頭部外傷が認知症リスクを高める:マッサージ・食事・自然が助ける方法

当代中医学クリニック院長のKuo Yu-cheng氏は、幼少期に音楽の才能に恵まれ、一度聴いたメロディーをすぐに覚えることができました。しかしある日、学校でのいたずら中にドア枠に後頭部を強くぶつけてしまい、それ以降、音楽を思い出す力が失われてしまったといいます。

「あの経験は私の人生を変えました」とKuo氏は振り返ります。「頭部外傷が脳や記憶にどれほど深刻な影響を与えるかを痛感しました」

長年の臨床経験から、Kuo氏は脳性まひの多くの子どもたちに、頭部外傷の既往があることに気づいています。高齢者ではその影響がさらに大きくなるとし、「台湾の著名な心臓外科医Lin Fang-yu博士は、転倒による頭部外傷の後に認知症を発症しました」と語ります。
 

頭部外傷が認知機能に影響する仕組み

たとえ症状がすぐに現れなくても、頭部外傷は長期的に神経にダメージを与えることがあります。Kuo氏によれば、こうした外傷は脳の血流を妨げ、年齢とともに心機能が低下することでさらに悪化します。その結果、脳組織への酸素供給が減少し、慢性的な酸素不足が神経細胞の喪失を加速させ、記憶力の低下や認知症リスクを高めることになるといいます。

中医学では、頭部はすべての「陽経」が集まる重要な場所であり、「」と「血」がここに集まり、脳や感覚器官を養います。Kuo氏は、頭部外傷によってこのエネルギーの流れが乱れ、気血の停滞や経絡の詰まりが起こり、「髓海」すなわち脳への栄養供給が断たれてしまうと説明します。これが長期的には、認知機能の低下やめまい、集中力の低下、不眠といった症状につながるとしています。

こうしたKuo氏の観察を裏付ける研究も増えています。

2021年の調査では、元スコットランドのプロサッカー選手は一般人口に比べて神経変性疾患の発症リスクが3.66倍高いことが示されました。特にヘディングが多いポジションのディフェンダーでは4.98倍、少ないゴールキーパーでは1.83倍という差が見られました。キャリアが15年以上の選手では、リスクが5.2倍に達しています。
 

古い頭部外傷に対するマッサージの効果

人生の中で、ほとんどの人が軽度な頭の打撲や外傷を経験します。Kuo氏によれば、頭皮の定期的なマッサージは血流を改善し、滞りを取り除くことで、過去の頭部外傷の回復を助けるとされています。

具体的な方法としては、過去に衝撃を受けた可能性のある部位(隆起、へこみ、触ると痛い箇所など)を見つけることから始めます。これらは内部に緊張や血流の停滞があるサインです。見つけたら、1日に少なくとも3回、各5分程度を目安に優しくマッサージしましょう。

道具は使わず、手でやさしく行ってください。頭皮の筋肉は薄く繊細なため、強い圧は避け、軽い力で時間をかけて血流を促すのが理想です。血流が良くなると、目が明るくクリアに感じられるようになるのがひとつの目安です。

また、頭部から首にかけてのマッサージはリンパの流れを良くし、脳のデトックスや修復機能をサポートします。研究では、脳の老廃物を排出する脳脊髄液が首のリンパ系を通じて排出されることが確認されており、定期的なマッサージによってその流れをスムーズに保つことが、脳の健康維持に寄与するとされています。

不眠は脳機能低下の初期サインのひとつです。他にも視力の低下、耳鳴り、頭痛などが酸素不足による症状として現れます。定期的な頭部マッサージは、これらの症状を和らげ、脳全体の活力維持に役立ちます。
 

食事で脳を支える

脳が最適に機能するためには、安定したグルコースと酸素の供給が必要です。Kuo氏は、安定したエネルギーと血流を支えるための食生活が、脳の健康や認知症の予防に重要だとしています。

以下は彼の主な食事アドバイスです:

  • 温かい調理食を摂る:温かい食事は体内の循環を整え、冷たい食べ物のように消化のために余分なエネルギーを使わず、脳への血流を妨げにくくします。
     
  • 1日3食のバランス食を心がける:規則的な食事によって、脳に必要な栄養が安定して届きます。長時間の断食は血糖を下げ、脳細胞に栄養が届かなくなります。また、少量を頻繁に食べると消化に集中しすぎて脳への血流が減ることもあるため注意が必要です。
     
  • 主食をしっかり摂る:血糖値が気になるからといって主食を極端に避けると、脳のエネルギー源であるグルコースが不足します。適量をしっかり摂ることが大切です。
     

自然とつながることで回復力を高める

Kuo氏は、体が本来持っている自己治癒力を高めるために、自然とのつながりを大切にするよう勧めています。たとえば、「アーシング」や「グラウンディング」と呼ばれる、裸足で土や芝生の上を歩く習慣は、体内の電気バランスを整え、炎症やストレスの軽減に役立つとされています。

アーシングに関する研究では、副交感神経が優位になる自律神経の調整効果、睡眠の質の向上、そして痛みや炎症マーカーの減少といった効果が報告されています。

「松やヒノキなどの高木の下に立つと、体のエネルギーが調和し、経絡の流れが整います。すると脳も落ち着き、思考がクリアになります」とKuo氏は語ります。

(翻訳編集 日比野真吾)

英文大紀元が提供する医療・健康情報番組「健康1+1」の司会者を務める。海外で高い評価を受ける中国の医療・健康情報プラットフォームであるこの番組では、コロナウイルスの最新情報、予防と治療、科学研究と政策、がんや慢性疾患、心身の健康、免疫力、健康保険など、幅広いテーマを取り上げている。