炒めて香りを引き出す。
- だしとしいたけを加え、弱火でゆっくり煮含めて味を中まで染み込ませる。
- 最後に鶏肉と調味料を加え、濃すぎないやさしい味に仕上げる。
この筑前煮は、年末年始のごちそう続きで胸がつかえる、胃が重い、食欲がわかないといった人、また気分が落ち込みやすい、ため息が多い、眠りが浅いといった人にもおすすめです。
結び
年末年始のにぎわいは、決して体に負担がかかってはなりません。この筑前煮は、冬至を過ぎ、年節へと向かう「切り替わりの時期」のための食養生レシピです。
養生は、ただ補うだけではなく、季節と体の気の流れに寄り添うことが大切です。気の巡りが整えば、体の陽気は自然と育ち、再びいきいきとした力を取り戻していきます。